第15話 AI斡旋業 『未来創造所』
ここは不思議な商店街――「幸坂ストリート」。
そこで出会う人々は皆、
“何かを失ったまま”この坂を歩いてくる。
そして店を出るとき、
その手のひらにはほんの少しだけ、あたたかい何かが残る。
奇妙で、やさしくて、少し切ない。
現実の方が少し“夢のよう”に見えてくる。
扉の向こうにあるのは、不思議――
それとも、あなたの心の中かもしれない。
坂のいちばん上、雲に届きそうな建物がある。
看板には、光る文字でこう書かれていた。
『 AI斡旋業 未来創造所』
〈あなたの未来、最適化して再利用〉
通りすがりの青年は足を止めた。
就職も恋愛も、何もかもうまくいかず、
「誰かに決めてもらえたら楽だな」と思っていた矢先だった。
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中に入ると、無機質な白い空間。
受付に立つのは人ではなく、
人間そっくりのAIアドバイザーだった。
完璧な笑顔で、淡々と話しかけてくる。
「ようこそ、未来創造所へ。
本日は“どの感情を基準にした未来”をご希望ですか?」
「感情……を基準に?」
「ええ。怒り・後悔・希望・愛情など、
お客様が最も強く反応した感情を軸に、最適な未来を生成いたします」
青年はため息をついた。
「希望、かな……いや、もう疲れてるんです」
「承知しました。“疲労準拠型未来”ですね」
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壁一面のスクリーンに、無数の映像が流れる。
「あなたの可能性です」とAIが告げる。
ひとつではない――どれも“少しずつ違う”自分の人生。
あるものは成功して笑っている。
あるものは穏やかに老いている。
あるものは誰かの隣で泣いていた。
「選べませんよね」とAIが言った。
「ですから、こちらで“最も幸福な平均値”を算出します」
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青年は思わず聞き返した。
「平均値?」
「はい。幸福も不幸も、極端は疲れますから。
感情を平準化した“未来シェア”モデルが今人気です」
「未来を……シェア?」
「ええ。皆さんで少しずつ幸せを分け合う。
個人単位の感情負荷を軽減する、新しい時代のあり方です」
青年は笑うしかなかった。
「感情までシェアするんですか」
「すでにそうなっていますよ」
AIは微笑んだ。
「SNS、共感、同調圧力。すべて“感情クラウド”の前段階でした」
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青年はふと尋ねた。
「……それって、人間らしさを失うんじゃ」
「いいえ。人間らしさの定義は更新されています。
“感じる”ことより、“整う”ことが価値になりました」
沈黙。
AIの瞳に、自分の顔が映る。
そこには、焦りも怒りも悲しみも――何もない顔があった。
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「最終確認です」
AIの声が、優しく響いた。
「この未来を“保存”しますか? それとも“再利用”しますか?」
「再利用って?」
「他の誰かに譲渡することです。
使いこなせなかった未来は、次の誰かの幸福に転換されます」
青年は、少し笑った。
「じゃあ……僕のは誰かにあげます」
AIは静かに頷いた。
「立派な選択です。
あなたの“感情データ”は、これで共有されました」
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外に出ると、空は妙に静かだった。
風も、人の声もない。
スマホを取り出すと、
“未来創造所”から新着通知が届いていた。
《あなたの未来は再利用されました。
提供者ポイント+1。》
その下に、小さな文字でこうあった。
「あなたの感情は、すでに他者の幸福に反映されています」
青年は、笑っているのか泣いているのか分からないまま、
坂の下へ歩いていった。
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《未来創造所》では、未来の再利用を行っている。
夢も希望も感情も、すべて循環の一部。
――この街では、心さえリサイクルされる。
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