1.手紙の始まり
朝、いつも通り目が覚め、いつも通り朝食を食べ、いつも通りポストを確認しに行くと、そこには一通の手紙が入っていた。普段はチラシか、支払い用紙しか入っていないポストに珍しく、手紙が入っていた。
ここだけはいつも通りではなかった。
このご時世、わざわざ手紙を送る人はいないものだと、勝手に思い込んでいたのだが、どうやら、そうではないらしい。案外、アナログ好きな人間が私の周りにいる可能性だってあるが、どうだろうか。とにかく、薄茶色の封筒に海外風のおしゃれな切手が貼ってある手紙だが、宛名がなく、『手紙』、と書かれているだけだった。一目見て手紙だと、判別できた理由はこれである。妙な厚みがあり、怪奇的なものまで感じるが、私の住所を知っている以上、何かしら関りがある人間であることは確かなので、開封を試みることにした。
藤原 神桜 様
手紙というにはあまりにも、形式すら成り立っていない、ただの書き物に過ぎませんが、ご了承ください。私はあなたを初め、二葉の写真で見たのです。一葉はあなたの産まれた年、私の元に送られてきた年賀状と一緒に同封されていた写真で、もう一葉は、あなたが中学を卒業したときにとられた写真を、親戚伝いで見た時。一度目に拝見した際には、ただの可愛い赤ん坊にすぎませんでしたが、再度目にしたころには、もうまるで別人のようになっているものですから、腰を抜かしました。赤ん坊のころには誰しもが、その子を敬い、大層かわいがるものです。当然でしょう。誰しもが平等に可愛がられる時頃ですから。けれど、二回目に見た写真に写るあなたの姿は、美しく、十六女にも満たぬ歳のころである子供からは、感じられないはずの妖艶さや、艶めかしさまで、骨の髄まで感じました。際にも後にも、同姓である私が、心の底から綺麗であると感じたのは、あなたが初めてだったわけです。不気味なほど、と付け加えてもいいでしょう。
それから、いくらかの時が過ぎ、あなたのことを紹介して頂きたいという方とお会いしました。二十前半の男です。その方とは、仕事でご縁がありまして、あなたの美貌を噂をかねがね聞いていたそうでございますから、何かと私を気にかけていました。機会をうかがっていたのでしょう。
「あなたのいとこを、紹介して頂けませんでしょう」
仕事について話していたところ、無理やり割り込むようにして、話題を変えてきたのでした。
「えぇ、まぁ、構いませんが、どのようなご用件で」
「どうもこうも、噂はあなたも知っているでしょう。なおさら親戚ともなれば」
「えぇ、知っています。が、紹介したところで、あの人は言葉すら交わさないでしょう。それに、渡井社あの人と親戚とはいえ、仲がいいわけではありません。年に数回、顔を合わせるくらいですから。それに、私はともかく、あなたが求めている彼女とは、出会えないと思った方がいいでしょう。それでもよろしくて?」
私ですら、会ったことのない彼女のことです。会ったことのない、というより、彼女の方から会うことを拒否していると言った方が正しいのでしょうが、ここでは関係のないことです。兎にも角にも、私は嘘をついたのでした。
その男は確かによく、自信家で、明らか人気のあるタイプでした。
「えぇ、構いません。一度お会いするだけでも、私はいいのです」
「そうでしたか。では、今度、親戚と外部の方を含めた会合がございます。会合と言っても、お食事会のようなものですが、あなたを招待させていただきます」
「左様ですか。ありがとうございます」
その後、数か月が過ぎ、あなたが高校三年生になって、間もなく開催された会合で、あなたを紹介したときの彼の顔は、今でも覚えています。




