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17.“F&N”

17.“F&N”


BGMにはビートルズが流れている。

「先輩、この車って事務長のものなんですか?」

涼子がそう尋ねた。

「いや、車はボクのだが、使わないときはタカさんに預けてあるんだ。その替わり、こういうときには協力して貰う契約でね。」

良介が答えた。

「事務長と、良介のお父様は聖都の登山部で先輩後輩の仲なのよ。」

望が付け加えた。


車は首都高速に入り、多少渋滞していたものの、三十分ほどで、目的地に着いた。店は、周りに有名高級ブランドを扱うブティックや洋風建築のしゃれたバーなどが建ち並ぶ、おしゃれで、且つ、高級な雰囲気が漂う通りの中ほどにあった。

凝ったデザインの白いフェンスの向こうに、オープンデッキのテーブル席がいくつかあり、入り口のゲートをくぐると、緩やかなカーブを上る階段になっていて、そこには黒い御影石が敷き詰められている。その奥には大きな扉があった。

扉はステンレスのフレームにブロンズ色のガラスがはめ込まれている。庇に埋め込まれた間接照明が、柔らかな光とともに、来店者をやさしく迎え入れてくれる。

扉のガラスには、アルファベットで“F&N”の文字が白いカッティングシートで貼られている。

 扉を開けて店に入ると、二人のウエイターがお辞儀をして迎えてくれた。その奥に、この店の主人と思しき女性が待ち構えていた。


彼女はシックな黒いドレスを身にまとい、妖艶な雰囲気を漂わせていた。

「お待ちしていましたよ。良介さん」

良介は右手を軽く上げて応え、みんなを引き連れて店の中へと入っていった。

店に入ると、両側に、待合室のようなスペースがあり、迎えてくれた女主人の後には、もう1枚、天井まである、大きな木製の扉があった。

 木製の大きな扉を開けて店内に入ると、正面にレジカウンターがあり、カウンターの後ろには、さまざまな種類のワインが並べられている棚がある。更にその奥は厨房になっているようだった。

店内の内装は、白を基調にした明るい空間に観葉植物のグリーンと暖色系の間接照明でアクセントがつけられている。所々に海外の有名画家の絵が飾られている…。飾られていると言うよりも、店と一体化している。おそらく、どの絵も数十万で済む物ではないのだろうと、孝太は思った。

レジカウンターを左へ進むと、通路の左側のスペースには4人掛けのテーブル席がいくつかあり、天井まであるガラス窓の外が、先ほど見えたオープンデッキになっている。

他に客の姿は見あたらない。どうやら今日は良介が貸し切りにしているらしい。

通路の突き当たりが化粧室になっていて、その手前右側にVIPルームの入口がある。

アーチ型の入口を入ると、黒いレザーを貼った分厚い扉があり“VIP”の文字が書かれた金のプレートが付けられている。

 VIPルームは30帖程もあろう広いスペースを、ボックス席が取り囲むように設置されており、中央部分はダンススペースとも言うべき空間になっていて、天井にはミラーボールがぶら下がっている。奥には小さなステージがあり、ギターやドラムセット、キーボードなどの楽器が置かれている。

更に、レーザーディスクのカラオケ機が備え付けられていて、その脇にはDJブースまで設けられている。

黒とシルバーを基調にした内装にブルー系の間接照明が調和して、リッチで落ち着きのある空間を演出している。

BGMにはイーグルスのホテルカリフォルニアが流れていた。


 部屋に入ると、氷室あすかがシャンパンの入ったグラスを掲げて迎えた。

「遅い、遅い。待ちきれなくて先にやっちゃってるわよ」

良介は、両手を会わせて「ごめん、ごめん。高速の出口でちょっともたついちゃって」と詫びると、あすかの隣に座った。

続いて望がその良介の向かい側に、高倉と鵬翔は良介達の奥隣のボックス席に並んで座った。

言うまでもなく、温子は良介と反対側のあすかの隣に陣取った。孝太と涼子は高倉と鵬翔の向かい側に並んで座った。


テーブルの上には豪華なオードブルが並んでいる。

全員が席に着くと、ママの奈津美が先ほどのウエイターを従えてドンペリニオンのボトルとシャンパングラスを運んできた。

奈津美は望の隣に座るとウエイターに合図をした。それぞれのグラスに、そのピンク色のシャンパンを注ぐと良介が立ち上がって簡単な挨拶をしたあと、乾杯の音頭をとった。

乾杯が終わると奈津美は望になにやら耳打ちした。

「それではどうぞ、ごゆっくり。」

それから、そう言い残し席を立った。向かい側の席では、あすかが望にウインクをしてみせた。





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