彼の話
静寂のち、悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴
中指の延長線上には人であったモノ。いやまだ過去形には早いのかもしれないが、
なんかムリそう。
ていうのが正直な感想で。
周りが混乱とか好奇心とか恐怖とか同情とか感情が溢れかえっていく。
それに吸いとられてくように普段無いほど頭が、感情が冷静だ。
上にいたイトコが隣で馬鹿みたいに慌てているのが笑えて、喉をならすと不謹慎だと殴られた。
その後の事は本当にドトーの展開でよく覚えていない。
気がついたら病室で案外傷の付いていなかった綺麗な黄色っぽくて白い顔を見ていた。
彼女だったものは何の表情もない顔で横たわっていて、鬱々としたすすり泣きのBGMが無かったら寝てるだけだと思い込めたかもしれない。
ああなんてこった!
今日はツイてなかった。
…、ツイてなかったんだ。
寝坊するし信号は全部赤だった。仕事は山積み、荷は大型ばかり、同僚の文句はうるさくて所長は自ら大事な荷物を落としやがったうえに逆ギレする始末!
イトコじゃなかったらシメてる。
落ちた先には女の子がいて、ビックリして固まってたと思ったら転けて、伸ばした手は届かなくて、、
そう届かなかった!!
彼女はアクションを起こしていたように見えたのに唐突に動きを止めた。
冷凍ビームでも当たったみたいに。
慌てて差し出した手にもふれずさわれずすり抜けて、ダンプの下に消えた。
その間の記憶は何度思い返してもスローで、まるで映画だ。
なら俺は主役か?
ヒロインを救えなかったヒーローなんてとんだお笑い草だな。
3分あればおわっちまう!
ああそういえば何の罪にも問われなかったのは主人公体質ってやつ?
とか現実逃避なのはわかってるけど、誰も俺を責めないしなのにこうやってつかめなかった腕を見せつけられてどうしたらいいってんだ。
チクショウほんとツイてない一日だよ。