第五十八頁 邂逅 壱
一七三二四年一月三十一日(月)
大米合衆国・ブラジル州 某所
アダンが仲間(?)になり、旅の開始から半年でメンバーの数が五倍と急拡大を見せている一行は、南米地域最大の国・ブラジルを歩いていた。
国土の六十一パーセントをアマゾンと呼ばれる熱帯雨林が占めているこの州は南米地域のほぼ全ての州と州境を接している。
そんな広大な州で一行はアマゾンを避けながら都市部を目指していた。
年を越してからは一日のほとんどを移動に費やしていた。
移動するだけの単調な日常に些細な変化が訪れる。
一行の目の前で誰かが止まった。
その人物はアマゾン方向からやってきていた。
一行の方を向いてその人物は呼び掛けた。
「おぉっ!いたあ!ひさしぶりー!」
聞き覚えのある声だ。
「あ〜!アダン!」
声の主の名を当てたのはクウヤだった。
「うん?」
同じ名の男は自らの名を呼ばれたと勘違いして返事をした。
クウヤは話しかけてきたアダンの方に既に駆け寄っていたため、ビゼーが説明した。
「ちょっと前に会った人でさ。名前がアダンなんだよ。苗字は……何だっけ?」
出会ったのが昔すぎて名前を忘れていた。
科学者の方のアダンと会っていたため、名前の方はギリギリ覚えていたが、苗字までは厳しかった。
ビゼーはロッドとミクリに助けを求めたが、二人とも覚えていなかった。
クウヤと先に出会っていた方のアダンが会話をする。
ク:「久しぶりだな!元気だったか?」
アダン・バスケス(以下ア(バ)):「おう!げんき、げんき!うーんと、なまえなんだっけ?」
ク:「わすれたのかよ!クウヤ・インディュラだよ!」
ア(バ):「そうだ!クウヤだ!」
ク:「オレはおぼえてるぞ!アダン・バスケスだろ!」
ア(バ):「すげークウヤ!よくおぼえてんな!あたまいい〜!」
ク:「へへへへへ……」
ア(バ):「で、げんきだったか?」
ク:「元気だよ!ってか、よくおいついたな?」
ア(バ):「もりのなか、はしってきたから!」
ク:「えっ?だいじょうぶだったのか?ビゼーがきけんな動物がめっちゃいるって言ってたぞ?」
ア(バ):「う〜ん……たぶんだいじょぶじゃね?モフモフのヤツさわってチクってしたけどへーきだったし、きづいたらやばそーなむしがあしにくっついてたりしたけどなんともないし。それに、ほら!おれめっちゃげんきだし!」
ク:「ホントだいじょうぶか?なんかヤバそうだけど……でも元気ならいっか!ってか、しごとは?なんか大切なやくわりだったんだろ?」
ア(バ):「うん!だいじょうーぶだって!ちずはかいてきた!おれ、じかけないからオヤジにてつだってもらいながらみちじゅん?っていうのもかいたんだ!じかんはかかっちゃうかもしれないけどげんばにはたどりつけるとおもうんだ!」
ク:「そうなんだ!じゃーよかった!」
ア(バ):「そう!で、おれやっぱたびおもしろそーだなーっておもったからきちゃった!おれのほんとうのおやもさがせたらいいなーって。だからいっしょにいっていいか?」
ク:「マジで!ぜんぜんいいよ!いこうぜ〜!」
ア(バ):「やった〜!よろしくな!」
ク:「よろしく!」
他のメンバーを置き去りにして、話はトントン拍子に進んでいく。
四人には事後報告だった。
拒否する理由がないので受け入れた。
元々であるが、随分と男所帯になってしまったものだ。
成人男性五人と少女一人の旅団は前へ進んだ。
歩きながらアダンはアダンに興味を持った。
「なー、なんでおいしゃさんみたいなふくきてんだ?」
「これが最も楽な服装だからだ」
「へー!」
「そのでっけーにもつなに?」
「ああ……これは……お前、能力者か?」
「のーりょくしゃ?」
「済まない。魔人か?」
「まじん?」
「それも知らないのか……失礼」
アダン(エストレ以下エ)は能力者判別機でアダン(バスケス以下バ)の生気濃度を測定した。
数分後結果が出た。
——14.7%。
アダン(エ)は衝撃を受けた。
(能力者だと無自覚でいて生気濃度が15%近い⁈コイツ、無意識で能力を使い込んでいるな)
「お前、特技はないか?」
アダン(エ)は確信を持って尋ねた。
「うん!みちおぼえんのめっちゃとくい!みちにまよったことねーもん!」
アダン(バ)は自信満々に宣言した。
「頭の中に地図が浮かぶのか?」
「そうそう!知らない場所でもわかるんだ〜♪ひともいるのわかるし!すげーだろ!」
アダン(バ)は誇らしげに言う。
「それは能力だ」
「なにそれ?」
「普通ではない力だ。それで此処迄来れたのだろう?」
「おー!すげーじゃん!おれ!」
アダン(エ)は真実をアダン(バ)に伝えるが、まるで理解していない様子だ。
この会話にクウヤが入ってきた。
「アダン!おまえ能力者だったんだ!」
「のうりょくしゃってなに?すげーの?」
「ふつうの人にできないことができるんだって。きたえたらもっとつよくなるんだぞ!」
「マジか!むらのみんなにじまんできんじゃん!」
アダン(バ)はルンルンしている。
「それはやめといたほうがいいかも……」
「なんで?すげーんだろ?のーりくしゅんって?」
「のうりょくしゃな。あんま、よの中でいいようにしてもらえないみたいなんだ……」
「えっ?おれ、だめなにんげんなのか?」
「いや、そうじゃなくて!」
この後男たちで必死に説明をした。
クウヤがツッコミに回らなければならなくなるとは恐ろしい人物である。
しかしアダン(バ)の加入は一行に大きな利益をもたらした。
今まではビゼーの持っていた携帯端末を使用して道を調べていたが、道を把握する能力者であるアダン(バ)のおかげでビゼーのナビゲーションの役割が必要なくなったのだ。
ミクリは歩きながら勉強をするという器用なことができた。
先生役であったロッドは歩く、教える、ミクリの解答を見る、必要に応じて書くという超絶マルチタスクを一人でやらなければならなかった——アダン(エ)はバカでかい機械を背負っていたし、クウヤに先生は不可能だった。一時的に教材を持ってもらう等はしていた——。
ビゼーの手が空くことでロッドの負担を大幅に削減できるのだ。
またビゼーが先生役をすることも可能であり、ロッドの苦手教科はビゼーが教えることができるようになった。
学校を卒業していない二人が勉強を教え、小中高と三つの卒業証書を授かった人間が何もしていないことに違和感を覚えてしまうが、こうするしかないのだ。
こんな調子で六人は東へと進んで行った。
一七三二四年二月二十五日(金)
大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア
知らぬ間に一年の六分の一が過ぎようとしている。
一行はようやくブラジル州の州都・ブラジリアにやって来た。
ブラジル州屈指の大都市なだけあって街は活気に溢れていた。
街中を歩いていると人だかりを発見した。
何十人と群がっている。特に若い男性の比率が多い。
ほとんど全員が刺青入れ放題のいかつい体をしていた。見た目からして血気盛んだ。
群衆の目の先には掲示板があった。
偏見は良くないが、血気盛んな男たちが群がってまで掲示板を見ているというのは不思議な光景である。
彼らは何に誘われて此処にいるのだろうか。
興味が湧いてくるが、あの集団には近づきたくない。
そこにちょうど掲示板の張り紙を交換する担当者らしき人が丸めた紙を持って掲示板に寄っていく。
見た目に反して、男たちはおとなしく道を開けた。
張り紙を保護するためのガラスケースの鍵を開け、ガラス戸を開ける。
古い張り紙を剥がし、新しい張り紙を広げ、貼り付けた。
張り紙以外の部分を現状復帰して担当者は去って行った。
程なくして群がっていた男たちは落胆の声をあげて離散した。
掲示板の前には人一人もいなくなってしまった。
それを見て、一行は張り紙を見た。
そこには以下の記述があった。
決闘情報
ミロク・インディュラ VS ブラディミル・ペレス
会場:サンタテレサ・デ・ラ・クルス城
開戦:午後一時〇分
終戦:午後一時三分
勝者:ミロク・インディュラ
尚、敗者死亡
クウヤはこれを見て顔色を変え、無言で走り出した。
それを見て、ビゼー・ロッド・ミクリ・アダン(バ)は慌てて追いかけた。
これに対してアダン(エ)は、しばらく張り紙を見つめたまま動かなかった。
次回 邂逅 弐




