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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第一篇 大米合衆国篇〜ブラジル州〜

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第六十二頁 約束

 決闘状を提出してからクウヤは強くなる方法を考えた。

 自分の能力——剣を扱う能力——を鍛えるしかない。

 昨日は全力を出す前にやられてしまった。しかし負けは負けである。

 それを考えると油断はできなかった。

 どう対策しようか考えているとジャックが声をかけてきた。


「なぁ、クウヤ。今回の決闘、何パー勝てると思ってる?」


「九十パーです!」


 高らかに宣言した。


「自信ありって感じだな。逆に残りの十パーはなんだ?」


「きのう、ちょっとやられちゃったんで」


「もうやってたのかよ!」


 もちろんジャックは知った上でリアクションしている。


「それでもな九割勝てると思ってんのか?」


 煽り調に吹っ掛けた。


「はい!あんなやつにまけません!」


 どうやら本気で勝てると思っているらしい。


「自信満々なのは悪いことじゃねぇが、自信過剰は足元を掬われるぞ。お前は自分の力量を把握してるか?」


「えっ……」


「相手の手の内を理解してるか?」


「いや……」


「それを踏まえてお前は何パー勝てると思う?」


「八十パーです」


 クウヤは自信なさそうに勝率予想を十ポイント下げた。


「全然下がらねぇな!」


 言葉で伝えてもまるで効果がない。


「お前さ、イェジュンと手合わせしてみろ」


「はぁっ?」


 一番驚いていたのはイェジュンだった。


「ジャッキー!それは……」


「お前の言いたいことは分かってるよ、グレッグ。危険になったら俺が止める」


「しかし……」


 グレゴリーはしきりに何かを気にしているようだった。


「俺のことはいい。クウヤ(コイツ)に死なれるより断然マシだ。デモンストレーションってやつだ、クウヤ!お前実戦経験ほとんどねぇだろ?空想の相手と戦うよりイメージを掴みやすいと思うし、課題も見えやすいだろ?どうだ?」


「オレはうれしいですけど、イェジュンさんはだいじょうぶなんですか?」


「ちょっとジャックさんと話す」


 イェジュンはジャックを連れて数メートル離れた。


「いきなり能力者と戦えなんて!殺す気ですかぁ?」


 イェジュンが小声で捲し立てた。


「能力者っつってもアイツはひよっこ。当たらなきゃ大丈夫だ」


「なんでそんな楽観的でいられるんですかぁ?俺の身にもなってくださいよぉ!」


「心配し過ぎんなって。身構え過ぎだ。深呼吸しろ」


 イェジュンは言われた通りにした。

 ジャックは問う。


「俺は部下に無茶させる人間か?」


「そうですよぉ!」


「えぇ〜!」


 思っていた回答と違った。


「この前だってベスさんに結構なこと注文してたじゃないですかぁ!」


「いや、あれは……」


 何やら思わぬ追撃を喰らってしまったようだ。

 大きな声が出過ぎて離れたところにいる四人が二人の方を一斉に見た。

 一つ咳払いしてもう一度問う。


「怪我のリスクが伴うことはさせねぇだろ?」


「そうですねぇ……OKです。やりましょう」


「悪ぃな。後でビッグバーガー奢る」


「言いましたね!絶対ですよぉ!」


 メラメラと闘志を感じた。


「やる!」


 イェジュンはクウヤに宣言した。

 六人は人気のない場所に移動した。


 決戦の城から近い場所に木がない開けた空間があった。

 そこで二人の男が対峙する。

 東、クウヤ・インディュラ。

 西、キム・イェジュン。


「クウヤ、抜剣だけはするなよ!それ以外はなんでもありだ。膝か背中が先についたら負け。怪我の危険があった時にはそこで止める。いいな?」


 ジャックがルールを確認した。

 両者頷く。


「それじゃあ始め!」


 ジャックは自らの声で決戦の狼煙を上げた。


 クウヤは能力者としてのアドバンテージを生かす。

 さっそく相手に敵気てっきを向けた。

 アダン(エ)に生気の使い方を習ったことで敵気てっきは簡単に向けられるようになっていた。


「うっ……やっぱ敵気てっきはきちいぃ」


 イェジュンはなんとか耐える。

 クウヤはイェジュンの様子から敵気てっきの効果があったことを確信した。同時に彼が能力者でないことも判明した。

 そうと分かれば恐れることは何もない。

 勝負を決めるため、クウヤは剣を構えた。

 そして突っ込む。


「舐められたもんだなぁ……」


 イェジュンはそう呟くとクウヤの動きを注意深く見た。


(振りかぶって……左上から右下。じゃあ……)


「左に避ければいいだけだよなぁ!」


 言葉通り左に避け、姿勢を低くした。

 クウヤは見事な空振りを披露する。

 イェジュンはクウヤの右足を払おうとした。

 その時だった。

 剣が、避けたはずの剣がイェジュンの側頭部に迫っている。


「ジャッキー!」


「ジャックさん!」


 グレゴリー、アリ、クオンが叫ぶ。

 ジャックも動き出し始めていた。


「ディ……」


 そう言いかけて止まった。


「危ねぇ!」


 イェジュンは体が柔らかかったので、開脚してさらに姿勢を低くして間一髪で回避した。

 そのまま当初の予定通りクウヤの足を払った。


「あっ!……いてっ」


 クウヤは転倒した。

 ジャックが制止する前に決着が着いた。


「ちょっとぉ!ジャックさん!話が違うじゃないですかぁ!」


「悪かった!避け切ったと思ったからよ!」


「ビッグバーガー二つ!いや、三つで!」


「はい……」


 ジャックが返事をするとイェジュンは静かになった。


「ジャッキー!本当に当たってたらどうするつもりだったんだ!」


 グレゴリーもかなり怒っている。


「イェジュンさん。ビッグバーガー三個じゃ釣り合わないですよ思い切って千個とかにしましょう!」


「それはいいやぁ。不健康そうだから……」


「給料上げてもらえ!」


「そうするかぁ!」


 アリ、クオン、イェジュンの三人でジャックを睨め付けた。


「分かりました。ボーナス出します……」


 渋々了承した。


「言ってみるもんですね!」


「アリ!なんでお前にも出すことになってんだ!」


 ジャックのツッコミにアリはとぼけてそっぽを向いた。


「ったく……」


 呟きながら、ジャックは倒れているクウヤの前に立った。


「どうして負けたと思う?」


「……わかりません」


 クウヤはジャックと目を合わせなかった。


「過信。油断。無策。経験不足。全部だ!なぜ敵気てっきを浴びせ続けなかった?なぜ真正面から突っ込んだ?なぜ敵の反撃を想定しなかった?能力一発で仕留められるという不確かな自信はどっから湧いた?今のが決闘ならお前死んでるぞ!本番の敵は健常者だと思ってんのか?敵気てっきの出し方知ってんならずっと出し続けろ!剣を構えた時に生気も溜まりきってなかった。最後、足払いされた時も足元に生気を集めておけば派手にすっ転ぶこともなかった!命のやりとりをするってのに緊張感がなさすぎる!心構えからなってねぇんだよ!」


「すいません……っていうかジャックさん、能力のことくわしいですね」


(やべっ……)


 ジャックは指摘されて初めて気づいた。

 ペラペラと喋りすぎた。


「馬鹿が……」


 グレゴリーは呆れた。


「あぁ……ほら……俺さ、魔人に、寛容な方だからさあ。今の状況とか、良くねぇなーって思うわけだよ……」


 聞くに耐えない言い訳を並べた。


「そうなんですね……オレもそう思います!やっぱおかしいですよね!オレたちいがいにも同じこと思ってる人いたんだー!いつか能力者がどうどうとできる日がきたらいいですよね」


「お、おう……」


(今ので納得したのか?ビゼーだったら根掘り葉掘り全部聞かれてたな。コイツで助かった……)


 ジャックが秘密にしたかったことは守れた。


「ジャッキーもジャッキーだが……」


「坊主も坊主ですね……」


「そうですね……」


 グレゴリー、クオン、アリも奇妙な状況にドン引きしていた。

 ジャックは不自然に話題転換した。


「ま、それはいいとしてイェジュンはテコンドーやってたんだ。体の使い方は指南できる。俺も戦い方に関して教えられることもある。俺らが面倒見てやる!だから本気で勝ちに行けよ!」


「はい!ありがとうございます!」


 クウヤは決戦の日まで鍛錬し続けることに決めたのだった。

 その後ジャックはクウヤに先ほどの発言に関して口封じを願った。

 バリバリくん一本でクウヤを釣ることに成功した。


 ここまでの一切を見守る人影があった。

 離れた木の影から気づかれないように気配を消して見ていた。

 これまでの出来事を顧慮し、趨勢を思弁する。

 やがてそこはかとなく悲惨な顛末がよぎる。

 急き立てられるように城方面へと足を動かした。


 クウヤはこの瞬間、バトルの世界に入り込んでしまったのだ。

 今後も生気や能力に振り回されることになる。

 断っておくが、能力は戦いを繰り広げるための力ではない。

 その性質上、暴力に転用しやすいだけなのである。

 かつてのダイナマイトがそうであったように。

 能力者の皆さんは、自らの能力を暴力に使用しないことを約束してほしい。

 生活の利便のためにあるいは社会貢献のためにその力を解放してほしい。

 二度と、同じ歴史を繰り返さないために……

次回 決闘

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