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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第一篇 大米合衆国篇〜ブラジル州〜

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第七十二頁 左腕

「結果が出たぞ。三十四パーだ」


 この数字はクウヤの正気濃度である。


「えっ?ミロクさんよりクウヤの方が高いの?」


 ロッドは驚いた。


「さっき生気の塊をロッド(お前)に向けて放出した時、クウヤ(アイツ)にも多少当たっていたはずだ。その時、効果がなかったことを踏まえると、現状、生気濃度の観点では互角かそれ以上だろうな」


「あれを無力化したならクウヤも相当だね」


 アダン(エ)の説明を聞いてロッドは感心した。

 しかし同時に手の届かない存在になってしまったとも思っていた。

 これはロッドだけでなく、ビゼーも感じていた。


 二階で話が一段落した時、一階では丁度二人が静止した。


「寝てただけの割に強くなってるじゃない」


 ミロクが褒めた。


「だまれ!」


 クウヤが返した。


「出力上げようか」


 ミロクの手数が多少増えた。

 クウヤはこれにも対応した。


(あれ?前はここまでじゃなかったはず。私について来れてるってこと?)


(クソッ!うごきは見えるのに、せめられない!すきがねぇ!)


 お互い感想を抱いたところでミロクは攻撃をやめ、クウヤと距離を取った。


「どうした?バテたか?」


 クウヤはミロクを煽った。


「感情をしっかりコントロールして、生気を上手く使えるようになってる。前とはまるで別人」


「はあ?」


 いつもなら鼻の下を伸ばして喜ぶクウヤだが、今回は違った。

 ミロクの言った通り、無駄な感情は削ぎ落として冷静を保つ。


「ねぇ。私の行動を見て違和感はない?」


「は?このまえみたいにいろんなことかんがえさそうとしたってむだだ!」


 同じ手には乗らない。

 ある男との戦いで十分実感しているし、ミロクにも注意をされた。


「今のあなたにそんな姑息な真似はしない。私のことよく思い出してみて。憎い奴ほどよく覚えてるもんでしょ?私、優しいから思い出すまで待っててあげる」


 そう言うと、剣化させる時とは逆に左掌を、指先から腕に向けて沿わせた。

 剣が腕に戻った。

 そのまま腕を下ろし仁王立ちした。

 ミロクは本当に考えさせたいらしい。


 クウヤも構えをやめ、ミロクと過ごした記憶を朧げながら遡った。

 楽しかったあの頃を思い出すのは十年以上ぶりだ。

 ずっと考えないようにしていた。

 二人で緑の中を駆けずり回って遊んだこと。

 一家四人での団欒。

 手を繋いで寝た晩。

 美味しかった料理、並んで食べる二人。

 両親の最期。佇んでいた姉。


「——!おまえ……」


「その顔は思い出したね。そう私の利き腕は……()だよ」


 ミロクはそう言いながら左手を前に出し、右掌を左肘辺りに置き、そのまま左指先までスライドした。

 この時薬指だけ立てていた。


環指の太刀(リング・ソード)。これが私の本当の本気!本番はここから!」


 左腕の刀が見えた時、ビゼーとロッドは膝を着いてしまった。


「なんだ?これ……」


「立って、られない……」


 アダン(エ)は二人に告げた。


「これもただの生気だ。まあ、そもそもこの議論をする意味もないわけだがな。ミロク(アイツ)は今まで一度もお前たちに対して、敵気てっきや殺気を向けていない。お前たちが初対面でアイツから受けたもの。あれは殺気ではない。ましてや敵気てっきでもない。体から溢れ出る生気を単純に放っていただけだ。ただの生気とは言っても立っているだけで精一杯な鈍重なものだったが。当時、建物の外にいた俺でも分かった。生気が外に漏れ出ると言うのも考えられない話だ。そんな芸当ができるのはアイツの本来の生気濃度が常軌を逸しているからだ。アイツは生気濃度を常に抑えて生活を送っている」


 アダン(エ)は些か辛そうにしていたが、しっかり二本足で立っていた。

 彼の話をなんとか聞こうとしていた二人だったが、熱に浮かされている時のように頭がボーッとしてしまっていた。

 しかし「生気を抑えている」この言葉だけは二人ともスッと入ってきて理解できたのだ。


「生気を……」


「抑えてる?」


 信じられないといった表情でアダン(エ)を見る。


「そうでもしないと日常生活に支障が出るからな」


 ビゼーには心当たりがあった。

 ミロクと会った日、ホテルの従業員がこぞって辛そうにしたあの刹那を思い出した。


「マジか……」


 底知れないミロクの力を傍観することしかできなかった。

 そしてそんな出鱈目な生気を持つ人間と対峙しているクウヤに対しては、尊敬とも畏怖ともとれるなんとも名状めいじょうし難い感情を覚えた。


(さすが専門家!)


 生気濃度を高めたにもかかわらず立ち続けているアダン(エ)にミロクは感心した。

 目線を実弟に移す。

 立っているのも辛そうに見える。


「座った方が楽でしょ?座ったら?」


「だれが!そんなの……まけたのと同じじゃねぇか!」


 表情は確かに辛そうだが、折れる気配はない。

 それどころか燃える闘志を感じる。


「OK!行くよ!」


 ミロクはクウヤに向かっていった。

 クウヤは初撃をなんとか受け止めた。


(なんだ?今までより重い!)


 クウヤはこのような感想を抱いた。

 それだけでなく今までと剣の軌道が全く違う。

 能力のおかげでなんとかミロクについていけているクウヤだったが、ミロクも左腕に慣れて手数が増えてくるとクウヤは防ぎきれなくなっていた。

 これまでずっと右対右の戦いを経験してきた。

 しかし急に右対左の戦いを強いられるとクウヤの感覚が狂った。

 受け止める方向をミスしてしまい、次の防御までの所要時間が増えてしまう。

 その隙を見逃すミロクではなかった。

 クウヤの顔や腕に次々と軽い切り傷がついていった。


 その様子を観ながらロッドとビゼーが話す。


「さっきまで互角だったのに……」


「もう俺たちが介入できる戦いじゃねぇな」


「そうだね。情けないけど、助けてあげたくても体を持ち上げられないし、足も動かないよ」


「仮に動かせたとして、あんな淀んだ戦場ところに入っていける自信もねぇ」


「同感だよ」


 ここでミロクの生気濃度の測定結果が出た。


「七十パーセントだ。キリのいい数字が出るということは十中八九生気濃度をコントロールしている。まだまだ余力は残してるぞ」


「……」


 異次元の数字に言葉も出なかった。


(死ぬなよ[死なないでね]。クウヤ……)


 ビゼーとロッドは祈った。


「うっ……」


 右足首に深い傷を負ったところでクウヤは膝を着いてしまった。


「機動力は削いだ。ここまでね。あなたはもう死ぬしかない。このまま続けたって時間の無駄。自分で死ぬ?それとも私に殺される?私としては自刃してくれた方がめんどくさくなくていいんだよね……ま、せっかくだし私が介錯してあげる」


 ミロクは膝をついたクウヤの背後に回って左腕を自らの胸の前にセットした。


執行介錯スーサイド・アシスタンス!」


 ミロクは左腕を振り、クウヤの首の右側を襲った。


「クウヤ!」


 ビゼーとロッドの叫ぶ声が聞こえた。


 ——キーン……


 クウヤはミロクの腕が首に触れる直前に両手で剣を持って攻撃を防いだ。


「かってにころすな!」


「……」


(結構力入れてるつもりなのに……これ以上押し込めない⁈)


 姉弟きょうだいは両者力を緩めない。

 小康状態でクウヤは宣言した。


「おまえつよいよ。めちゃめちゃつよい。みとめるしかねーよ。オレ、まだいっぱつもおまえにあてられてない。みとめるのがこわかった。オレよりおまえがつよいのがいやだった。だからオレはかんぺきにかとうって思ってた。でもそんなことムリだ。だからかんがえなおした。オレが死ぬことになってもてめえをころす!どっちかが死ぬまでこのけんか(バトル)はおわんねえぞ!」


 ミロクはクウヤの覚悟の目を見た。

 また生気濃度を高めた。

 それでもクウヤの表情は変わらなかった。

 二階からは男たちの呻く声が聞こえる。

 アダン(エ)すら手すりに手を置いてしまっている。


「それがあなたの覚悟?」


「ああ」


 芯の入った頼もしい声だった。


「その覚悟、私が全力で受け止める!立ちなさい!その覚悟があるのならその程度の怪我、ないのと同じでしょ!」


 ミロクはクウヤの剣から腕を離して、少し歩いた。

 十メートルほど離れたところで、クルリと反転しクウヤと向き合った。

 その間にクウヤは両足を床につけ踏ん張った。


「クウヤ。実はさ、この左腕を使うのも結構振りなんだ」


「それがどうした?」


 クウヤは突然の話に驚いたが、表情に出すのはこらえた。


「あなた相手なら使ってもいいと思った。褒めてるんだよ。今まではさ、決闘前は血気盛んだったのに、いざ命を奪られそうになると命乞いして、醜態晒すような阿呆しかいなくて。退屈だった。命を捨てる覚悟もないのに闘いの世界へズケズケと。『命をなんだと思ってるの?』って何度も思った。だから一思いに殺したわけだけど。さっきまで使って後悔することになるかもって思ってた。でもその様子なら心配は不要ね。正直舐めてた。ここまで食らいついてくるなんて。もう手加減はしない!お互い、殺意やら想いやらは全て剣に乗せよう!剣の能力を授かった者同士、剣で語ろう!久しぶりに本気の本気、出してあげる!」


「かかってこい!」


 両者構えた。


 ——タンッ。


 真っ直ぐ相手に向かって走った。

次回 決着

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