第七十七頁 出国
一七三二四年四月二十日(木)
大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア 某民宿
「来たか」
来るのが分かっていたかのような反応だった。
「勝手だったが研究のために使わせてもらった。礼として掃除はしておいた」
「ありがとう……」
「さあ、行くぞ!」
アダン(エ)はクウヤに剣を渡すとクルリと向きを変えた。
展開の早さに一同は拍子抜けしてしまった。
感謝の言葉こそグダグダになってしまったが、クウヤはピカピカになった剣を受け取り、大満足だった。
「どうした?行かないのか?」
「行く!」
全員足取りは軽やかだった。
一行は旅を再開した。
一七三二四年五月十日(水)
大米合衆国・ブラジル州 サンパウロ グアルーリョス国際空港
サンパウロの街はブラジリアよりも賑わっていた。
一行はこの街で衣服やその他必要物資を買い足した。
全ての準備を終え、空港へ来た。
「うわ〜!広〜い!」
「うわー!ひろーい!」
「騒ぐな!恥ずかしい!」
生まれて初めて目にする広大な施設にクウヤは唸った。
今回はアダン(バ)も一緒に感動している。
ビゼーが注意するのも恒例行事だ。
ロッドとミクリは空港の広さに声を失っていた。
(これから大丈夫か?)
ビゼーとアダン(エ)は一抹の不安を覚えた。
一行はチェックインを終え、荷物の検査を行う。
その直前、ビゼーはあることに気づいた。
「クウヤ!その剣どうすんだ?」
「?」
お前は何を言ってるんだ、という顔をしている。
「検査引っかかるよな?」
ビゼーはアダン(エ)の顔を見て尋ねた。
「当たり前だ」
淡々と答えた。
「えっ!もってっちゃダメ?」
「そういうことになるな……」
ビゼーは呟いた。
クウヤは青ざめた。
「どうすんだよ!これもらいものなのに!」
「アダン、クウヤの剣、申請出してないのか?」
「俺の持ち物でないものになぜ俺が時間を割かねばならない?出国の日は事前にお前たちに伝えていたぞ。自分のことくらい自分でなんとかしろ」
ビゼーの問いにアダン(エ)は冷たく突き放した。
正論であることは明白だ。誰も口答えできなかった。
「俺は先に行っている。定刻まで二時間ある。どうするか考えろ」
アダン(エ)は一人で歩いて行ってしまった。
「酷くない?ちょっと……」
ロッドが呟く。
「くにからでるのってそんなきびしいのか?」
アダン(バ)が尋ねた。
「時代もあるだろけど、刃物に関しては時代がどうこうとかいう問題じゃなく普通にアウトだ」
「つうか、考えるも何も二時間じゃどうにもなんねぇよな。申請なんて何日も前からしてないと駄目だろうし……アダンについていくのを諦めるしかねぇだろ」
「ここまできて?」
アダン(バ)は絶望の表情を見せた。
「剣だけなんとかなればいいんだよね?」
ロッドが尋ねた。
「あぁ。剣だけ……あぁ?待て、お前ら。パスポートは?」
ビゼーはイエスと言い掛けてまた気づいてしまった。
「何それ?」
ミクリも含め四人が仲良く声を揃えた。
「終わった……俺ら出国できねぇよ」
ビゼーは頭を抱えた。
「どういうこと?」
ロッドが尋ねた。
俯いたまま頭を掻き、ビゼーは答えた。
「どういうことって……出国の際に有無を言わさず百パー必要なものだよ、パスポートってのは……はぁ、時代もあって発行までにはどうやったって一ヶ月以上かかるし、相応の理由がないと発行もしてもらえない」
「詰んだってこと、だよね?」
ロッドは恐る恐る尋ねた。
ビゼーは気持ち程度に首を動かした。
「マジかよ〜。行きて〜よ〜!がいこく〜……」
クウヤの心の叫びが表に出ていた。
「んなこと言ったって無理なもんはm……」
ビゼーは途中で止まった。
どうしたの、とロッドが尋ねると俯いていた顔を上げて言った。
表情は曇ったままである。
「相談してみるか?」
「?」
四人は目を点にした。
数分後、ジャックが現れた。
「この前、別れたばっかだよな?ヘビーユーザーすぎねぇか?」
文句を言いながらの登場だった。
「このペースでヘビーユーザーって言われたらどうすればいいんですか?一シーズンに一回とかじゃないですか」
ビゼーは反論した。
「そんなもんだったか?もっと会ってるような気がしてよ。で、要件は?」
ジャックは突如として仕事モードに入った。
「その……空港まで来てアレなんですけど……コイツらがパスポートないみたいで……なんとかなりませんか?」
「なるわけねぇだろ!頭とち狂ってんのか!」
食い気味に激怒した。
ジャックは一つため息をつくと、落ち着いたトーンで話を始めた。
「普通なら諦めろって言うところだ。俺じゃどうすることもできねぇしな。ただお前らからの依頼だからな……時間はあるか?」
「あと一時間半ちょいです」
「ったくよぉ。分かった!待ってろ!時間内には帰ってくる」
そう言い残し空港の出入り口の方へ走っていった。
言われた通りジャックの帰りを待つことにした。
一時間後、再びジャックは姿を現した。
「なんとかなったぞ!感謝しろよ!大変だったんだからな!」
散々文句を垂れながら、一人一枚紙を渡した。
いかにも高価そうな素材の紙だった。文字が書いてある。
「なんですか?これ?」
ロッドが尋ねた。
「パスポートの代わりだ!『特別渡航許可書』つってな。出国手続の時や入国審査と時に提示すりゃ無条件で入出国できる」
「すげ〜!ありがとうございます!」
クウヤはとても喜んだ。
対照的にジャックは怒った。
「最後まで人の話を聞け!この特別渡航許可書の有効期限は十年間だ。それまでに旅を終えること。回数制限はねぇから。そこは心配すんな。で、一番重要なことだ。再発行不可だからな!絶対失くすんじゃねぇぞ!分かったか、クウヤ!」
「なんでオレ⁈」
突然名指しされて心臓が飛び出そうだった。
「お前が一番怪しいからだ!」
「それならあだんのほうが!」
「は?クウヤよりおれのほうがマシだろ?」
「どっちもどっちだ……」
醜い争いを終わらせるためビゼーが横槍を入れた。
鎮火したところでジャックは話を再開した。
「あともう一つ。外国で妙なことやらかすなよ!ちょっとのことですぐ失効すっぞ」
「ちょっとのことって?」
クウヤが聞いた。
「犯罪はもちろんだが、怪しい奴と繋がったりだとか知らず知らずのうちに厄介ごとに巻き込まれたりしても問答無用だからな。危機回避のアンテナだけは立てとけよ」
「わかりましたー!」
クウヤは元気に返事をした。
(本当に分かってんのか?)
ジャックは心の中でかなり怪しんだ。
しかしそれを責めるようなことはしなかった。
ここでビゼーがジャックに尋ねた。
「これ、俺のもあるんですか?おれ、パスポートありますよ」
ジャックはビゼーがパスポートを持っていることは知らなかった。
「お前は持ってたのかよ!……じゃあ、それとパスポート一緒に見せとけ。印象は結構良くなるからよ。ただ、失くすなよ!」
「分かりました。ありがとうございます」
ビゼーは礼を言った。
「っとまあ、そんなわけでそれでなんとかなるだろ!俺はこれで……」
「すみません。あともう一つ……」
「まだあんのかよ!」
帰ろうとしたところをビゼーが呼び止めた。
「クウヤの剣、持ち込めないんで預かっててもらうことはできますか?」
「……分かった。あんまでかい声では言えねぇが、着いたら届けてやる。向こうの空港の外で待ってろ」
ジャックはクウヤから剣を受け取った。
そしてすぐに帰っていった。
「ジャックさん、俺たちの行く場所知ってるのかな?」
ジャックの姿が見えなくなってからロッドが言った。
「たしかに……」
全員で言った。
「それ、ジャックさんがいる時に言ってやれよ」
「ごめん、今思ったんだよ」
ビゼーの尤もな発言にロッドは反省した。
しかし気づかなかった以上は仕方がない。
「よくあるよなーそういうの!」
と、アダン(バ)も笑っていた。
しかし出国に関する問題は全て解決した。
出発まで時間がない。
全員でアダン(エ)の元へ急いだ。
ジャックの言う通り出国の手続きはスムーズに終えることができた。
「来たか。お前たちならどうにかすると思っていた」
アダン(エ)は機体の前で待機していた。
「意地悪が過ぎるぞ、アダン!」
「そうだ、そうだ!」
ビゼーの言葉にクウヤが同調した。
「意地悪?そんなつもりはないが?自分の体裁は自分で整える。常識だろう?」
悪気ない顔で言った。
「そうかよ……」
埒が明かなくなると思ってそれ以上何も言わなかった。
いよいよ出国の瞬間だ。
全員、席につきシートベルトを締める。
準備が済むと管制塔の指示に従って機体が動き始めた。
少し走って一度停止する。
再び動き出すと、機体は驚くべき速さで浮き上がっていた。
「わ〜!」
浮遊感を覚えて、ビゼーとアダン(エ)以外は感嘆の声を上げた。
(誰も見てねぇし聞いてねぇから今回はいいか)
ビゼーは優しく見守ることにした。
彼らは遂に大米合衆国の地を離れた。
新たな土地ではどんな旅が待っているのか。
クウヤは新天地・欧州連合国を心待ちに、飛行機に揺られた。
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