15.歓迎会
15.歓迎会
歓迎会は強制ではないので、父兄と一緒にお祝いの食事などをする者は、そのまま大学を後にした。
CIPのメンバーに入った温子と涼子は、それぞれ両親と母親に事情を説明し、先に帰って貰うことにした。温子の母親はすごく残念そうだったが、父親が「小学生じゃないんだから…」と母親を説得し、温子に手を振って二人で大学を後にした。涼子も母親に来てくれたことに対する礼を言うと、孝太、温子と共にCIPの部室がある厚生棟へ向かった。
部室に戻ると七瀬望が待ちかまえていた。
「さあ、これを着て!」
そう言って、高倉や鵬翔が着ていたものと同じスタッフジャンパーを手渡された。望も上着を脱いで同じものを着た。
良介は、奥の応接セットで誰かと談笑している。良介は孝太達が戻ってきたので「やあ、入学式はどうだった?」と声を掛けた。すると、良介と談笑していた女性が振り返った。その女性の顔を見たとたんに温子が興奮して声を上げた。
「きゃっ! 氷室あすか」
彼女は、今、最も人気があり、男女のツインヴォーカルが売りのロックバンド“万葉集”の女性ヴォーカルだ。温子は彼女の大ファンだった。涼子も驚いて目を丸くしている。
孝太は、彼女も“万葉集”も知らなかったので呆気にとられていた。温子と涼子の反応に満足した良介は、氷室あすかに「さすが、あすかちゃん。人気者だねぇ」と、ひたしげに声を掛けた。
望が孝太達に、「あなた達、今日はこの後、彼女のアシスタントをして貰うから」そう告げると、温子は信じられないと言う表情で孝太の肩をポンポン叩いた。
良介曰く、彼女とは遠い親戚にあたるそうで、プライベートではよく酒を飲んだりする仲なのだそうだ。
彼女は、良介の依頼で今日の歓迎会のシークレットゲストとして来てくれたということだった。
「うれし~い! 万葉集と競演できるなんて最高!」
無邪気に喜んでいる温子に、望が釘を差した。
「誰が競演するって? 勘違いしないでちょうだいね。アシスタントといっても護衛みたいなものなのよ。それに、万葉集ではないわ。今日は彼女一人なの。分かったら、さっさと支度をしなさい」
そう言って温子をにらんだ。
「すいませ~ん」
温子は望の視線を避け、孝太の後に隠れた。
「そろそろ時間だから行くわよ。良介。男の方の“ひろせ”君。君は彼女の出番が来るまで、ここで待機していてちょうだい。女の子の“ひろせ“さん達は私たちと一緒に来てちょうだい」
孝太と氷室あすかを残して、望達は部室を後にした。温子も、後ろ髪を引かれる思いで従った。
学生食堂は歓迎会に出席する新入生と、歓迎する側の在学生でほぼ満席になっていた。
食堂内のテーブル席の奥にはステージがあり、簡単な音響設備とカラオケの機械がある。
そして、壁面にはスクリーンが設置されている。
日下部良介と七瀬望はこのカウンターの前を奥のステージへ向かって歩いていく。
温子と良子も二人の後に続く。
演台の脇には高倉と鵬翔が既に控えていた。演台の前に日下部良介が立ち、マイクのスイッチを入れた。
「静粛に…」
良介が第一声を放ち、会場内が静まり返るのを確認して続けた。
「…これから皆さんの歓迎会を開催します。聖都へようこそ!本日、司会を務めさせていただくCIPの日下部良介です。宜しくお願いします。そして、このイベントの準備を一緒にやってくれたCIPのメンバー紹介します」
そう言って、良介は外の6人を紹介した。
「今日は、君達がこれから楽しく過ごしていくために先輩達が何でも教えてくれるから、遠慮なく聞くといい。それから、豪勢とは言えないが料理と飲み物も用意してある。但し、浪人して二十歳を超えた新入生以外はアルコール禁止で頼む」
ジョークを交えた良介の挨拶に会場はどっと沸いた。
「今日はみんなのために特別ゲストも控えているので、後ほどそちらの方でも楽しんでいただけると思います。それでは以後、無礼講ということで…」
良介の挨拶が終わると、会場にはアップテンポの曲が流れ始めスクリーンには聖都の各施設やクラブ活動の様子を紹介する映像が映し出された。




