14.入学式
14.入学式
門には『昭和六十年度聖都大学入学式』と書かれた看板が立てかけられていた。その付近には、真新しいスーツを身にまとった新入生とその父兄達で賑わっている。本館までの桜並木は満開となり、彼らを歓迎しているようだった。
CIPのメンバーは、講堂のステージ上で最後の調整を行っている。高倉と鵬翔はCIPのロゴが入ったスタッフジャンパーを羽織っている。日下部と七瀬望はブレザーを着ている。
日下部が、両手を頭上で大きく合わせ、○(OK)のサインを出した。
「オーケー!伸一と晃は引き続き、学食の方へ廻ってくれ。望はケータリングの確認と荷受けを頼む」
「イエッサー!」
高倉と鵬翔は声を揃えてそう言うと、歓迎会の会場となる学生食堂がある厚生棟の方へ向かっていった。望は良介をにらみ返した。
「誰に向かって物を言ってるのよ!ぬかりないわよ」
そこへ孝太達三人に近づいて来た。
「ご苦労様ね。式典が終わったら、一旦、部室に来てね」
望みは孝太たちにそう告げると、式典に出席する教授達を呼んでくるため、本館の方へ歩いていった。
「お~怖っ。君達にはあんな風になって欲しくないなあ」
良介は温子と涼子に向かってウインクをした。
講堂には、式典に出席する新入生や父兄達が、ぼちぼち入ってきていた。
「さあ、そろそろ時間だ。君達も席について。式典が終わったら部室で待機しておいてくれ」
望が教授達を引き連れて戻ってきたので、日下部は望と共にステージ脇の機械室へ入っていった。
孝太達も席に着いた。
席に着くと、温子が孝太に聞いた。
「孝ちゃんのお母様は来ているの?」
そう言って、後の方を気にしている。自分の両親の姿はすぐに見つかった。
「うちは、両方とも来ているわ」
そして、最前列の中央に陣取った両親を指し示し手を振った。
孝太は、ちらっと振り返ってはみたけれど、母親が来ていないのは分かっていた。
「うちは遠いし、仕事休めないから」
そう言って温子の両親だけを確認した。
温子の両親は品が良く、“仲の良さそうな夫婦”といった感じがした。
父親とおぼしき男性は、濃紺のダブルのスーツを着こなしている。体格が良く、柔道でもやっていたのだろうというようながっちりとした体つきだった。
母親はベージュのスーツで胸元には値の張りそうなコサージュを付けている。髪をアップにして、やや後の方で束ねている。
温子は孝太の母親の顔を見ておきたいと思ったのだが、叶わなかった。
「そっか…」
残念そうにつぶやくと、今度は涼子の方を見た。
「涼子のお母さん来てるよ」
と一人ではしゃいでいる。
マイクのスイッチが入る音がすると、ポンポンとマイクを叩いた後「アーアー」とマイクが入っていることを確認する声が聞こえた。
場内に緊張と静寂が走り、事務長の日比野貴が、開会を告げた。そして、式次第に沿って式典を進めていった。国歌斉唱、校歌斉唱、学長挨拶。
学長の宮田誠一郎は、本館のホールに鎮座する銅像にそっくりだったが、ひげは生やしていなかった。
式典は厳かに執り行われ、第一部の終了を向かえた。一呼吸置いて、静かなBGMが流れ始め、日下部良介がマイクを手にステージ上に現れた。
正面まで進むと、深くお辞儀をし、話を始めた。
「おめでとうございます。これからは在学生による第二部を開催いたします」
そう告げると再びステージの袖に引っ込んだ。と同時に、BGMが一変し活気のある曲調に変わった。すると、倶楽部のリーダーらしき人物達が一斉にステージに現れ、聖都大学応援歌を歌い始めた。歌い終わると、各倶楽部の代表が順番に自己紹介と倶楽部の抱負などを発表していく手はずになっているようだった。最初は野球部。
「野球部主将、松本直樹、今年こそリーグ優勝目指して頑張ります。皆さんの応援で盛り上げて下さい」
ステージの後のスクリーンには、発言している倶楽部の活動風景のスライド画像が流れていた。
一通りの紹介が終わると、再び日下部良介が登場し、この後の歓迎会の趣旨を説明した。
説明し終わると、マイクを日比野に返し、受け取った日比野は式典の終了を告げ、退場を促した




