表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「恋じゃないけど、隣にいてほしいの」

「この子、いま世界一しあわせそうな顔してる」

作者: 七星ぺろり

【おはなしにでてるひと】

瑞木 陽葵みずき・ひより

手に抱えた“クロノ”の柔らかさに、

気づけばニヤけがちで、自分でもちょっと自覚あり。

でも、小学生の「かわいい~」の声で、照れより先に笑ってしまった。

――なんだか今日は、自分が“特別に選ばれた持ち主”な気がする。


荻野目 おぎのめ・れん

ぬいぐるみを胸に抱えて歩く陽葵を、

“見守る笑顔8割・ちょっと照れ2割”の表情で見てた。

すれ違った人の視線を感じながらも、

「それが陽葵だから仕方ないよね」と納得済み。

――でも、最後に“自分もかわいいって言われた”のはちょっと想定外だった。


【こんかいのおはなし】

駅からの帰り道。

陽が少し傾いて、影が長く伸びる時間帯。

 

わたしは、

“クロノ”を胸に抱えて歩いてた。

 

ふわふわの手ざわりと、

ちょっと眠たげな表情。

通りすがりのガラスに映った自分の顔、

なんか、やけにやわらかかった。

 

「……陽葵、さっきから顔、ゆるんでるぞ」

 

「え、そっちこそ、ちょっとニヤけてない?」

 

「いやいや、おれは普通。

ぬいぐるみ抱いてる女子高生が横にいるだけで普通でいるの、わりと大変なんだけど」

 

そのとき――

すれ違った小学生グループのうちのひとりが、

ぽんっと指差して言った。

 

「あのぬいぐるみ、かわいい~!」

 

「ありがと~、名前はクロノです」

 

即答した自分に、

ちょっとだけ自分で驚いた。

でも、それ以上に、子どもたちの反応がうれしくて。

 

「クロノ~!おいで~!」

「え、動かないよ?」「ぬいぐるみだからね?」

 

なぜか軽い人だかりができかけたけど、

蓮がさっと立ち位置を変えて、

ちょうどわたしと子どもたちのあいだに入ってくれた。

 

「はいはい、“姫と使い魔”の静かな帰還なんで、お見送りだけでお願いします」

 

「ちょ、なんで使い魔……」

 

「いや、顔が完全に“魔法使いが使役してる存在”のそれだった」

 

そんなこんなで、

また少し歩いて――

わたしたちは、いつもの帰り道をのんびり進んでいた。

 

「でも、陽葵って、ぬいぐるみ持ってる姿、

ふつうにかわいいんだな」

 

「……ふつうに、ってなに。ふつうに、って」

 

「つまり、言わなくても可愛いってわかるって話」

 

そんなずるいセリフ言ったくせに、

蓮は、そのあと視線をそらした。

ちょっとだけ、耳が赤かった。

 

「……そういうとこ、ずるいって言ったのに」

 

でも、クロノは言わない。

黙ってわたしの腕の中におさまってて、

なにも言わないけど、“わかってるよ”って顔してた。

 

わたしは、そんなクロノの頭を、ぽすぽすって撫でながら、

静かな夕暮れの風に、ちょっとだけ目を細めた。

 

「……うちに、帰ろうね」


【あとがき】

この帰り道は、

“ぬいぐるみ”というファンタジーをふたりの現実に招き入れた時間。

クロノはただのぬいぐるみじゃなく、

“ふたりの間に流れた気持ち”をかたちにした存在です。

誰かにかわいいって言われた瞬間、陽葵も“それを選んだ自分”をちょっと好きになれたかもしれません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ