第11話 観光案内所『感光』
ここは不思議な商店街――「幸坂ストリート」。
そこで出会う人々は皆、
“何かを失ったまま”この坂を歩いてくる。
そして店を出るとき、
その手のひらにはほんの少しだけ、あたたかい何かが残る。
奇妙で、やさしくて、少し切ない。
現実の方が少し“夢のよう”に見えてくる。
扉の向こうにあるのは、不思議――
それとも、あなたの心の中かもしれない。
坂の途中に、古い観光案内所がある。
けれど看板の文字は、少し変だった。
『観光案内所 感光』
〈“光の当たり方”をご案内します〉
青年は首をかしげた。
「……写真屋じゃなくて、観光案内所?」
中に入ると、地図やパンフレットが並んでいたが、
どれも地名の代わりに「明るめ」「くもり」「逆光」と書かれていた。
受付の女性が笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ。本日はどんな“光加減”をご希望ですか?」
「いや、光加減って……天気の話ですか?」
「いえ、気分の話です」
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「どこかおすすめの場所ありますか?」
青年が聞くと、女性は分厚いファイルを開いた。
中には、町の坂や川の写真が貼られていて、
どれも少し違う時間の光で撮られていた。
「同じ場所でも、朝は“希望の坂”、夜は“ため息通り”になります」
「ずいぶん印象変わりますね」
「観光とは“観て光る”ことですから」
「……うまいこと言いましたね」
「はい、言いたくて待ってました」
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青年は少し笑ってから、
「じゃあ、今の僕に合う場所は?」と聞いた。
女性は青年の顔を見て、
「今日は、ちょっと影が濃いですね」と言った。
「影?」
「昨日の疲れが残ってる光です。
坂の上の“やり直し広場”あたりがいいかも」
「名前のセンスがすごいですね」
「そこは風が強いです。
考えごとが飛んでいくって評判なんですよ」
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外に出ると、言われた通り少し曇っていた。
けれど坂を登るうちに、
雲のすき間から光が差してきた。
見慣れた街並みが、
ほんの少しだけ違って見える。
「……なるほど。光の当たり方、か」
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坂の途中で振り返ると、
案内所のガラス越しに、
さっきの女性が手を振っていた。
「今日の光、似合ってますよ」
青年は小さく会釈して、
また歩き出した。
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『観光案内所 感光』では、地図をくれない。
教えてくれるのは、“今いる場所の見え方”だけ。
行き先よりも、
どんな光で見るかで、世界は変わる。
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