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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第二篇 欧州篇

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第八十九頁 男女

助走有全力直拳フルスロットルフルストレート!」


 ミロクはクウヤ目掛けて突撃した。


「?」


 ミロクとクウヤの最短距離を結ぶ直線上に誰かがいる。


 「金剛之盾ダイヤモンドシールド!」


 この声を聞いてロッドとビゼーも驚いた。

 ついさっきまで隣にいたクリスティナの声が遠離れた場所から聞こえたからだ。


 声を出す時間もなく、助走有全力直拳フルスロットルフルストレート金剛之盾ダイヤモンドシールドに当たった。


 一瞬にして金剛之盾ダイヤモンドシールドは粉々に砕け散った。

 ダイヤモンドの破片が日光に反射して、夜空を彩る星のように輝く。

 幻想的な景色であったが、それに浸る余裕はなかった。


 金剛之盾ダイヤモンドシールドだけでは助走有全力直拳フルスロットルフルストレートの勢いを完全に殺すことはできなかった。

 余った勢いでミロクの拳はクリスティナの左肩付近に直撃した。

 甲冑を装備していたため、大きな怪我にはならなかったが、クリスティナは後ろに数メートル吹っ飛び、甲冑の損傷を受けた部分は拳の型を残して窪んだ。


 一方のミロクも、世界一の硬さを誇るダイヤモンドを素手で粉砕した影響は小さくなかった。

 連続して金属まで殴ってしまったことで右手が少々痺れたのだ。


「チッ。今まで殴ってきた物の中で一番硬かったな。殴って痛かったのは初めてだ」


 右手をパラッパラッと何度か振る。


 ビゼーとロッドはクリスティナの元に駆け寄ろうと駆け出した。が、途中で何かが足を進行方向と逆に引っ張った。

 二人してこけそうになる。


「うぉっ、なんだ?」


 クリスティナの金剛之鎖ダイヤモンドチェーンだった。

 二人はクリスティナが元建っていた場所から半径十メートル以内の範囲しか移動できなくなっていた。

 無理矢理鎖を引きちぎろうと試みるも脚の方がちぎれそうになったので断念した。

 男二人の行動など視界にも入っていないクリスティナはミロクに向かって大声で言った。


「もう剣士君は戦闘不能でしよ!それ以上痛めつける必要はないじゃない!本当に死んじゃう!」


「別に構わねえよ」


「はっ?」


 信じられない、という表情でクリスティナは声を漏らした。

 ミロクの目は本気だと訴えていた。


「ここで死ぬならそれがアイツの実力だったってことだろ?」


「そんな……」


「第一、俺の目標を奪ったアイツをどうして俺が生かしておかなきゃなんねえんだ?」


「あなたの目標って人を殺すことだったんでしょ!まずそれがあり得ないって!」


 ミロクはあからさまに不機嫌な表情を作った。


「質問の答えにもなってねえ。もういい。テメエと離してても時間の無駄だ。俺は雑魚に興味はねえ!とっとと失せろ!ただしソイツだけ置いてけ!俺が殺す。その後で俺も死ぬ。テメエらは俺に不満があるんだろ。だったら俺が死ねば満足だろうよ。悪い話じゃねえはずだぞ?」


「そんな簡単に殺すとか死ぬとか!あなた、命をなんだと思ってるの?」


「そうだな……強い奴が握るもの、か?その程度のもんだろ。他に聞きてえことがあるなら全部答えてやる。だが俺の邪魔をするなら、今この場でテメエら全員ぶち殺すぞ!」


「そんな……命は、そんな軽い物じゃない!」


 クリスティナはミロクの言い分に強い嫌悪感を示していた。


「ん?じゃあ、今の自分の状況をよく見てみろ。テメエの命は誰が握ってる?もう一度考えてみろ!自分で自分の運命を決められると本気で思ってんのか?」


「あたしはそんな世界を許さない!」


 クリスティナは立ち上がった。


「テメエの感想は聞いてねえんだよ。まあ、認めたくねえってのは分からなくもねえな。俺も奴に負けた時は現実から逃げたしな。だがいずれ現実を受け止める日がやってくる。そうやって分かってくんだよ!何事も経験だ」


 ミロクはクリスティナの方へ歩いて行く。


「インディュラ弟の前にテメエから片付けてやる」


 彼女は戦闘を覚悟した。

 その時だった。


「剣・切り札! ACE of SWORDS!」


 ミロクの背後に剣が迫っていた。

 それを察知した彼は振り返りながら、まだ痺れの取れていない右腕を振り回し、素手で剣を吹っ飛ばした。


「話聞いてなかったのか?邪魔する奴は全員殺すっつったよな?死にてえのか?せっかく見逃してやるっつってんのによ」


 ミロクは飛んでゆく剣を目で追いつつ、術者に話しかけた。

 術者ロッドは語った。


「クウヤは無条件で殺して、邪魔したから彼女も殺すって?目の前で仲間に対する殺戮宣言を聞いて、危険な状態だと知りながら自分だけこの場から逃げるなんて。そんな薄情なこと、俺にはできない!自分だけ生き残るんだったら、仲間を守って死んだ方がマシだ!」


「タロット君までそんなこと……」


 ロッドにはクリスティナが憤っているのが分かった。


「命を軽んじてるわけじゃないよ。ただ、命を懸けなきゃいけない場面が今ってだけだよ」


「何……それ?」


 クリスティナには理解できなかった。


「ほ〜う。オメエみたいに熱い奴は嫌いじゃねえ。俺を満足させられるんだろうな?」


 ミロクの表情は相変わらず厳しかったが、その中でも少し柔らかくなったように見えた。


「争いは好きじゃないけど、あなたを止めるのに戦うしかないなら、俺は道徳心だって捨てて仲間を守る!」


 ロッドは右手に握っていたデッキをデッキホルダーに入れると、それを左腕に装着した。

 登山用ダウンの上からの装着だったが、長さ調節が簡単になるよう設計してもらったおかげでスマートに取り付けられた。


「いいじゃねえか!戦ってやる!その代わり、冷めるようなことしやがった時はすぐに殺すからな!」


「上等だよ!楽しむ余裕がなくなるくらい追い込むからさ」


「でかい口だけは叩くんだな。まあ、ぶっ飛ばせるならなんでもいい。早くやろうぜ」


 戦いの開始を告げるように突風が吹き荒れた。



一七三二四年六月十四日(水)

ヘルヴェティア フィッシャー人間科学研究所


「みんなげんきにしてっかなー?」


「うん。無事だといいね」


 仲間が登山をしている裏で、残された者たちは気が気でなかった。

 広々した優雅な湖を見ながらアダン(バ)が言う。


「おれたちってさ、クウヤにめちゃくちゃささえられてたのかもな」


「そうかも……」


 ミクリは答えた。


「なんかおちつかないなー」


 アダン(バ)は分かりやすくソワソワしていた。


「お取り込み中失礼するぞ〜」


 研究所の方から来た白衣の男二人組とアダン(バ)の目が合った。


「だれ?」


 彼らをアダン(バ)は初めて見た。


「あっ、おはようございます」


 ミクリは二人に丁寧に挨拶した。


「……」


「はい、おはようさん!」


 色黒の男は手を挙げて挨拶を返した。

 一方、色白の男は横を見続けていた。


「室長、挨拶ぐらいしましょうや」


「お、俺は女の子が……」


「嫌いなんでしたね」


「嫌いじゃない。苦手なだけだ」


「嫌いじゃないんだったら挨拶はしましょうや。せっかく気持ちよくなれるようにやってくれてるんですから」


「じゃあレヴ。君はジェットコースターが苦手だと言ってる人間を無理矢理ジェットコースターに乗せるのか?」


「しませんけど、挨拶を返さないのは人としてどうかしてるでしょって話ですよ」


「俺は女の子とは会話できない」


「女の子って……ミクリちゃんはまだ小学生帯じゃないですか」


「年齢は関係ない」


「……」


 色黒の男はミクリの方を見て言った。


「この前も今日もごめんね〜。この前の件の調査、一区切りついたんだよ」


「あ、ありがとうございます」


「なんかあったのか?」


 アダン(バ)がミクリに尋ねると色黒の男がブチギレた。


「あっ?なんだテメェは?俺がミクリちゃんと話してんだよ!引っ込んでろ!」


 アダン(バ)は黙って二歩下がった。


「おい!男に強く当たるな。君の悪い癖だ」


「すみません」


 色白の男が色黒の男を諌めた。

 それに対して色黒の男は足を肩幅程度に開いて、大腿に手をついて膝を若干曲げ、頭を下げた。


「ごめんよ。彼は……そういう組織のだから。上下関係に厳しいんだよ」


「そーなんですか……」


 アダン(バ)はやっとの思いで声を出した。

 その後、小声でミクリと話した。


「このひとたち、なに?」


「能力科学研究室の室長さんと副室長さん」


「なんかヤバいひとたちじゃね?」


「う〜ん……ちょっと変わってるかも?」


「えー?」


 アダン(バ)はこの場から逃げ出したかった。

次回 選手交代スイッチ

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