第七十三頁 決着
キーーン。
これまでの戦いで一番大きな金属音が連続して響く。
あまりの激闘に火花が見えそうだ。
生気に押しつぶされそうになるのを必死に耐えながらビゼー、ロッド、アダン(エ)は見守る。
ビゼーは思った。
(ミクリを外で待たせたのは正解だったな。これはヤベェ。クウヤより、観てるこっちが死にそうだ。決着までは見届けねぇと……)
ビゼーもロッドも限界が近かった。
ここで再びミロクの生気濃度の測定結果が出た。
(99.7%……ほぼ純生気じゃないか……もはや人の領域を超えてしまったな……)
アダン(エ)は敢えて口に出さず、心の中で噛み締めた。
どんな鍛え方をしたらこの数字になるのか。
生きることを能力を極めることに費やさなければこうはならない。
生気濃度の高さは能力の質に直結する。
今のミロクは能力をほぼ最大火力・最大効率で使用できる状態だ。
体から放たれる物質のほとんどが生気であるため、能力に使用できる生気が自然と多くなるからである。
その理論通り、ミロクの剣は堅く、鋭く、速かった。
流れるような動きで様々な角度から攻撃を繰り出しクウヤを翻弄した。
経験値の差を容赦なく見せびらかす。
その攻撃をクウヤは必死に受け止めた。
経験で劣るクウヤはミロクの水のような動きを全て捉えることはできなかった。
しかし傷付く覚悟を決めたクウヤは敢えて彼女の剣を受け、反対に攻撃に転じることを選択する場面もあった。
その考えに至ったことで防御の割合が自然と減った。
この変化はミロクの意識を分散させた。
刺し違えてでも斬るということは相打ちを積極的に狙うことを意味する。
クウヤの大胆で命を顧みない攻撃はミロクは防御の比率を増やした。
しかし防御に徹するだけのミロクではない。
隙を見つけてはクウヤの死角に入り込み、「小指の短剣」で反撃した。環指の太刀に比べるとかなり短い剣だ。
ミロクの技術をもってすれば小指の短剣は百発百中だった。
攻撃を当てると、クウヤの剣が当たる前にパーソナルスペースから抜け、再び環指の太刀に戻した。
こうして攻撃と反撃を繰り返す。
しかし必中の反撃は気休めだった。
クウヤも剣に関する能力を扱っているため、剣の反応は速い。
反撃後、ミロクの想定よりも早く、クウヤの剣がやってくるので深い傷は残せなかった。
小さな傷でじわりじわりとクウヤの体力を削っていく。
クウヤが能力初心者であることは闘いの中でミロクも察していた。
初心者に生気の扱いはかなり難しい。
ミロクはクウヤのスタミナ切れを狙った。
しかしクウヤも持久戦では勝ち目がないことを悟っていた。
ミロクの無駄のない動きを見て思ったのである。
クウヤは一発に懸けるしかなかった。
ジワジワと長期戦へ誘うミロク。
一発逆転の攻撃を隙あれば繰り出すクウヤ。
戦いの中で二人は自分の有利な状況を創り出していく。
そんな中でミロクは思ったことがあった。
クウヤの動きを追いながら考える。
(クウヤの剣。明らかに軽い。鉄製じゃないはず。早い段階でボッキリいくと思ってたのに。私も破壊力にはそれなりに自信がある。私の攻撃をあれだけ受けたんだからあの剣はとうに折れててもいいはず。でも、何度剣にダメージを与えても傷んでいる感触が全くない。というか折れる気がしない。あの剣、一体……)
考えている間にクウヤの動きが鈍くなっているのを感じた。
「ふーうっ!」
ミロクはクウヤの手から剣を離れさせようと力一杯腕を振った。
「ここだっ!」
「——!」
ミロクはギリギリのところで攻撃を回避した。
クウヤは意表をつかれるどころか、その動きを予測していた。
わざと動きを鈍く見せていたのだ。
(見える。コイツの動きが見える)
先日までは意識しないと見えなかった生気の動きがはっきりと見える。今や煙のようなボヤッとしたものではなく白い墨を虚空に塗りつぶしたようにベッタリと張り付いている。追加の生気が放出されると筆で書き足されるように濃くなるのだ。
それがミロクの次の行動を教えてくれる。
(対応された……違う。見えてるんだ!私の生気が。いつできるようになったのか知らないけど、そうと分かったら戦い方を変えるしかない!)
ミロクは左の剣先を右手で隠し、腕のあたりまでスライドさせた。
今度は左手人差し指だけを立てると腕から指先にかけて右手をスライドさせる。
先ほどとは剣の種類が変わっている。
「示指の細剣!」
(なんだ?ほっそ……さっきの刀とかみじかい剣とはちがう)
クウヤは最大限の注意を払う。
「音速ON!」
「——!」
クウヤの視界からミロクが消えた。
「うぅっ……ゔぁっ……あっ……」
次々とクウヤに見えない攻撃が襲いかかる。
(クソッ!このまえみたいなやつかよ!なんできゅうに見えなくなるんだ?)
「ぐぁっ……」
事態を把握しようと努める間も攻撃は止まらない。
(あ〜あ、わかんねー!)
とりあえずクウヤは剣を振り回した。
「あたれえー!だっ……ぐっ……」
闇雲に剣を振り回すだけで勝てる相手であれば、とうにこの問題は解決している。
(ダメか……しゅう中しろ!)
「って……」
背後から攻撃を食らった。
「クソ!マジで、ぐぇっ……」
一方的な展開になってきてしまった。
この時のミロクは新幹線並みの速度で動いていた。
(この音速はひいおばあちゃんの力。私が生まれた時には亡くなっていてよくは知らないけれど。動き続けながら攻撃するレイピアの特性と相性が良い。もっと速く移動することもできるけど、屋内だし。クウヤを疲れさせるならこの速さで十分。でもまさか弟に使うことになるとはね……いくら私の生気が見えるとは言っても死角からの超高速攻撃なら対応できないでしょ?さあどうする?)
ミロクは心の中でクウヤに挑戦状を叩きつけた。
「クッソ!なんも見えねえ!」
クウヤはミロクの生気を追おうとするもそこら中に残っている。
「なんだこれ?」
ミロクの凄まじい速さに生気が置き去りになっているのだ。
ミロクは常にクウヤの死角に入るように立ち回った。
クウヤは考える。
(オレにアイツのこうげきがあたってるからぜったいいるはずなんだ!でも見えない。うん?じゃあ目で見たっていみねえじゃん!かんしかねえのか?)
試してみる。
「——ここ!」
——ザシュッ。
「ぐ……って……もいっかい……はあっ!」
——シャッ。
「うぅっ……」
当たる気がしなかった。
(ダメだ。音ならきこえるか?)
クウヤは目を閉じた。
どうせ目を開けても斬られるなら目を閉じたって変わらない。
音に集中した。
…………ピッ。
「いてっ……」
…………タ。
…………タタタ、シュッ。
「ったぁ……」
何度か体を犠牲にして得た結論。
足音が微かに聞こえる。
つまり。
「ものすごいはやさでうごいてるってことか!だったら……」
…………タタタ。
「足音がきこえるタイミングで……いてっ……くっ、はやい!」
足音が聞こえたタイミングでその方に剣を振れば良い。
理論上はそれで防げる。
しかしどの方向からやってくるか分からない新幹線を十数メートルの猶予で方向を見切って、反応しろというのはほぼ不可能に近い。
「——!」
妙案を浮かべた。
再び目を瞑る。
足音を聞いて……跳んだ。
「かんたんに空中にはこれないだろ!……がっ……」
クウヤは背中から落ちた。
思い出してみれば前回蹂躙されたのも空中だった。
それに、跳んだ後地面に戻るタイミングで斬られるのなら先ほどとなんら変わらない。
「ん?」
突然のことだった。
体の奥から力が湧いてくる気がした。
(なんだ?でも……)
根拠のない自信も湧いてくる。
「ここだっ!」
——キーン。
甲高い音が鳴り響いた。
当たった瞬間強い衝撃でクウヤは体が浮き、少し吹っ飛んだ。
吹っ飛びながらもクウヤは空中でミロクの姿をようやく捕捉した。
「そこか!」
綺麗な受け身を取り、流れるように立ち上がるとミロクに向かって突撃した。
「——!」
——ザシュッ!
ミロクは右の二の腕を見た。
血が流れている。
示指の細剣を解除し、患部を左手で押さえた。
「あたった!」
クウヤは叫んだ。
ミロクは避けきれなかったのだ。
到達時間が異常に早かった。
(まさか、クウヤも……ひいおばあちゃんの力なら理論上あり得なくはない。でも急に習得するなんて。——!)
ミロクは二階を見た。
「なんとか、なったか?」
ビゼーが一階に向けて手を伸ばしていた。
「ビゼー君……」
(さっき私の攻撃を弾いたあたりからってことね。そういう能力なんだ。それでクウヤが音速を……)
「おい!よそ見か?」
クウヤはミロクに話しかけた。
「クウヤ。次で終わりにしよう。あなたは音速を習得してしまった。同じ速度で動くならその速度がどれだけ速かろうとこれまでと戦況は変わらない。小細工してもお互いにジリ貧になるだけ!だからさ、次の一撃で立ってた方が勝ち。それでどう?」
ミロクはクウヤに提案すると、左手を前に出し中指以外を畳んでいつものように肘から指先にかけて右手をスライドさせた。
「中指の大剣!」
今日見た四種類の剣の中で最も大きい剣だった。
「わかった。それでいい!」
(いちげきでしとめる!)
クウヤも剣を構えた。
——ダッ。
二人は同時に地面を蹴った。
同時にジャンプし、空中で交錯した。
次回 崩落




