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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第一篇 大米合衆国篇〜ブラジル州〜

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第七十六頁 決意

「鍵来たよー!」


 ロッドがホテルの従業員を連れて帰ってきた。


「申し訳ないです」


 ビゼーは謝った。


 「よくあることですから」と従業員は温かい笑顔を見せながら応えた。

 マスターキーによって鍵が開けられた。


 開かずの扉が開くと中から陰気のこもった生気が飛び出してきた。

 昨日浴びたミロクの禍々しい生気とは明らかに質が異なるものだった。

 そこにいるだけで無気力を誘う鬱々とした生気。

 しかし具合が悪くなりそうな感じだけは共通していた。


 ビゼーは部屋に入った。

 生気と同じく薄暗い。

 廊下からの光が微かに部屋を照らした。

 奥へ進むとベッドの上で体育座りをしているクウヤを発見した。

 太腿と上半身が作り出す空間に鼻から下を埋めている。


「おい!いるなら返事しろよ!」


「……」


 クウヤは近距離で話しても返事はせず、目も合わせなかった。

 ビゼーは質問を続けた。


「何、ウダウダしてんだよ!」


「……」


「その調子じゃニュースも見てねぇだろ?伝えなきゃならねぇことがある。ミロクさんの遺体が消えた」


「——!」


 クウヤは顔を上げた。

 目を見開いていた。

 しかしすぐに元の姿勢に戻ってしまった。


「気にならねぇのか?」


「……」


「気にならねぇのかって聞いてんだよ!」


 ビゼーは怒鳴りつけた。

 それでもクウヤの反応はなかった。


「テメェ!いい加減にしろよ!」


 ビゼーは座ったままのクウヤの頭を掴んで後ろへ飛ばした。

 クウヤは膝を立てて寝た状態になる。

 ビゼーはクウヤの胸ぐらを掴んで馬乗りになった。

 さすがに二人の目が合う。

 ビゼーは凄んだ。


「あんだけ止めたよな!俺だけじゃねぇ!ロッドも!ミクリも!アダンも!皆止めた!それなのに!言うこときかねぇで勝手なことばっかやってたのはどこのどいつだ!」


「……」


 クウヤは目を逸らし、沈黙を貫く。


「ったく。後悔すんなら最初っからやんじゃねぇよ……ミロクさんの遺体、探す探さないはお前に任せるけどよ!旅を辞めるとか言うなよ!俺たちはお前についてきたんだからな!」


「……」


「なんか言えよ!」


 ビゼーは今までで一番大きな声を出した。

 クウヤはようやく重たい口を開けた。


「おまえらが……おまえらがかってについてきたんだろ?」


 ——ドゴッ!


 ビゼーは反射的にクウヤの顎の左側を生気を込めて思い切り殴った。

 クウヤの顔の位置が正面から少し右に向いた方にずれた。


「ふざけんじゃねぇ!自分勝手なこと言いやがって!そんな奴だとは思わなかったよ……」


 ビゼーはそう吐くと、掴んでいた胸ぐらを離した。

 ビゼーはクウヤの元から去っていく。クウヤの死角に入る前に「二度とそのシケた面見せんじゃねぇぞ」とだけ言い残した。


 ロッドは扉の鍵がまた閉まらないように入り口の扉を押さえていた。

 ビゼーは声をかけた。


「ありがとう。ロッド。もう大丈夫だ。しばらくはこの部屋には来ねぇ」


「いいの?」


「あぁ、お前もあいつに言いたいことあったら言ってこいよ」


「さっき全部君に言われたよ。二回も言う必要はない」


「悪ぃ……」


「大丈夫」


 ロッドは扉から手を離した。

 カッチャンと扉が閉まり、ギョルルルと音を立てて鍵がかかった。

 二人は自分たちが昨晩眠った部屋に帰っていった。


 再び暗くなった部屋でクウヤは考える。


「オレはどうすればよかったんだ?」


 思考が迷子になっていた。

 恨んでいる人間を殺した時はもっと清々しい気持ちになると思っていた。

 人を殺すことがこんなにも心を壊すなどとは想像できなかった。

 罪悪感と後悔だけが時間に比例して大きくなっていく。

 この気持ちを晴らす方法も考えられなかった。


 クウヤは真っ暗な部屋で自らの心の暗がりと向き合い続けた。



一七三二四年四月十七日(月)

大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア 某ホテル


 アダン(エ)はビゼーらが宿泊する施設に突然フラッとやってきて、言伝をした。

 とても重要な内容だった。


「そろそろ研究所に戻らないと渡航許可の期限が切れてしまうんだが……」


「とこーきょか?」


 アダン(バ)が聞こえた単語を繰り返した。

 この場にはビゼー、ロッド、ミクリ、アダンが二人。所謂クウヤ以外のメンバーが揃っていた。

 アダン(エ)は説明した。


「外国に長期滞在する際は、居住する国に申請しなければならない。俺の許可された期間は半年だ。五月三十一日に期限が切れる。そろそろ研究所に戻らないと取り返しのつかないことになる」


「ごがつさんじゅういちにち?あといっかげつあんじゃん!」


「そうかもしれないが、お前らは徒歩で旅をするんだろう?この場から速やかに帰還できるわけではない」


「そっか」


 アダン(エ)の説明にアダン(バ)は納得した。


「で、どこまで行かなきゃいけねぇんだ?」


 ビゼーが尋ねた。


「ここより更に南方にある都市・サンパウロ。南米地域最大の都市だ。そこにある南米地域最大の空港・グアルーリョス国際空港にチャーター便を用意して帰国する必要がある」


「チャ、チャーターって!」


 ロッドが驚いた。


「すっごいごうかなやつだよね?」


 ミクリは驚きながらも目を輝かせていた。


「そーなのか!」


 それを聞いてアダン(バ)も目をキラキラさせた。


「何か勘違いしていないか……」


 アダン(エ)はそっと呟いた。


「そ、それで、万が一の事も念頭に置いて早期に行動を開始したいのだが、お前たちも来るか?」


「行きてぇ……けど……」


「クウヤが……」


「アイツが来ねぇと俺は動けねぇな」


「俺も!」


 ビゼーとロッドは言う。

 ミクリとアダン(バ)は首肯した。


「そうか。一週間以内には出発したい。それまでに準備が整わなければ俺は一人で行くぞ。チャーター便が停まれるかも予測できないからな。何処どこぞの何奴どいつに暇を出したせいで面倒なことが起きてしまった」


 アダン(エ)は去っていった。


「用意してってそういうことか……」


 ビゼーは急ぐ理由を察した。


「クウヤ、もどってくるかな?」


 アダン(エ)が聞く。

 とても心配していた。


「俺らから言ったって仕方ねぇ。自分で決めて戻ってくるのを待つしかねぇよ」


 ビゼーはキッパリと言った。

 彼らにはただ信じて待つことしかできなかった。



一七三二四年四月二十日(木)

大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア 某ホテル


 いつものようにミクリが勉強し、珍しくアダン(バ)も机に向かっていた。

 ビゼーとロッドが先生役をしていたところで部屋をノックする音が聞こえた。

 ビゼーが扉を開けると思わず声が出てしまった。


「おっ……」


 クウヤだった。

 かなり痩せたように見受けられる。

 顔を見せるなり、申し訳なさそうにクウヤは言った。


「ごめん!オレを旅につれてってくれ!」


「……」


 一同沈黙した。


「きのう、ジャックさんがきゅうにへやにきてさ。言われたんだ。『お前にしかできないことが山ほどあるだろ』って」


 ジャックがどうのこうのという話には多少なりとも思うところはあったが、ビゼーは笑いながら言った。


「馬鹿野郎……俺らがお前を連れてくんじゃねぇ。お前が俺らを連れてくんだろ」


「おかえり!クウヤ」


「まってたぞ!」


 男性陣からは復帰を祝う言葉を掛けられた。

 ミクリはチョコチョコと駆け寄ってきて、クウヤの腰あたりに手を回し横から抱きついた。そしてクウヤの脇腹に顔を埋めた。


「ごめん!みんな!オレ、なんで父ちゃんも母ちゃんも、アネキも死ななくちゃいけなかったのか知りたい。そのために旅をつづけたい!」


「理由はなんでもいい!続けるなら誰も文句は言わねぇよ!」


 他の三人も微笑みながら首を縦に振った。


「ありがとう!」


 クウヤも笑顔になった。いつも通りの晴れやかな表情だ。


「そしたらアダンのところへ行こう!クウヤの剣もそこにあるよ!」


 ビゼー、ロッド、アダン(バ)は駆け出した。

 クウヤもロッドの言葉に従おうと一歩目を出そうとした時、ミクリがクウヤの服を引っ張った。


「うん?」


 彼が彼女を見ると犬のキーホルダーを差し出していた。

 いつの日かミロクから受け取った物だ。


「お姉さんの形見。私が持ってても意味ないと思う」


「サンキュー」と一言添えて、クウヤはそれを受け取った。


 二人はビゼー、ロッド、アダン(バ)を追うようにして、アダン(エ)の宿泊する民宿へ向かった。

次回 出国

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