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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第一篇 大米合衆国篇〜ブラジル州〜

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第七十四頁 崩落

 ——ダッ。


 二人は同時に地面を蹴った。

 そして同時にジャンプした。


死刑執行エクスキューション!」


「だりゃぁぁ〜!」


 ——放物線の線の頂点で二人は交錯した。


 互いに相手が踏み込んだ位置にそれぞれ着地した。

 クウヤは着地を決めてすぐにミロクの方を振り返った。

 クウヤの手に剣は握られていなかった。


 一方のミロクは体を丸めており、足をついて着地していた。

 数秒ほど着地したままの姿勢でいたが、その後徐々に右に傾いていき、やがて右半身から床に倒れた。

 彼女の左胸にはクウヤの剣が深く突き刺さっていた。

 ミロクが倒れたのを見てクウヤは彼女に駆け寄った。


 それと同時に場内を包んでいた禍々しい空気が晴れていく。

 二階にいた三人もすぐに体を動かせるようになり体調不良は跡形もなく消え去った。

 ずっと立ち続けていたアダン(エ)が三人の中で最も早く姉弟きょうだいの元に駆け寄った。心なしか焦っているようにも見える。

 ビゼーとロッドも起き上がるとすぐに皆の集まる方へ駆けて行った。


「なにしてんだ!てめえ!ふざけんな!立てよ!もっかい立て!」


 クウヤはミロクに怒鳴った。

 ミロクは小さな声で返す。


「……何、言ってんの?決着は、ついた。あなたの、勝ちでしょ?」


 クウヤは思い切り首を横に振った。

 彼のはらわたは煮えくりかえっていた。


「あんなのノーカンにきまってんだろ!やりなおしだ!」


「無茶、言わないで。この有様で、動けるわけ、ないじゃない」


 ミロクは掠れた声で言う。

 刃物が体に刺さっていて苦しいはずであるが、表情は緩んでいた。


「オレはみとめねえぞ!ぜったいみとめねえからな!」


「認めないも何も、私、こんな状態なんだよ。それに、あなたは、私を殺すことを、目標に、してたじゃない?このまま、放っておけば、私、死ぬんだよ。もう少し、喜んだら?」


「よろこべるわけねえだろ!」


「クウヤ!何があったんだ?」


 怒り狂うクウヤにビゼーが事情を聞く。


 クウヤ曰く、二人が交錯した瞬間、互いに突きを繰り出そうとしていた。

 しかしミロクは突く瞬間に中指の大剣ミドル・バスタードソードを解除したという。

 したがってクウヤの突きだけが決まった。

 さらにミロクはクウヤの左肩をポンと叩いたという。


「ふふ……お父さんの子だもんね。目標達成の瞬間を、自分の目で見ないと、素直に、喜べないか」


 ミロクは笑顔だった。


「だからそういうもんだいじゃねえっつってんだろ!オレは本気のおまえを……」


「私、本気、出したよ。左腕、使ったし。音速ソニック、使ったし。久々に運動したー、って感じ」


「さいごののどこが本気なんだよ?」


「あなたには、本気に見えなくても、私は本気だった。っていうかさ、ダメじゃん、クウヤ。剣士が、剣を離したら。いくら、刺さっちゃったからって、刺しっぱなしにしたら、武器が、なくなっちゃう。ちゃんと、抜かないと」


「うるせーよ……」


「次からは、気をつけなさい」


「だまれ……」


 クウヤは目に涙を浮かべていた。


「なに泣いてるの?私を、恨んでたんでしょ?」


「うらんでた!でも、なんでだ?わかんねー……」


 恨んでいた。確実に。殺したいほど憎んでいた。

 しかしなぜだろうか。

 目の前にいる瀕死の姉を見ていると理由もわからず涙が溢れてくる。

 この現象を説明できないのだ。


「不思議な子だね」


 クウヤの感情が変化してもミロクはずっと笑っていた。


「はっ、きゅ、きゅうきゅう車!ビゼー、きゅうきゅう車!」


「あ、あぁ!」


 ビゼーは携帯端末を取り出そうとした。


「やめなさい!」


 ミロクは気力で大声を出した。

 それによって傷口から血が溢れ出る。

 ビゼーはまた気分が悪くなった。

 戦いの最中に感じたほどではなかったがミロクの生気を当てられると厳しい。

「はぁ……救急車、とか……警察、とか、そんなの、呼んだら、クウヤが、捕まっちゃう……」


 大声を出す前よりも声量がなくなっていた。


「ひとのしんぱいより自分のしんぱいしろよ!」


 クウヤは涙を流しながら怒った。


「私は、いいの……」


 ミロクは囁くような声で喋った。


「え?」


「私が、生きてたって、しょうがない……私の、この手は、色んな、汚い、血に、まみれて、もう、元の、色には、戻らない……から。綺麗に、洗い流して、元の、綺麗な、手を、見ようなんて、できない、から……」


「もうしゃべんな!ビゼー!いいからきゅうきゅう車!」


「呼んじゃだめ……これは、クウヤが、望んだ、結末。私が、死ねば、クウヤは、私の、ことを、考えなくて、よくなる。これからは、何も、気にしなくて、いい……」


 ビゼーはトロッコ問題に直面してしまった。

 本家のものとは多少違うが、まさにそれである。

 怪我人を救うことを選べば、彼女をほぼ確実に救うことができる。大怪我だが、彼女の生気等、様々な観点から考えても救命成功はまず間違いない。しかし、仲間が檻の中に拘束されてしまう。

 本来ならこちらを選ばなければならないことをビゼーは分かっている。

 しかし、加害者は能力者だ。捕まったら何をされるか分からない。しかもその加害者は自分の矛盾した考えを正し、新たな境地へ導いてくれた恩人である。簡単に見捨てることはできない。

 だからと言って加害者を救えば、怪我人を見捨てることになる。しかし怪我人は能力者だ。苦しむ能力者を見捨てることは自分自身の信条に反することである。それを恩人の前で破ることなど断じてできない。

 激しく葛藤して、携帯端末を持った腕を脱力した。


「ビゼー!」


「賢明な、子だね……」


「悪ぃ……クウヤ……」


 ビゼーはギュッと携帯端末を持つ手に力をこめた。今にも画面にヒビが入りそうだ。


「でもビゼー、ここで救急車呼ばなくてもほっといてミロクさんが死んじゃったら警察沙汰になるよ!」


 ロッドが忠告した。


「その、心配は、いらない……」


 ミロクが言う。


「私の、心臓が、止まってから、ちょうど、百秒後、この城は、壊れる。爆発、するの。頼んで、あるから。ここで、私が、死ねば、建物ごと、私も、粉々。証拠は、何も、残らない。黙ってれば、クウヤが、捕まる、ことは、ない」

 どうやら以前の決闘でミロク側の見届け人だった男の一人が爆発に関する能力を持っており、万が一に備えて能力を施してもらっていたらしい。


「私が、死んだ方が、都合いい、でしょ?」


 ミロクはクウヤに問いかける。

 クウヤは首を横に振った。

 ミロクは困った顔をした。


「言ってることが、違うじゃない」


 ミロクは一度目を閉じた。


「おい!」


 クウヤは叫ぶ。


「ふふ……長めの、瞬きだよ。ねぇ、お姉ちゃんからの、最期の言葉、聞いてくれる?」


 クウヤは首を横に振った。


「ありがとう」


「おい!きくなんて言ってね……」


 クウヤの言葉に聞く耳を持たなかった。


「ごめんなさい。約束、守れなくて。あなたが、気に病む、必要はない。私は、こうなる、運命、だったの。弟に殺されるなら、本望だから。私が、全部、悪かったんだから。私のあとを、追おうなんて、考えないでね?私と、違って、あなたには、やるべきことが、残ってるんだから。生きて、たくさん、人を、救って。あと、ありがとう。私の、決断を、尊重、してくれて。最期に、あなたの、顔を、見れて、よかった。バイバイ……お姉ちゃんの、言うこと、ちゃんと、聞いてよね……」


「さいごのさいごだけアネキづらしやがって。ぜってー死なせない!なおったらぜんぶおしえてもらうからな!」


 クウヤの言葉を聞いている間にミロクは自身の胸に刺さった剣に両手をかけた。


「?」


 全員がその行動を不思議に思う。

 ミロクは柄を握り、思い切り引き抜いた。


「——!」


 衝撃的な出来事に誰も声が出なかった。

 ミロクの胸からは血が吹き出た。

 口からも血を吐く。


 カラン、カラカラ……


 ミロクは剣を落とした。

 もう手に力が入らないのだろう。両腕はダランとなって、バチンと音を立て、床に接触した。


「逃げて……爆……発……」


 声にならない声で注意を促した。


(いいんだよね?お父さん。お母さん。これで。クウヤは何も知らなくていい。そうだよね?)


 ミロクはボーッと上を見つめ問いかけた。

 ミロクはこれ以降一言も喋らなかった。

 アダン(エ)は何も言わず先に歩き出した。


「ビゼー、俺も先に言ってるよ」


 ロッドもアダン(エ)のあとを追った。


「おい!おきろよ!」


 クウヤは体を揺すって姉に呼びかけ続けた。

 ミロクの目は半開き、口も半開きになっていた。

 だんだんと城が揺れてくる。

 ガタガタ、ガラガラと音を立てる。


「クウヤ!行くぞ!マジで崩れる!」


 ビゼーはクウヤに言う。

 聞こえていないのか、聞こえないふりをしているのか、クウヤは反応しなかった。


「チッ……」


 一つ舌打ちをするとクウヤの首根っこを掴んだ。

 クウヤは暴れる。


「はなせ!オレはコイツを……」


「誰が離すか!阿呆!ここでお前に野垂れ死なれて困るのは俺らなんだよ!」


「くぅっ!あっ!」


 クウヤの体に力が入ったかと思うとぐったりしてしまった。


「うん?クウヤ?こんな時に活動限界キャパオーバーか!」


 喜べる事象ではないが、今のこの状況では非常に都合がいい。

 ビゼーはそのままクウヤを背負って城を出た。

 

 天井から瓦礫が落ちる中、床で寝ているミロクの元に複数人が集まっていた。


「情けねぇな。そんな姿見せんな」


「……」


 先日のミロク側の見届け人らである。


「まだ生きてるだろ。この際だから言っとく。この中の誰かがお前を殺すことに成功した時、俺たちは全員で豚箱に入るつもりだった。そんで、俺ら以外の人間がお前を殺しちまった時、そん時はお前と同じタイミングで地獄に行こうって全員で決めたんだ。お前はそんなこと許さねぇだろうが、満足に体も動かせないお前には止められないだろ?俺らを道連れにしろよ!俺らも生きる目標を失っちまうし、生きてても世間様に腫れ物扱いされるだけだからよ」

 そう言うと、男たちはミロクを囲んで輪になって寝た。

 全員が頭を内側——ミロクの方——に向けている。


「全員で瓦礫の下敷きだ」


 男たちは目を閉じた。


 ビゼーがクウヤを抱えて、城の外に脱出した。

 何があったのかは既にロッドがミクリとアダン(バ)に伝えていた。

 彼らは活動限界キャパオーバーのクウヤを見て心底驚いた。


 ガタガタと音を立てる城を全員で見た。

 ビゼーはクウヤの顔も城の方に向けてやった。

 クウヤは両目に涙を湛えていた。

 顔は横向きだったので、涙は重力に負け次々とこめかみに向かって落ちていった。


 ——ドーン!


 低い爆発音がした。

 城から煙が上がる。


「アネキ!」


 活動限界キャパオーバーで声が出ないはずのクウヤから声が聞こえた。それ以降はひたすら涙を流すだけであった。

 次々と爆発が起きていく。

 それに伴って建物が次々と崩れ落ちた。

 最終的には大きな音を立て、城は瓦礫の山と成り果てた。

 音が止むまで一行は城の様子を見守っていた。

 

 しばらくしてサイレンの音が聞こえてくると、一行は、そっと、しかし迅速にその場を後にした。

次回 フラッシュバック

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