第十六話
読者の皆様お待たせしましたm(_ _)m
予定よりも天使との戦いが長くなってしまっていますがまぁ気にしないで書いている蒼鳥です(笑
「う、うそ……だろぉ!?」
何度瞬きをしても結果は変わらない。
そこで、はたと気づく。あそこに振り返った姿勢で固まっている体の持ち主は、もしかしたら――いや、もしかしなくても自分なのではないのかと。
あまりにも不可思議で、認めがたくて、残酷で、今の自分の状況をようやく理解した守は発狂して吠えそうになる。その口を雑音が発せられる寸前に塞いだのは、唯一冷静に物事を対処している唯香の手だった。
気のせいだろうか、彼女の瞳には少しの羞恥と、溢れ出さんばかりの侮蔑と怒りの念が恐ろしいほどにこもっていた。
「あんた……何あいつの、その、あそこを見て興奮してんのよ!」
守の体――正確には首から下だけの体を指差しながら彼女は怒鳴る。
ちなみに今は守の相棒もおとなしくなったようで、隆起はしていなかった。
「あ、いや、それは……。って! それより俺の身体はいったいどうなってんだよ!?」
思わず言い訳をしようとし、それどころではないことを思い出す。
「はぁ? あんたの身体? 別に頭がとれただけでしょ?」
「“とれただけでしょ?”じゃねぇよ! 人間は普通頭が取れたりしませんよ!? いったいどういうことか説明しろよ!」
「うっさいわねぇ……。ってか悪魔も頭とれたりしないわよ」
露骨にめんどくさそうな顔をしながら、これはまだ言ってなかったけと彼女は軽い口調で話し始めた。
「簡単に言うとね、あんたと私は一度昔会ったことがあるのよ。……それも今みたいな大天使が展開した『絶対魔法領域』のなかで」
「……えっ?」
「そのとき私が戦っていた天使は、逃げる直前にたまたまあなたを見つけたの。結局私が阻止しようとしたときには遅くて、あなたは精気をその天使に吸い尽くされたわ」
「そんなばかな! 精気を吸い尽くされたんなら死ぬんじゃないのか? 昨日お前が言ってたじゃないか」
いいから黙って最後まで聞きなさい、と唯香は守を睨みつける。
「天使に精気を吸わせるだけの隙を作らせたのは、元をたどれば私のせいなわけだし……しかたないから私はあんたに自分の魔力を一部与えた。悪魔が持つ、不死の魔力を」
すなわちそれは、唯香が危篤状態になった守を助けるために自身の魔力を分け与え、助けたということになる。
あまりにも突拍子もないことを言い出す唯香に、守は目を丸くする。
昔彼女と会った覚えなんてないし、まだ会って二日しか経ってないがあの唯香がそんな行為をするわけがない。
しかし今自分に降りかかっているありえない現象と、彼女の凛々しい風貌が、守の考えに異を唱えている。
それにそのとき守に魔力が分け与えられたというなれば、この『絶対魔法領域』内で守が動いていられるという現実にも、合点がいく。
「まっ、そのおかげで私の魔力の総量が減って、『零天氷牙』の威力と不死能力が落ちたんだけどね」
締めくくるように嘆いた唯香は守の髪を引っ張り上げると、その頭をプラモデルを組み立てるように取り残された体に戻した。
「自分の首がくっつくイメージを、それが難しいなら自分の身体が完全な状態を強くイメージしなさい」
もう訳が分からない守は、言われるがままにする。
するとどうだろう、綺麗に切られていた箇所が逆再生されるように繋がってゆく。
ものの数秒で守はほんの少し前のなんの不自然も無く傷跡もない状態に戻り、首下に痛みも感じなくなっていた。
(これが魔力……)
恐る恐る自分の手で首周りを触ってみるが、どこも異変はなく、もはや切られたことすら無かったと思えるほどだ。飛び散った血だけが、先までのことが現実であると示してくれる。
先ほど守が天使にやられそうだったと言うのに、冷静な顔だった唯香の真意も納得がいった。
この不死の魔力が体内にあるおかげで、守はそれこそ天使が全魔力を込めて放つ『魔法』で浄化させられない限り死なないからだ。
もっとも、痛みだけは何割か軽減されるだけで、普通に感じるようだが。
「何でただの人間が動いているのかと思っていたけど……、なるほどね。そういうことだったわけ」
どうやら獣を見たショックから立ち直ったらしい天使も、納得顔で立ち上がる。
その瞳には先ほどまでの“遊び”が消えていた。代わりに“天使”を遥かに凌駕するにふさわしい“大天使”の威圧を纏っていた。
「ちょっと、あんたのせいであいつ本気になっちゃったじゃないの」
「んな、知るかよ! あれは不可抗力だったんだ」
「どうだか……。こうなったら天使が『魔法』を唱える前に終わらせるわよ」
深刻そうな表情で零天氷牙を構える唯香に、天使も今度は好戦的な笑みすら見せずに戦斧を構える。
空気が固まったのもつかの間、天使の躍進によってすぐに沈黙は破られた。
魔力放出を使った超速の踏み込みの一歩は、まさに全力の跳躍の一躍に等しく、唯香との距離を一瞬にして詰める。
対して唯香はどう動くのか。固唾を呑んで見守る守であったが、突如その身体が宙に浮いた。
「えっ?」
果たしてそれは唯香に引っ張られたからなのだが、その意図を守が理解する前に、天使の戦斧は振り上げられる。
唯香はすばやく零天氷牙を右手に持ち替えると、空いた左手で守の胸倉をつかみ、今まさに振り下ろされる戦斧から自分を守るように構えた。
案の定天使の戦斧は唯香の体躯に届かず、代わりに障害となった守の体をやすやすと切り裂いた。
「痛ッ!!? ちょ、うそ、俺の下半身がぁっ! なにしてんだよ!?」
「なにって、あんたを盾代わりにしただけだけど?」
見事に裂かれた自身の下半身を見て叫ぶ守に、唯香は何を今さらとしらけた視線を送る。
そこでようやく守は彼女の意図を理解した。
ようするに不死身であるこの身体を利用して、盾代わりに使おうというのだ。
「いくら不死身だっていっても痛みはあるんだぞ!」
「はあ? どうせ骨折するくらいの痛みでしょ? それくらい我慢しなさいよ。どうせそれ以外あんたまだ役に立てないでしょうが」
「うっ、それは、そうだけど……」
確かに今の守がこの戦闘でできることはなにもない。彼女の言い分はもっともである。
それでも尚反論しようとするが、無論敵もそんな暇を与えてくれるほど優しくはない。
「ほら、次の攻撃がくるわ。歯くいしばりなさい」
地面に捨てられている自身の下半身を見つめながら、守は痛みに耐えるしかなかった。




