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脇役にフラグはない  作者: 蒼鳥
第二章
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第十七話

更新が遅れてしまい、すみませんでしたm(_ _)m


さらに今週はテスト前で更新できないと思います。本当にすみません!


受験生という立場上、「テスト」には敵わなかったり。


「その変態……やっかいね」

 怒涛の連撃を加える天使が、いらだった声で呟く。変態というのが誰を指しているのかはすぐに理解できたが、それを指摘するほどの気力は守には残ってはいなかった。


「盾になること以外使い道がないのが残念だけどね」

 その連撃をかろうじて凌いでいる唯香もまた、汗を滴らせながら応じる。


 両者とも互いに冷静に言葉を交し合う余裕があった。しかし、

「ほんと、そいつを不死にするなんて、あなたも変わった悪魔ね」

「――ッ! 不死にするもしないも、そもそもそんな状況にしたのはあんたのせいでしょうが!」

 天使の言葉が地雷を踏んだのか、突如唯香が激昂する。


「私のせい……? なに言ってるの」

「この……、とぼける気か“大天使”っ! 七年ほど前にも戦ったというのに。覚えていないとは言わせないわ」

「七年前? 残念ね、そんな昔のことなんか、一ミリも覚えていないわ」

「それじゃ……、じゃあなんでここにきた!? なんで私と戦うんだ!」

「ここに来た理由はとある人間の回収よ。けどそれだけじゃ退屈じゃない? だから“遊んで”あげたの」


 嘲笑うかのような天使の物言いに、唯香は思わず言葉を失う。


「あいつは、私との決着をつけに来たわけじゃない……、つまり私の勘違い」

 そう言って肩を震わし、悔しさと怒りのあまりうつむく唯香に、天使も氷細工のような冷たい瞳で見据えた。


「けど遊びももう終わり。“証拠”も確かにあったし、これ以上は魔力の浪費だし」

「あっ……」

 言葉とともに無駄のないスローイングで投擲された戦斧が、完全に気を逸らしていた唯香に直撃する。


「――くぁはっ!」

 咄嗟に前に出した盾(守)をも突き抜けてきた戦斧は、唯香の右腕に突き刺さり、握力を失った腕の中から零天氷牙が音を立てて地面に落ちる。


「――あぁっ! うぐぅ……」

 鋭く全身を駆け巡る痛みに、思わず呻く。


 そんな唯香に、天使は目の前に舞い降りたかと思うと、その周囲に巨大な魔方陣を展開した。

「お、おいやばくないか。あれ」

 感覚が麻痺したことでなんとか喋れた守は、天使から発せられるただならぬ威圧感を本能的に察知していた。


「――今此処に、大天使イスラエルが命じる。」


 そして発せられた一フレーズに、唯香の瞳が見開かれる。

「まずい……、真名を名乗ったということは、あいつ、『魔法』を放つつもりよ」

「『魔法』……、確か魔術とは比にならないほど膨大な魔力を行使するやつだっけか。――って冷静に言っている場合じゃねえ! 早く離れないと!」

 そういって守は唯香の方へ顔を向けるが、そこで愕然とした。


 なぜなら、先ほど戦斧に切られた彼女の右腕が、尋常じゃないほど出血していた。少なくとも、今の彼女は立ち上がって、さらに走るだけの力はもう出ないだろう。

 守はといえば言わずもがな、その両足は盾の際に切断されており、そこらの地面に転がっている。


 逃げられないと悟った守に追い討ちをかけるかの如く、天使の詠唱は続く。


「光なき無に鮮やかな鮮血を彩らせる我が魔力《狂気の力》よ。其は神々をも畏怖する刃となりて、汝の血で美しき旋律を奏でるだろう。

 大気を震わし、響き渡るは生者の叫喚きょうかん。其の刃を以って常世の平和に麗しき慟哭の鐘を鳴動させたまえ」


 天使の周囲に魔力である紅い光の粒が集まってゆく。その量は計り知れないほどであり、まさに『魔法』と呼ぶに相応しい神々しさを放っている。


 魔力の粒子はやがて主の頭上へと集う。集った粒子は主からの最後の命令を待つかの如く、天使を囲むように渦巻いていく。


「我は求む。我が望みし神々をもしいする殺戮の力を。展開アンフォールド、不可避の魔槍グングニル


 高々と下された主の命に、形を持たなかった粒子たちはやがて一つの魔槍へと変貌する。


 長さは二mを超え、天使の魔力が凝縮された必殺の穂先にはなにやら古代文字のようなものが羅列されている。全身から空気を歪ますほどのおびただしい魔力のオーラを発散させ、見るものを圧倒させる存在感に、守たちは絶句する。


「グングニル――イーヴァルディの息子たちによって精製され、北欧神話の最高神オーディンの持つ槍である彼の魔槍こそは、決して標的を射損なうことなく、敵を貫けば自動的に持ち主の手もとに戻ると言われている、まさに必勝をもたらす回避不可能の魔法槍――。他の大天使でもこのクラスの魔法は扱えない、わたしが誇る唯一無二の“最強の魔法”よ」

 目の前で呆ける者たちを見下し、愉悦に浸りながら天使――大天使イスラエルは勝利を確信する。


 もはや為す術もない二人は、イスラエルの魔法槍『グングニル』がこちらに狙いを定められるのを見ているしかなかった。


「さあ、鮮血を求め喰らい尽くせ、グングニルッ!!」


 主命を受け、古代文字のようなものが『グングニル』を駆け巡る。

 標的を定め、まさに守たちの死が必然になろうとしたその時。


 空間が、揺れた。


 比喩でもなく、本当に、揺れたのだ。


 突然の事態に、三者とも驚きを隠せぬままバランスを崩し、その場に膝を突く。

「じ、地震!?」

「いいや、違うわ! 『絶対魔法領域』は一種の別世界のようなものなの。だから地震は起きるはずがないわ」

「じゃあこれはいったい……」


 困惑に眉をひそめる守に、唯香は珍しく躊躇いがちに口を開く。


「あまり考えたくはないけど……、可能性としては一つあるわ。……いや、イスラエルにとっても予想外だったということはこれしかないか……」

 独り言のように呟く唯香は、いつに無く剣呑な表情をしていた。


「『絶対魔法領域』はひとたび戦闘が始まれば、術者である天使が許可無しでは魔力を持つ者であろうが領内への侵入は許されない」


 ただ、と唯香は強調しながら天を仰いだ。


「もし“術者の保有魔力量を超える者”ならば、その領域を歪ませて侵入することが、できるかもしれない。――即ち、大天使であるイスラエル以上の天使ならば、可能ということ」


 後半の説明はもう聞いていなかった。というか、聞く必要性が無かった。


 釣られるように天を見上げた守は、既に唯香の言葉の意味することを理解していたのだ。


 そこには腰まであるほの白い髪を揺らし、非の打ち所のない艶やかな体躯の背から純白の両翼を携えた美しい少女が、神々しさを感じさせる優美な面持ちで今ここに舞い降りようとしていた。


 その凄艶なる姿に、守は既視感を覚えながら、無意識のうちに呟いていた。


「……天使だ」


 然り。

 守たちの危機に現れた人物は、間違いようも無い、大天使イスラエルをも凌ぐ魔力を持った、本日二人目の天使だった。

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