帰り道の話
コーヒーでも飲むか、という従兄弟の申し出にぼんやりと頷いて自販機に向かう俺が随分と消沈して見えたのか、さすがに病院では自粛しているのか、いつもは鬱陶しいくらい話しかけてくる奴が黙々と隣を歩いている。
不気味、としか言いようがない。
静かな廊下から隠れるように置いてあるベンチに座ると、いつの間にか従兄弟の手に収まっていた缶のひとつが馬鹿丁寧に差し出された。
二人でむっつりとコーヒーを啜る光景は異様に思えたが病院ではそうでもないのかもしれないと思い直して、いつもと違う銘柄の―違いなんか分かる高尚な舌は持ち合わせちゃいないが―冷たい缶を空けることに勤しむ。
お互いになにも喋らなかった。俺はもともと口数の多いタチじゃないし、出てきたばかりの病室の空気がまとわりつくように重くのし掛かっているような気がしていた。
従兄弟の口が何事かを紡ぎかけて音を発せずに閉じたのも、あるいはそれ(・・)のせいだったのかもしれない。
部屋へ戻った俺たちはなんとか言い訳をして病院を辞して、彼女の両親だか親族だかはもごもごと聞き取れない言葉で俺たちを見送った。
相変わらず陰鬱な空気をひきずる二人はお互いの家へと戻ることを決めると早々に別れた。
ふと、視線を感じた気がして周囲を見渡す。
家へと向かう道は夕暮れの薄暗さからいないものまで見えそうな不気味さを醸している。
逢魔が時、というのだろうか。太陽の勢力が弱まり地球取り巻く闇が露わになる、その中間で最後の力を振り絞る強烈な光、比例するように濃くなる影、間に挟まれる固体は光に呑まれそうで影にとけてしまいそうな輪郭を揺らめかせながら耐えている。
へたなポエムのようなことが頭をよぎり、バカらしくなる。やめとこ、ガラじゃない。きっと病院の空気の名残だろうと、追い払うように頭を振って行く道を向いた。その瞬間、
女の子がはえてきた。
いや、実際にはえてきたわけじゃあない。当たり前だ。
けれども数瞬前には近くはもちろん、見渡す限り存在しなかったハズの女の子がギョッとするほど近くに立っていた。
声もでないくらいビビっている俺に、女の子は苦笑して、深く頭を下げた。