2話
第二話 王女アリア視点
あの夜のことを、私は決して忘れない。
勇者様――佐藤守殿が我が前に現れたのは、昼間の謁見の間だった。
彼は異世界から召喚された英雄にして、神に選ばれし守護者。
そう、私は信じて疑わなかった。
……けれど。
彼の言葉と態度は、まるでそれを否定するかのように淡々としていた。
「ガードマンです」などと聞いたこともない肩書きを名乗り、どんな場面でも冷静沈着。
しかし――。
その実力は本物だった。
昼間、市井で暴れた魔物の尖兵を、彼は一瞬で取り押さえた。
何の魔力も放たぬまま、ただ“掴み、倒し、封じる”という流れるような動作。
私の目には、あの姿が神話に語られる戦神そのものに映った。
そして夜。
私の部屋に刺客が迫ったその時――。
彼は、まるで最初から知っていたかのように窓辺に立ち、闇に潜む敵を一撃で叩き伏せた。
「立入禁止だ」
その一言。
あの声には、抗うことを許さぬ威光があった。
王家に伝わる“威圧の秘術”を超える覇気――まさに、聖盾の加護を受けし者に違いない。
私は震えながらも、確信した。
――この方こそが、我が国を救う真の勇者。
謙虚で、冷静で、そして絶対の強さを秘めている。
彼はきっと、民を守るために神が遣わした守護者なのだ。
「勇者様……どうか、これからも私の傍で……」
その願いを口にする勇気はまだない。
けれど、私は決めた。
この方を信じ、この方にすべてを託すと。