第九十三頁 裏側
一七三二四年六月十四日(水)
ヘルヴェティア フィッシャー人間科学研究所外 登山組vs.ミロクの裏
二人の白衣の男はアダン(バ)、ミクリと話す。
色白の男が言う。
「初対面だから名乗ろう。俺は能力科学研究室室長・ヘスス・エルナンデス。ほら、君も」
色黒の男に促した。
「うっす。能力科学研究室副室長。ラファウ・レヴァンドフスキだ」
「お、おれはアダン・バスケスでふ。よろしくおながいします」
ラファウに睨まれた気がして考えるよりも先に声が出た。
結果、噛んだ。
「済まないが、君に用はなくてね。そちらのお嬢さんに話があるんだ」
「いいっすよお。おれいないほうがいいけい?」
「レヴ。彼女に聞いてくれ」
「はい。どうだい?」
「いても、大丈夫です」
「大丈夫だそうです」
「そうか。大丈夫らしいよ!」
「きこえてますって!」
意味のない伝言ゲームが展開された。
どうにもこの中にいるとアダン(バ)は調子が狂ってしまう。
(いないほうがいい、っていってくれてよかったのに)
彼はミクリに対しそう思った。
同時にミクリがそんなことを言うわけがない、とも思っていた。
そうこうしているうちにラファウがミクリに話す。
「この前の件の結果が出たんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「結果から先に言うと……全く分からん!」
「あっ、そう……ですか……」
「期待に応えられなくて悪いね。時間もかかって」
「いえ。ありがとうございます」
「科学的な面からはアプローチできなかったことを考えると、石澤流魔導っていうのは本当に特殊なものなのかもしれないな。我々の技術不足や違う畑の可能性も否定できないんだけどね」
「そんな……調べてくれてありがとうございました」
「研究調査するのが我々の仕事なんでね。礼なんていらないよ。じゃあ行きましょう、室長」
「うん。では失礼するよ」
白衣の二人組は颯爽と帰って行った。
二人が見えなくなったのを確認してアダン(バ)はミクリに尋ねた。
話の途中から聞きたくて聞きたくてしょうがなかった。
「なんのはなしだったん?」
「石澤流魔導について調べてもらってて」
「へー」
「ここに来た日にみんなとお別れした後、頼みに行ったの」
<回想>
一七三二四年五月十一日(木)
ヘルヴェティア フィッシャー人間科学研究所 B3 能力科学研究所
ミクリは生気科学研究所でロッドとアダン(バ)と別れた後エレベーターに乗り、さらに下の階へと向かった。
目的の研究室の前に着いたのだが……
(ど、どうしよう……この扉。開けていいのかな?今忙しいかな?でも早く行かないとお昼休みになっちゃうよね。誰か出てきたくれないかな?そしたら気づいてもらえる?でもいきなり私がいたら出てくる人びっくりしちゃうかな?ちょっと離れとこう。あっ、そしたら気づいてもらえないかも。どうしよう……)
門扉を叩く勇気が出なかった。
ドア前でモジモジすること三分。
扉が開いた。
「うおっ!びっくりした。今来たの?」
中から出てきた色黒の男がミクリに話しかけた。
「は、はい!」
咄嗟に嘘をついた。
「そうか〜……中で……あっ、いや〜、どうすっか……ごめん!一瞬ここで待っててくれる?俺、便所行ってくるから」
男は小走りでどこか——高確率でトイレ——へ向かった。
二分ほどして、再び小走りで帰ってきた。
「お待たせ。じゃあ中へどうぞ!」
ミクリは無事に研究室の中へ入ることができた。
「室長ー!お客さんです!」
「はいー!今行く!」
色黒の男が大きい声で呼ぶと、奥の方から声が聞こえた。
「はい。なんでしょ……」
部屋の奥の方から出てきた男はミクリを見るなり固まってしまった。
ミクリは不思議そうに顔を傾けた。
「とりあえずこっち来てくれるかい?室長も行きますよ!」
色黒の男は上司の色白の男とミクリを連れて、会議室らしき場所へ通した。
会議室の隅にあった二人用の机にミクリと色白の男が対面し着席した。
色黒の男は二人の横で立っていた。
着席してから沈黙が続く。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「室長!良い加減しゃべりましょうや!」
「!」
座った二人は男の大声に体を震わせた。
「びっくりしたな。君が進めれば良いじゃないか」
「あんた、室長でしょうが!俺が進める方がおかしいでしょうよ!」
「君は知ってるだろ?」
「女の子が嫌いなんでしたね」
「嫌いじゃない!苦手なだけだ!それに要件があるのは彼女じゃないか。彼女が切り出せばいいんじゃないか?」
「なんで子供にそんなことさせんすか⁈俺の舎弟だったらぶん殴ってますよ!本当に!ごめんね。こんな室長で……」
ショート漫才の後で色黒の男がミクリに謝罪した。
「いいえ、大丈夫です」
「それで要件はなんだい?」
「ええと……あの……」
「話すの苦手かい?」
「……はい……」
「筆談にしよう。それなら室長もいいでしょ?」
「うん」
「紙とペンを持ってきます」
男は立ち去ろうとした。
「ちょっ、俺を置いていかないでくれ!」
座っていた男は立ち上がって言った。
「あのねえ!ガキじゃねえんですから。ゴチャゴチャ言わねえでください」
そう言った男は若干怒っているようにミクリの目には映った。
色白の男がシュンとして座り直すと、色黒の男はその場を離れた。
彼を待つ間、男は気まずそうに壁の一点を凝視して、ミクリは俯き加減で机を見ていた。
男が戻ってくるとミクリに紙とペンを渡した。同時に名乗った。
「俺は能力科学研究室副室長のラファウ・レヴァンドフスキだ」
「石澤美玖莉です。よろしくお願いします」
「はい、よろしく。室長より偉いね。しっかり名前言えて!ああいう大人になるなよ」
「あはは……」
「レヴ!うるさいぞ」
「言われたくなかったら、自分のお口でお名前を言いまちょうね!彼女に向かって」
「……」
男は口を噤んだ。
その後の筆談で、室長の名前がヘスス・エルナンデスであることが判明した。
名前を明かしたところでミクリは紙に次のように書いた。
以下ミクリとヘススの筆談での会話である。
「私、石澤流魔導っていう石澤家に代々伝わる魔導を使えるんですけど、これについて調べてほしいんです。」
「我々に頼むということはそれが能力と関係があるのかを知りたいのか?」
「はい。」
「了解した。ここの機械は好きに使って構わない。ただ俺には関わるな。守れるのであれば要求を飲もう。」
「はい。守ります!お願いします!」
「んっ」
会話が終了したところでヘススは紙とペンをラファウに差し出した。
(A4半分で終わる会話なら、口でやればいいのに)
心の底から思った。
ミクリは一礼した。
「じゃあ俺が研究室を案内しよう。本当に申し訳ない。室長は女の子が嫌いすぎて就任前までこの研究室に配属されてた女子をほぼ全員生科研(生気科学研究室)に移動させたんだよ。この研究室にいる女の子は俺の部下として働いてる数人だけだ。男臭いだろうけど我慢してな」
「は、はい」
「レヴ!俺は女の子が嫌いなんじゃない!苦手なだけだ!」
「行こうか」
「はい!」
「おい!無視するな!」
<現在>
一七三二四年六月十四日(水)
ヘルヴェティア フィッシャー人間科学研究所外
「……ってことがあって」
「へ〜。やっぱちょっとおかしいひとたちだよな?」
「そんなことないと思うよ。優しかったし」
「そうなんだ……」
アダン(バ)は彼らとは関わらないように生きとうと心に決めた。
「おい!お前たち!」
突然叫び声が聞こえた。
よく知った声である。
「定刻までにあいつらが集合場所に来てないらしい。マルコから連絡が入った。厄介ごとに巻き込まれている可能性がある」
アダン(エ)が珍しく焦りを見せながら走ってきた。
マルコは登山組を車で送っていた。
彼らは集合時間を決めていたらしく、それから二時間経っても合流できていないそうなのである。
「今からヘリを出して迎えに行く!お前たちも来るか?いや、来てくれ!」
「うん!」
二人も急いでアダン(エ)に付いていった。
次回 終了




