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脇役にフラグはない  作者: 蒼鳥
第一章
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第四話

 

「へえ……いいところじゃない」


 一足先に部室棟に到着した唯香は棟内の一室に入り、感嘆の声をあげていた。


 昼休み、小波はまだ使っている部活がないから整備もされてないと言っていたが、多少ほこりがある程度だ。

 部屋の広さも申し分ない。


 それにこの棟は縦長の構造で部屋なら溢れるほどあるから、仮に他の部活が使うようになったとしても邪魔にはならないだろう。


(これだけ空いていれば空き部屋に魔法陣を張ることもできるし……天使の動向を監視する拠点にはもってこいね)


 予想を上回る好条件に思わず頬が緩む。


「それにしても遅いわね~」

 棟内一通り見回った唯香は物音一つしない外を睨みながら呟く。


 もう唯香が着てから五分ほどたつが……いったいあの少年はなにをしているのだろうか。


 女を待たせるなんて最低な男ね、と不満を零しながら唯香はとりあえず棟の入り口で待つことにした。






 一方その頃、唯香が部室棟に付いてから十分ほどたった頃。守はようやく太陽にだまされていたことに気付き、今まで進んできた道を全力で駆け戻っていた。


「くそ、あのやろう! 正反対の方向を教えやがって!」

 道中運よく小波に会い、部室棟に行くには西口ではなく東口だと教えてもらったからよかったものの、もしそのまま気付かなかったらどうなっていたことか。


 守は明日あのペテン師に会ったらどうやって仕返しをしてやろうか、と考えながら必死に走る。


(双葉さん怒っているよなぁ……)


 無論、今さら走っても彼女を相当待たせることは目に見えている。しかしだからといって歩くわけにも行かないので、せめて気持ちだけでもと守は必死に走り続けた。






 そしてそれから数分後。

「ハァ……ハァ…………」

「………………」

 ようやく目的地に着いた守は侮蔑の視線を送ってくる目の前の少女――唯香に全力で頭を下げていた。


「遅れて本当にごめん!」

「……今までに何してたの?」

 その声を聞いた瞬間、守の背筋に寒気が走った。


 マズイ。非常に、マズイ。


 何故だかはわからないが、とにかく今の唯香は危険だ。そう彼の本能が告げていた。


(と、とにかく謝るしかない)


 咄嗟に判断した守は無意識のうちに日本古来から伝わる究極の謝罪……土下座をしていた。


「本当に申し訳ございませんでした」

「……とりあえず遅れた理由を言ってみなさい」


 溶岩でさえも凍てつく絶対零度の声色に、守の頬に冷や汗が浮かぶ。


「えっとですね……道に迷っちゃいまして……」

「へえ。転校生の私でもわかったのに、ね」

「で、ですよねー。は、ははは」

「おもちゃのくせに私を待たせるなんていい度胸ね……ッ!!」

 こめかみを押さえて我慢していた唯香もついには耐え切れず、その綺麗な脚で守の頭を踏みつけた。


 当然守の額はすごい速度で地面に激突し、守は不意打ちの激痛に思わず「イタッ!」と声を上げながら頭を上げる。


「きゃぁっ!?」


 すると余分な脂肪が全くついていない細い脚が持ち上がり、突然のことに体勢を崩した唯香はそのまま派手に尻餅をついた。


「いったぁ……」

痛みにうめき声をあげながら尻をさする唯香に、守は目を離せなかった。


 否、正確には彼女の腰回りを凝視していた。なぜなら先ほどの唯香が体勢を崩した際、スカートがめくれあがる動作をしたのだ。


 ゆえに守はそのスカートの中……男の夢が見れるのではないかと唯香の、主に腰回りを注視しているのだが――そこはさすが脇役クオリティ。めくれたスカートは最後の意地で主人のパンツを破廉恥なけだものに見せぬよう、その仕事を果たしていたのだ。


(く、くそぉぉお! おのれ守護者め! 後少し! 後少し上にずれてくれ!!)


 悲しくも淡い期待を打ち砕かれた守は、それでも諦めずに心の中で念じ続ける。


 そして念じること数秒、長い長い戦いの末神も同情したのか、ついに絶対領域の守護者が腰を上げた。


(お、おぉ――)


 しかしその夢が守の視界に入る直前で、なにやら大きな物体が立ちふさがった。


 なんだこの邪魔者は。苛立ちを覚えながら顔を上げてみると――

「……あ」


 そこには怒りと恥ずかしさから頬を朱に染め、いつの間にか髪飾りのリボンを解いた唯香と、大きな氷塊が目の前にあった。


 どうやら先ほどスカートが持ち上がったのは、彼女が立ったかららしい。


「……あなたはさっきいったいどこを見ていたのかしら?」

「あー、いや、これは男のさがというかなんというか……」

「そう……」


 無論をした変態の言い訳など最初から聞く気もない唯香は解いたリボンを握り締めながら、指先に封印が解かれた魔力を具現化させる。


 淡い光を放ちながら宙を舞っていた魔力はやがて唯香の指先に集い、収縮し、やがて氷柱つららのように先が鋭い氷塊を構成する。


 そして目の前の光景に唖然とする守に、唯香は魔力によって生み出した絶対零度の氷弾を構えた。


しゅを封じる鎖をほどきて我、誓約の下に希求する。いかなる万物をも凍てる絶対零度の力よ、片時の間、我が統制の配下で猛威を振るいたまえ――駆け抜けよ、氷雷迅ひょうらいじんッ!!」


 唯香は怒りと屈辱と恥辱と憎悪と侮蔑と――あらゆる感情を込めた声とともにめいを下し、魔力を解き放った。

 そして命を受けた氷弾はいかづちの如く大気を裂きながら守を襲う。


「……へ?」

 ようやく目の前の危機に気づいた守だったが時すでに遅し。

 魔力の一撃を受けた守の意識は、ゆっくりと遠ざかっていった。

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