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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第二篇 欧州篇

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第八十二頁 実験

一七二三四年五月十一日(木)

ヘルヴェティア フィッシャー人間科学研究所地下実験室


 太陽の光が差し込み、自然の明るさを感じられた地上階とは対照的に地下は薄暗かった。電球の灯りと機械のボタンが発する何色かの光が部屋を照らしている。

 部屋の多くがガラス張りで中の様子がはっきりと伺える。


 機械の作動音が響き、落ち着かない空気を作る。

 臭いも独特で、まさに理科室だ。

 心なしかひんやりしている。

 冗談抜きに五感が殺されそうな環境だ。


「三時間連続でいたら必ず地上に上がること!いいねー?」


 エレベーター付近からエミリアの声が響く。


()()()()鬱になるから。分かったら自由行動!各々好きなとこ回っていいよ!立ち入り禁止の場所はロープで塞いであるからそこだけは入んないでー。あと走っちゃダメ。さあ!ルールを守って楽しく実験だー!」


 エミリアはスキップしながら一本しかない通路の奥の方へ消えて行った。


「案内してもらえるんじゃなかったのか?」


「確かに」


 ビゼーの呟きに一同納得した。


「ここ地下二かいだよな?」


「そのはずだよ。エミリアさん地下一階飛ばしたから」


「なんでだろ?」


「自分の研究室に帰りたかったのかな?」


 クウヤの確認にロッドは丁寧に答えた。


「こっちにちずあるぞ!」


 一方でアダンは掲示された地図を眺めていた。


「どうなってる?」


「……」


 ビゼーの問いに対する返事がない。

 しばらくして返事が返ってきた。


「じがよめねー」


「さっさと言えよ!時間の無駄だろ!さっきの沈黙!」


 ビゼーは地図に近づいた。


「えーっと……地下一階が食堂か。二階が……研究部①?能力者生体科学研究室と生気科学研究室があんのか。三階に人間科学研究室と能力科学研究室。これが②ってことか。四階は開発部、らしいぞ」


「全員で行動した方がいいよね。迷子になりそう」


「おっけー。おれもちずおぼえた!」


「じゃあどこに何があるか覚えて、施設の配置に慣れるまではアダンについて行こうか」


 ロッドの意見に全員が賛成した。


「んじゃ、手前から見てくか」


 一行は能力者生体科学研究室の敷居を跨いだ。


「来ましたか。丁度定例会も終わったところです。我らが『能力者生体科学研究室』を案内しましょう」


 五人を視認するとケビンが言った。


「ここでは主に能力者の体内について研究しています。体内と言っても内臓を開くような医学的なことではなくて、能力使用中における身体機能の変化等です。更に簡単に表現するのであれば『能力者を自覚した人が最初に気になること』を研究する場所です。『能力の小学校』という表現が私は気に入っています。他の研究室と似たような研究をすることもありますが、ここで研究していることは最も基本的のことです。皆さんが今お持ちの疑問をどこへ行ったら解決することができるか、私や当研究室所属メンバーに聞いて頂ければお答えします。私たちが調べることができることの範囲はとても広いと自負していますので迷ったら来てもらえればと思います」


「それじゃあ、早速いいですか?」


 ビゼーが切り出した。


「俺、まだ自分の能力が分かっていなくて……ここで検査すれば自分の能力のこと知れますか?」


「あまり言いたくはありませんが……私たちの知識や経験、技術を以てしてもまだ個人の能力の百パーセントを知ることは叶いません」


 ケビンは表情をほとんど変えずに話した。


「そうですか……」


「しかし、あなたの身体の状況を調べた結果から真実を共に考察することはできます。ここは研究機関ですからね。考察のスペシャリストが山ほどおります。あなたのその悩みも『晴れ』くらいになるといいですね」


「…………」


 最後の一言が引っ掛かった。


「おっと、研究者ジョークですよ。空を占める雲の割合が二割以上八割未満のときその天候を晴れと言うのです。それと心の雲とを掛けたのですよ。フフフフフフフフ……」


「あはははは……」


 ケビンから漏れ出る笑いに導かれ、乾いた笑いを届けた。

 彼は相当面白いことを言ったつもりのようだ。

 余韻を楽しみながら彼は尋ねる。


「では早速始めましょうか。他に同じようなことが気になる方はいますか?」


「はい、はい!オレも自分ののうりょくのこと知りたいです!」


 クウヤが手を挙げた。


「他には?」


「俺は結構分かってるつもりだしな……他に気になることあるし」


「おれもだいじょうーぶ!みちあんないできりゃそれでいいから!ミクリは?」


「私も大丈夫」


「承知しました。ではお二人。付いてきてください。実験のサンプルを取りがてら調査しましょう」


「はい!」


 ビゼーとクウヤは奥の部屋へと移動した。


「他の皆さんは別の研究室に行くといいですよ。ここは定員オーバー気味ですので。他の研究室でもサンプルを可及的早急に取りたいはずです」


「ありがとうございます!俺たちは他のとこに行ってきます!」


「困ったことがあればいつでも来てくださいね」


 ロッド、ミクリ、アダンの三名は能力者生体科学研究室を後にした。


 クウヤとビゼーは様々な研究・検査に付き合った。

 生気濃度をほぼリアルタイムで測定できるガラス張りの部屋に入ったり、能力使用前後の体内情報を調べる検査を行ったり、遺伝子を採取されたりなどおよそ三十項目。

 結果がすぐに出たことに二人も驚いた。


 ——クウヤの結果——

 九割九分九厘、剣を扱う能力と断定できるのだそうだ。剣を持っていない状態、納剣状態、抜剣状態での生気濃度や生気の巡り等を観察すると、この順でほとんどの数字が良くなっていったのである。


 またそれとは別の能力を持っている可能性が浮上した。

 速度強化に関する能力。

 様々な身体パラメータを丁寧に調べたところ、速度に関する項目に異常——悪いことではない。常識的に考えてという意味である——が見られた。

 クウヤ自身にも確かに心当たりがあった。

 実姉ミロクと戦った時。凄まじい速さで動くミロクを捕捉できていた。自らも同じ速度で動いていたと考えれば理屈は通る。


 経験談も踏まえて研究者らが考察したところ、隔世能力の可能性が高いとのことだった。どうやら隔世能力というものは、兄弟で同時に発現することも珍しくないらしい。

 剣と関係なく扱えるようであればほぼ確定なのだそうである。


 ——ビゼーの結果——

 他人の運や身体能力を向上させる能力の可能性が高いとのことだった。

 まず彼の能力は自身に効果が及ばない。しかし能力を付与する対象を自在に選ぶことができ、対象者の運動能力をおよそ一割上昇させる効果が見られた——運は数字で表せないので経験則から上昇しているだろうと判断した——。


 また奇妙なことに彼の生気濃度は能力者としては著しく低いが、体内の生気量が同年代同性の平均と比べ、圧倒的に多いことが分かった。専門家曰く『体内に何か飼っている』ようであるらしい。

 生気量が多ければそれだけ漏れ出る生気、所謂生気濃度も高くなるはずだが、そうなっていないのは、体内の何かが生気を食っているためだ、とこじつけのような理由が作られた。


 その圧倒的な生気量から能力の全貌が全く見えず、専門家もお手上げを宣言した。

 謎は増えたが、自分の能力の特性が見えてきたことをビゼーは大いに喜んだ。

 彼は研究結果を聞いたのち、対象者の運動能力を上昇させる自分の能力を『1.1倍上昇(パワーアップ)』と命名した。



 研究者たちも貴重なサンプル、しかも研究意義が大きいものが手に入り、非常に満足していた。

 クウヤ・ビゼーと研究員間。双方に大きな利益が生まれ、有意義な時間となった。

 彼らは能力や生気の使い方を学び、また研究のサンプルとなるため、しばらくこの研究室に通うこととなった。

次回 委託

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