繋がり
男は私に付きまとう。嫌になるほどに、馬鹿みたいに付きまとっては私の心を揺さぶりかける。それが恐ろしくてたまらないのだ。
男は俗に言う『ストーカー』である。それも性質が悪く、いつも私が家を出る時間になると当たり前の様に家の前で待ち伏せをし、しかも後ろからついてくるのだ。逃げても逃げてもその男との距離が縮まることは無く、いつも怖くて仕方がない。
夜になるといつも男は決まった時間に私に電話をかけてくる。私はそれを無視するが、その電話を取らない限り電話はいくらでもかかってくるのだ。
警察に相談しても『事件にならない限り動けない』の一点張りで役には立たず、親を心配させるわけにもいかないので言えるわけが無い。友人に言ったところで何の進展もあるわけが無い。
つまり、私は泣き寝入り状態なのである。悔しい事に、見て見ぬふりの苦しい毎日なのである。
だがそんな生活を少しでも変えなければと思い、私は朝、男に話しかけてみる事にした。
「あ、の」
やはりどうしてもどもってしまう。だってそうだろう。誰だってきっとそうだろう。
「はい」
男は軽々しく白々しく返事をした。なんなんだこの男は。まるで自分が何もしていないかのように振る舞いやがって。思わず乱暴な事を思ってしまうが、あえてそれは面には出さずにいた。
「どうして、私に付きまとうんです?」
「どうして、とは?」
それくらい聞かなくたって分かるだろう。なんなんだお前は。お前は誰で、お前は一体何がしたい。それが聞きたいという事がどうして理解しない。どうして理解できない!
積もる苛立ちを必死に押さえながら、私は男を見た。
男は身なりの良い格好をしていた。年はよく分からないが、見た感じではそう年もとっていないようだった。
「だから、その、私に、その、ストーカーをして、楽しいですか?」
怒りを抑えるのに精一杯な私はそれよりも大切な言葉を上手く言えなかった。それでも男には伝わっていたようだった。いや、伝わらなければおかしいのだが。
「ああ、そういう事ですか。そんな、心配なさらなくてもいいのに」
そんな取って付けたような返事をするなよ。誰かに殺されろ。
「簡単な事ですよ。貴方は僕で、僕は貴方だからです」
――――――――――――、一瞬、眩暈を覚えた。意識が吹っ飛ぶかのような違和感。
この男、おかしい。桁外れにおかしい。
「僕は貴方を危険から守らなくてはいけない。そうしないと、もし貴方が危害に遭ってしまったら僕にも影響が来てしまうからです。それは絶対に避けなくてはならない」
その口ぶりが私の心を怒りへと強く揺さぶった。
「そうかよ、ああそうかよ!勝手に言っていればいい!」
もう我慢の限界だった。もう私には無理だった。ちょうど手に持っていた傘で私は男を力一杯に殴りつけた。それはもう殺す勢いで……。
男の後頭部はひしゃげてしまい、そのまま男は地面に崩れ落ちた。
――――――――――――――刹那、私は後頭部に鈍い衝撃を感じた。