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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第二篇 欧州篇

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第八十一頁 施設

一七三二四年五月十一日(木)

ヘルヴェティア フィッシャー人間科学研究所


「おかえりなさいませ!所長」


 男女二つの声と共に、二つの人影が綺麗に頭を下げた。

 女はピンクの長い髪でお団子を二つ頭の上に作っていた。背の高さも隣の男と見た目は同じくらいだった。しかしその足には厚底のブーツを履いていた。

 男はスラっとして真面目そうな雰囲気が漂う好青年といった印象だ。

 男も女も白衣を着用している。男の方はキッチリと全てのボタンを閉めて、ビシッと決めていたが、女の方は全てのボタンを開け、私服が全て見えていた。丈が短い派手な色の服を違和感なく着こなしている——運転手マルコは秘書と言いつつ、かなりカジュアルな服装だった——。


「マルコもお疲れ様ー」


 二人は顔を上げ、女の方がマルコに声をかけた。低いが、やんわりとした声だった。


「お疲れ様です!」


 彼は元気よく挨拶をした。


「お荷物お持ちします」


 男がアダン(エ)の背負っている能力者判別機を預かった。こちらは女と対照的にハキハキとした爽やかな声だ。

 背負おうとしながら男が尋ねる。


「彼らは噂の?」


「そうだ。しばらく実験に協力してもらう」


「よろしくお願いしま(ー)す」


「よろしくお願いします!」


 事実確認するや否や二人はクウヤら五人に対して挨拶をした。

 それに五人も応えた。


 この後で二人は自己紹介をした。

 男→女の順である。


「申し遅れました。わたくし、フィッシャー人間科学研究所・能力者研究部・能力者生体科学研究室室長兼研究部統括責任者、ケビン・ホリデーと申します」


「同研究所・同部・生気科学研究室室長、エミリア・ホールマンでーす」


 二人とも比較的若そうな見た目である。

 それにも関わらず二人とも『長』の肩書きが付いている。優秀な研究者なのだろう。

 やりとりやその他諸々の雰囲気から序列が

  アダン(エ)>ケビン≧エミリア>マルコ

 だということを一行は悟った。


「中に入るぞ。こいつらは薄着だ」


「失礼しました。どうぞ」


 先ほどよりは幾分かマシになっているが、まだ寒いという表現が適切な気温だった。

 アダン(エ)の言葉で事態を把握したケビンはすぐに全員を施設内に入れた。


 裏口は殺風景だった。所員用通路であるので仕方ないのかもしれない。

 アダン(エ)が口を開いた。


「所内に入る人間には受付をしてもらうことになっている。一度正面入り口側に回ってそこで受付を済ませてほしい。係のものがいるはずだ」


「では私は戻ります」


「ご苦労だった」


 全員で受付に行こうとするのと同時にマルコは持ち場(?)へ戻って行った。

 

 正面入り口側の景色はどこかの総合病院のようであった。

 入り口を入ってすぐに右左正面に分かれた廊下。どの道を見ても等間隔に、真ん中が割れて両側に開くであろう扉が並んでいる。

 廊下の突き当たりにも扉が見える。恐らくそこの前も道が左右に分かれているのだろう。

 クウヤらの目の前、右前方にはカーブを描いた受付テーブル。その奥に見えるナースステーション風の備品の配置。夥しい数のバインダーが背を向けている。

 そこに女性が一人。

 クウヤら五人はアダン(エ)に言われたとおり受付を済ませた。


 戻るとアダン(エ)が言った。


「では俺もここで離脱させてもらう。論文の執筆を急がなくてはならないからな。あとは二人ソイツらに任せる。俺から一つだけ注意事項を伝える。正面に見える扉があるだろう。あそこは所長室だ。絶対に入らないでもらいたい」


「なんで〜?」


 アダン(バ)が尋ねた。


「重要書類が文字通り山積みになっているのでな。荒らすことはしないだろうが手を触れないようにだ。それとあの中で俺は独自の研究をしている。それの関係で清潔を保ちたいからだ」


「じゃあ入らねぇ方がいいな」


 ビゼーが感想を述べた。


「話が早くて助かる。まあ入ろうにも、俺以外は入れないようにセンサーとロックが付いている。万が一扉が開いても二重扉になっていて、その内側の扉も厳重にロックがかかっているからな。部屋に入ることはないだろうが」


「私たちも平時は入らないから、近づかないのが無難だよ」


 エミリアが念押しした。


「分かりました」


 ロッドが言った。


「頼んだぞ」


 そう言い残しアダン(エ)はくだんの扉へと歩いて行った。


「承知しました!」


 ケビンとエミリアは返事をした後で一礼した。


「俺もそろそろ戻ろう。定例会議の時間だ。彼らのことを頼めるか?ホールマン君」


「はい。お任せください!」


「では、よろしく頼むよ」


「任されましたー!」


 ケビンは右の廊下を進んで行った。


「定例会議って?」


 ビゼーはエミリアに尋ねた。


「能生研……能力者生体科学研究室が隔週木曜日に実施してる、そうだなー……一言で言うと報告会みたいなもの?研究成果の進捗とか確認すんの。ホリデーさんは真面目だからねー。別に案内が嫌な仕事だからって私に押し付けたとかじゃないから安心してー」


 笑いながら答えた。


「そんなこと思ってないですよ……」


「あははー。じゃー私たちは研究所内を見てまわろーかー。右は地下に向かうエレベーターねー。ホリデーさんと鉢合わせると気まずいから上に行こっかー。左のエレベーターねー。地上と地下を行き来するにはこの受付の前を絶対通らなきゃいけないのー。この道(受付前の横方向の廊下)とー、あの道(所長室前の横方向の廊下)って実は繋がってないから。行けば分かるよー。じゃ、レッツゴー!」


 歩きながら、エレベーターを待ちながら、エレベーターに乗りながら説明が続く。


「一階は所長室と来客用の部屋と物置ねー。あんなゴッツイ扉いっぱいあんのにほとんど物置だからー!マジウケるよね⁈」


「ホールマンさん……さっきと全然違くないですか?」


 ビゼーは気になってしまった。

 最初に対面した時よりも彼女の声が高くなっている気がしたのだ。


「私普段はこんなだよー。所長がギャル嫌いなんだよねー。だから所長の前では気をつけてる。一回メッチャ睨まれたから」


「確かに。イメージあるな」


「でしょ⁈」


 ロッドのイメージにエミリアも同意した。

 本筋に戻り案内が続く。


「んで!二回が総務部の仕事場ー。見ても面白い物ないから一瞬顔出すだけねー」


「そう言えば、案内って総務部の仕事っぽいイメージなんですけど違うんですか?」


 ロッドは気になってしまった。


「あ〜、ウチの総務部さ、人が少ないから来客に人数回せないの。秘書が一人でしょー……今二人か。でもマルコには案内できないしなー。でー、経理ー、受付ー、法務ー、あと備品管理!あっ、清掃ー……七人か」


「一人ずつしかいないんですか?」


「うん。スペシャリストばっかだし、他の人雇ってもそんなに仕事ないんだって。ま、皆、能力者だからねー」


「そっか」


 クウヤも納得した。


「三階から上は寮でーす!三階の部屋結構開いてるから皆の部屋も一人一つ用意したから自由に使ってーって所長が言ってた。あっ、因みにー。お風呂は部屋に一つ付いてるけど五階に大浴場あるから行ってみなー。露天もあるよ!」


「ろてん?」


 アダン(バ)が首を傾げた。


「外風呂だ」


「えっ!なんかすごそー!」


 ビゼーの答えにアダン(バ)は目を輝かせた。


「うっし。荷物置いたら地下を案内するよー!」


 一行は再びエレベーターに乗り込んだ。



 一階まで来ると受付の前を通過し、別のエレベーターに乗り替えた。


「地下は研究部と開発部のエリアねー。実験部屋とか能力関係の部屋・機器はぜーんぶ地下にあるよー。所長から好きに使わせろって言われてるから、気になる物あったら言ってー。一日で全部やるのは体力的にも不可能だろうからほどほどにねー」


「はい!」


「あとこんな物があったらうれしーなーとか便利だなーって思う物があったら、遠慮なく開発部に提案してみてー。私たちの頭だけじゃ考えもつかないものがあるかもしれないしねー」


「分かりました」


 概要を聞いているうちにエレベーターの到着音がなった。

 エレベーターが開くと彼らの目の前には見たこともない光景が広がっていた。

次回 実験

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