第十八話
魔法を発動させた大天使を前にして、もう一体の天使の登場。それも推測するにイスラエル以上の魔力を備えているというのだから、もはや絶体絶命の境地では済まされない状態である。
守は心ここにあらず、といった様子で天使を仰ぎ、唯香もまた絶望に満ちた瞳で見上げていた。
しかしただ一人だけは絶命の危機に膝を折るわけでもなく、また勝利に確信した様子でもなく、ただただ驚愕と恐怖に目を見開いていた。
「なんで……、あんたがここにいるんだ!?」
それまで余裕の表情を崩さなかったイスラエルが、あからさまに狼狽していた。
そのことに冷静さを取り戻した唯香は酷く違和感を覚えた。
普通ならこの状況、あの天使がイスラエルの助勢にきたと見て間違いないはず。それなのにイスラエルは逆に敵が現れたかのような反応だ。
それも彼女は自身の魔法、『グングニル』を顕在させているというのに、その顔はまるで怯えているかのようだ。
そこにきてようやく唯香はあることに気がつく。
先ほど現れた天使は最初から自分たちのことなど一度も顔すら向けず、今なおずっとイスラエルを見据えていたことに。
もう終わりだと悲嘆していた心に、微かに希望の灯火がともった。
「もしかして、あの天使は私たちを救いにきた……?」
呟かれた問いに答えるように、舞い降りた天使はイスラエルに静かに警告した。
「大天使イスラエル。わたしはあなたがこの二人にこれ以上の危害を加えることを許しません」
「なッ、お前自分が何を言っているのか分かってるのか!? そもそも堕落したお前の言うことなんざ――」
「イスラエル。それ以上舐めた口を利くとどうなるか、わかりますよね?」
怒りと困惑を露わに叫ぶイスラエルの言葉を、有無を言わさぬ絶対的な威圧を持った言葉で遮ったもう一人の天使。
どうやらイスラエルはこの天使と自分の力量の差を知っているのか、悔しそうに顔を歪めながらも静かに顕在させていた『グングニル』を消滅させた。
「くそ、これじゃあ目標を喰らっても元が取れないじゃんよ……っ!」
険しい顔つきのまま、イスラエルは捨て台詞のようなものを吐きながら第二グラウンドの方へ飛翔した。
目前にまで迫っていた死の感触から解放され、ほうっと安堵の息を吐く二人。
しかし守たちを救った当の天使だけは、何かをしくじったような顔をして守たちに目もくれずイスラエルを追跡した。
「た、助かった……。結局あの天使は味方だったのかな?」
気の抜けた顔でぼやく守は、しかし唯香の深刻そうな表情を見て息を呑む。何か重大なことを見落としていたかのような驚嘆の表情で、唯香は早口に喋る。
「ねえ、あいつ去り際に『目標を喰らう』って言ってたよね?」
「あぁ、そういやそんなことを言ってた」
「そしてあいつは何故か天界に帰らなかった。それはつまり、その『目標』の下へ向かったってことに他ならない……」
謎解きをしていくように話す唯香だが、一方の守は彼女が一体なにを考えているのか分からなかった。
「天使が特定の人間を狙うことはまずありえない。あるとしたらそれはなんらかの因縁がある人物か、讐敵である悪魔と必要以上に親密な関係を築こうとした人間――」
咄嗟に冬奈のことが思い浮かんだ唯香だが、彼女と会う時などは万が一にも天使には見られることはないよう気を配っている。それに、天使たちは悪魔を少しでも減らそうとしているのであって、彼女らは貴重なエサである人間をそうやすやすと喰らいはしないはずだ。
冬奈以外には心当たりがなく、困惑そうにする唯香だったが、隣の男はどうしてか青ざめた顔をしていた。
「な、なぁ双葉さん。必要以上の関係って、ようするに友達以上ってことだよな?」
「まぁ簡単に言うならそうでしょうね。けどそれがどうしたの――」
ようやく守の意図に気づいたのか、唯香も切羽詰った様子で問い質す。
「ちょっと、あんたまさか今朝の『春がきた』って……ッ!」
「えと、まぁそういうことで……」
突然の事態に唯香は動揺を露わにする。
そう、唯香から不死身の力を貰った守は、天使からすれば悪魔扱いであるのだ。
すなわち、仮に守に告白した生徒がいるとすればそれは悪魔と親密な関係を望んだと言うことになり――。
「ま、まさかこんなただの変態キモ虫を好むやつがいるなんて……」
「そ、そこは今関係ないだろぉ!」
「はいはい、一割冗談だから」
ということは残りの九割、つまりほぼ心の底から思ってたんじゃないか、と守半泣きになりながら責める視線を送る。
しかし一気に険しくなった唯香は、もう守のことなど見ていなかった。
「けど本当にそうだとしたらイスラエルが天界に帰らなかったのも頷けるわ」
「……つまりどういうことだよ」
ふてくされたように呟いた守に、唯香は零天氷牙を消滅させ、非情な現実を告げた。
「イスラエルは天使の使命に基づいて、あんたに告白したっていう稀少な少女を喰らいにきたのよ」
「喰らいにって……それってつまり」
「そう、その少女の命が危ないのよ」
後はもう言葉はいらなかった。現状を理解した守は唯香とともに第二グラウンドへ、イスラエルを阻止するべく全力で駆りはじめた。
更新遅れてしまい申し訳ありませんでした。
そして今後のフラないに関して重要なお知らせがあります。
簡潔に申しますと、最近フラないを執筆していて、面白く書けていないと感じることが多くなりました。
今回の更新が遅れたのは、そのせいでもあります。
そして何日もかけて考えた結果、フラないは区切りのいい今回の章が終わり次第凍結しようと思います。(未公開にはしません。更新が止まります)
非情に苦渋の決断でしたが、作者である自分が「面白い」と思えていない以上書き続けていてもそれは意味のないものだと思い、凍結することにしました。
無論、自分がこのフラないを面白く書けそうだ、と思った日にはすぐにでも更新します。しかしそれはおそらく当分先の話になるでしょう。
これまで読んでくださった読者の皆様には本当に申し訳なく思っております。作品を完結させずに書くのをやめるなど、一番あってはならないということもわかっております。
しかし前作「光翼」の時にはあった、書いていて私自身が「面白い、楽しい」と感じることが最近のフラないではありませんでした。
故に、本当に申し訳ないのですが、凍結という結論に至りました。おそらく20話で凍結されるでしょう。
今後はひとまず今一番執筆意欲が沸いている新作を書こうかと思います。
もしこの新作が予想以上にいい話で書けたら、投稿するかもしれません。
そのときはまた活動報告で報告させていただきます。
皆様、このような結果になってしまい、本当に申し訳ありません。
それでもよろしければ、どうか、今後も蒼鳥をよろしくお願いしますm(_ _)m




