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脇役にフラグはない  作者: 蒼鳥
第二章
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第十四話

 一方その頃守はというと、眼前で繰り広げられる熾烈な空中戦に、目が離せなかった。


 と、いうよりも“為す術もない”と言ったほうが適当だろうか。

 正直な話、自分よりも小柄な彼女たちがこれほど凄まじい攻防戦を演ずるなど、自分は今夢の中にいるのだとしか思えない。


 もっとも、こんな超常の戦いを魅せ付けられては、彼女らが人ならざる存在であると認めざるを得ないが。


「……一体俺は何をすればいいんだ」

 そもそもなんでここにいるのだろう。そういえば、それ以前になぜ天使の『絶対魔法領域』内で自分は動いている?


 目の前の入り込む隙もない光景から逃避するように呟いた後、ようやく守はそもそもの不可解な疑問に気づいた。


 ここは今唯香と戦っている天使の『絶対魔法領域』の領内だ。それは唯香が言っていたのだから間違いない。そして領内ならば今意識のある、もしくは動ける者は魔力を持つ者のみということになる。これも唯香が言ったのだから確かだろう。


 ここで当然ながら一つの矛盾が浮かび上がる。



 ならばなぜ、門脇守は動いているのか。


 無論守は魔力を扱えないし、そもそもの話、唯香に説明をされるまでその存在すら知らなかった。しかしそれでは今守が動けている理由がない。


 考えれば考えるほど分からなくなっていく疑問は、やることのない守にはちょうどいい暇つぶしとなった。


 たとえば唯香と関わったことで魔力のことを認識したから? 確かにありえなくもない話である。が、説得力には欠ける。


 では本当は魔力は使えるけど、今はただやり方を知らないだけ? いやまさか。物語の主人公ならまだしも、脇役である自分にそんな展開は待っておるまい。



 思案顔で眉間を指で押さえていた守は、そこでため息を漏らす。

 昨日今日初めて聞いた、形も知らないものの関することなど、何時間費やそうが分かるはずがないと悟ったからだ。


 突然の轟音が、大地を揺るがしたのはちょうどその時だった。


 然り。それは相手のほんの僅かな隙を見切り、疾風迅雷の如く叩き込んだ唯香の一撃がもたらした産物であり、直撃を受けた天使はその轟音を響かせながら地表に激突した。


「おいおい、魔力を扱えるやつらって皆化け物かよ……」

 思わず守が唸ってしまうのも無理はない。天使が激突した地表にはひびが入り、そこにめり込むような形で天使は仰向けになってピクリとも動かない。

アクション映画の一場面としか言いようが無かった。


「あはっ、大天使もあっけないものね。それとも私が強くなっただけかしら」

 時間にしては短かったが、今までに経験のない魔力を消費した剣戟を繰り広げた唯香は、息を乱しながらそれでも勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 その笑みがさっきの天使にも負けず劣らず嗜虐的であるのは気のせいだと信じたい。



 止めを刺すつもりか唯香は『零天氷牙』を構え直し、魔力の放出を利用してさらに上空へ飛翔。そのまま頭からダイブするように天使へと急降下する。


「これで、終わりよっ!!」

 自由落下に身をゆだね、その華奢な体躯を一本の刀と化して天使に迫るその姿は避けられるだけで自身が致命傷を負うほど守りを捨て、全てを賭した一撃必殺の構え。


 突き刺す姿勢の『零天氷牙』が、王たる獅子の如くその神威の刃で天使を捕らえようとしたまさにそのとき。

 守は半ば条件反射のように叫んでいた。


「双葉! 逃げろッ!!」


 最初唯香は言葉の意味がわからずに訝しんだが、すぐにその真意を理解した。

 そして目前の光景に、唯香は不覚にも畏怖した。



 気を失っていたはずの天使が、笑っていた。



 それもこんな絶望的な状況下のはずなのに、まるで勝ちを確信しているような笑みだ。


(これはまずい――っ!)


 本能的に不吉な何かを感じた唯香は、一撃必殺の構えから一転、魔力の放出で着地点を強引に捻じ曲げ、緊急着地の構えをとった。コンマ何秒で行った離れ業である。


 実際唯香の判断は正しかった。


 仰向けの天使と目と鼻の距離に転がるように着地した唯香は、改めて天使を見、愕然とした。


 そこには天使の姿など無く、あるのはただ一本の歪な形状をした槍のみ。それが天に向かって立っていた。


 もしあのまま仰向けで倒れているはずの天使に突っ込んでいたら――考えたくもないおぞましい結果になるところだったことに、背筋が寒くなる。



「あーぁ。惜しかったわね。後一歩のところで串刺しができたんだけどなぁ……」

 残念そうな顔で呟く少女――倒れていたはずの天使は、傷一つない格好で唯香を見下ろしていた。


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