表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/83

10.昨日のカレー

10.昨日のカレー


孝太の実家はアパートから電車とバスを乗り継いで、二時間半はかかる。

朝、ゆっくり起きて洗面所で顔を洗った。

パジャマ代わりのスウェット上下のまま、鍋で一食分だけ米を研いで火にかけた。炊飯器は孝太にとって贅沢品だった。

冷蔵庫…冷蔵庫はアパートに備え付けのものがあったが、今はまだ使う必要がないのでコンセントからプラグをはずしてある…からキャベツを取り出すと、少しだけ切り取り別の鍋に放り込んで、みそ汁を作った。

米が炊けると、ラーメンどんぶりによそって、みそ汁をぶっ掛けて昼食を兼ねた朝食を取った。

歯を磨いて、服を着替えるとバルコニーに出て外の空気を確かめた。今日はそれほど寒くはない。

火元を確認し、電気のブレーカーを落としてから部屋を出た。


 電車を二回乗り継いで、地元の駅についたのが、アパートを出て、二時間を少し過ぎた頃だった。それからバスに乗り15分。バス停からはバス通り沿いを進行方向に100メートルほど歩いて左に曲がると、住宅公団の団地がある。27号棟の308号室が孝太の実家だ。

昔、父親が抽選で引き当てた。当時は、この3Kタイプは結構人気があり、入居希望者が殺到した。10倍近い競争率であったにもかかわらず、見事に当選したのだ。

部屋のドアには鍵がかかっていなかった。

「ただいま」

返事はない。中には誰もいなかった。

孝太は自分の部屋…正確には自分と弟の雄太の部屋で、今は雄太一人の部屋だ…でジャージに着替え、父親の写真に手を合わせた。しばらくすると、弟の雄太が帰ってきた。

玄関のドアを開けると、すぐに孝太の靴に気が付いた。

「お兄ちゃん?帰ってきたの?」

雄太は久しぶりの…久しぶりといっても1週間かそこらなのだが…兄の姿に顔をほころばせながら、孝太に飛びついてきた。

 父親が死んでからというもの、母親の春江が働きに出ているため、雄太の面倒はずっと孝太が見ていた。

雄太はいつも、学校から帰ると団地の中の公園で、近所の子供達と遊んでいた。

春江が家に戻るのは、夜の十時頃になることもあるので、そんなときは孝太が夕食の支度をしていた。雄太もそれを手伝っていた。おかげで、小学校3年になった頃からは、カレーやハンバーグなど、そこそこのものは作れるようになっていた。

孝太は自分が大学に行けば必要になると考え、雄太が一人でも料理できるように教えていたのだ。

孝太が家を出てからは、雄太が遅く帰ってくる春江の分まで夕食の支度をするようになっていた。

「ねぇ、今日はカレー作るから、お兄ちゃんは黙って見ててね」

そう言って雄太は、炊飯器の中に残った米の量をのぞき込み、充分な量があることを確認してから、カレーを作り始めた。

「知ってる?カレーって次の日が美味しくなるって言うよねぇ?あれねぇ、早い時間に作っておいて、一度冷ましちゃうんだ。それで、食べるときに温め直すと、あら不思議!次の日のカレーになっちゃうんだよ」

ジャガイモの皮をむきながら、雄太が自慢げに話してくれた。

孝太は、受験勉強中、夜食で食べたとき、そのことに気が付いて、感激したことを思い出した。

「へぇ!良く気が付いたなぁ」

1週間離れていただけで、雄太はすごく頼もしくなったように思えた。

カレーが出来あがると、雄太は火を止めて、ちょっと出掛けてくると言い、またすぐ戻ってきた。手には焼き芋を二つ持っていた。

「それ、どうしたんだ?」

雄太は焼き芋を一つ孝太に放って、「管理人のおじさんが焼きいもやるって言うから、落ち葉かきを手伝って、二つ貰うことにしたんだ。今日は母さんも早く帰ってくるから3人で次の日のカレーを食べよっ!これ、それまでの継ぎねっ」

 二人でテレビを見ていると、玄関の扉が開いて「ただいま~」と春江の声がした。

春江は、近所の物流センターで仕分けの仕事をしていた。

「孝ちゃん、久しぶりね。向こうの暮らしにはもう馴れた?」

作業着の上着を脱いでハンガーに掛けながら、ポケットからタバコを取り出した。

雄太はカレーとキャベツのみそ汁を温め直してテーブルに出した。

春江がタバコをふかし、

「明日卒業だねぇ。母さんは仕事で孝ちゃんの晴れ姿、見て上げられないけど、ごめんね」そう言うと、タバコの火を揉み消した。

食事が終わると、孝太は、雄太と二人で風呂に入り、寝床を共にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ