第五十七頁 質疑応答
複雑な理論話に疲れてしまわれた方へ
本エピソードで長編理論回は終了です。
希望を持って読み進めていただけますと幸いです(ここまで脱落していない方々がお読みになっているのだとは思っておりますが……)。
またこのような回が出てきてしまうかもしれませんが、ここまで長くはならない予定です。
一七三二三年十二月三十日(木)
大米合衆国・ボリビア州 コーユー市 定宿
クウヤ、ビゼー、ロッド、ミクリの四人は修行の終わり方に満足していなかった。
今すぐにでもいつものあの場所に行って生気や能力を強化したかった。
しかしアダンが止めた。
「年末年始くらいゆっくりしたらどうだ?ただでさえ休んでいない。生気が体調に依存すると言う話は口を酸っぱくして言ってきただろう。それに今のお前たちはどこまで生気を鍛えても満足しないだろう。キリがない。俺とていつまでもここに居るわけにはいかないからな。今日は休め。その代わり実践を踏まえて出てきた疑問、あるいは聞きそびれたことに対して答えていくことにしよう。質疑応答だ。知識を整理するのも立派な特訓だと考えろ」
修行に夢中になっていて頭から抜けていたが、疑問は多々ある。
四人はアダンに従った。
さっそくロッドが質問する。
「じゃあ俺から。殺気って生気なんですか?殺と生って反対の意味っぽいですけど……」
アダンは答える。
「結論から言えば答えは『イエス』だ。殺気というのは生気に殺意を乗せたものだ。人間の負の感情は表に出やすい。怒りや恨みは特にだな。生気は感情に左右されると何度も言っているが、要はそれだ。殺意という不安定な感情を生気に込めて発するから生気が揺らぐ。受け取る側も不安定な生気を受けるから気分が悪くなる。それが殺意の正体だ。しかし勘違いする奴が多くてな『殺気』と『敵気』を」
「殺気とてっき?」
「殺気というのはそんなに簡単に出せるものじゃない。本物の殺気を感じたことのない奴は悍ましい生気を感じると大抵殺気だと言う。実際その九割九分は『敵気』だ。敵意を乗せた生気、殺意を乗せた生気が殺気だからな。そんなことを聞くということは似たような生気を受けたということだろ?こんなのじゃなかったか?」
アダンから生気が放たれた。
この生気はロックウェルが放ったものと酷似していた。またヨサゲナ町でロッドが町長に向けていたものとも似ている。
「うっ……こ、これです!」
「これは『敵気』だ。殺気じゃない。対象に嫌悪感を向ければ能力者であれば基本的に誰でも出せる。ただこれの強さも生気濃度やお前らに教えた生気の六つの力の高さに依存する。高ければ高いほど強力な敵気が出せ、敵気を受ける側になった時には強力な盾になる。つまり生気濃度が低い能力者の敵気は圧倒的格上には通用しない。そして二者の生気濃度差がゼロに近いほど効果が薄くなる。一般的に生気濃度の差が5%の以上の差があると効果がはっきりと出る。それ以下の差なら基本的には打ち消し合って何の役にも立たない。敵気を受けていることは感じるがな。通常、能力者の生気濃度は10%から15%の間だ。基本敵気戦にはならない。使うのも牽制の意味合いが強い」
ロッドは納得した。
「だから俺は大丈夫だったんだ」
「俺がやられた理由もそれか……奴は俺らより生気濃度が高いってことだよな」
ビゼーも納得した。
それを受けてアダンは言う。
「その言い方だと敵気を受けたことがあるのか。ソイツがどういう意図を持ってそんなことをしたのか気になるな」
それについて四人は「よく分からない」と言うしかなかった。
疑問は解決したので、次に移った。
質問者はクウヤだ。
「次、オレ!生気でさ、人のばしょわかったりする?」
「いや、そんな効果はない。よっぽど近距離にいれば気配として感じることはあるが、なぜそんなことを聞く?」
終始不思議そうにアダンは話した。
クウヤは理由を話す。
「スカーレッドとかビゼーはオレのばしょがわかってたっぽいから」
「スカーレッドが誰だかは知らんが、それは本当か?」
アダンの問いにビゼーは戸惑いながら答えた。
「本当かって言われても……だいたいその方向かなって思っただけで確信があったわけじゃなくて」
「……生気ではなく能力の可能性も高いな」
「でもビゼーの能力って……」
クウヤがここまで言うと、アダンは解説を始めた。
「能力を二つ持っているのは割とあることだ。能力の種類は遺伝的に分類すると五つある。『固有能力』、『遺伝能力』、『隔世能力』、『絶対能力』、『継承能力』という。自分のオリジナルの能力が『固有能力』だ。誰一人として全く同じ能力は持っていない。『遺伝能力』は親から引き継いだ能力だ。特徴として一部効果が欠損、弱体化した状態で受け継がれる。親以外の先祖から引き継いだ能力が『隔世能力』だ。こちらはほぼ完璧な状態で遺伝する。特別な能力を持っていた場合は百パーセント能力が遺伝し、その性質を持つ能力を『絶対能力』という。俺の調べでは二十一種ある。実際に見たことがあるのは二、三だがな。全ての絶対能力をこの目で見るのも俺の目標だ。また後天的に他者の能力を獲得するのが『継承能力』だ。特別なことが起きない限りこれは持つことはない」
「特別なことって?」
ビゼーが問うた。
「移植手術が最も代表的だ。あとはカニバリズムだな」
「えっ……」
ビゼーとロッドは顔を顰めた。
「それぐらいの接触でなければ何も起きない。こういう時の王道、性交渉程度では憂う必要すらない。安心しろ」
「王道って……」
アダンの発言に対して、ビゼーはボソッと呟いた。
それはアダンにも聞こえていた。
「どう考えても王道だろう?よく聞く話じゃないか?性交渉によって生気濃度が急激に高まったり、生気量が激増したり、能力初心者なら生気が突然扱えるようになったりすることもある。生命の話に性交渉は付き物だ」
有性生殖の可能性を感じた。
ミクリは何一つ理解できていなかった。ロッドに助けを求める。
ロッドは
「勉強がもう少し進んでからの方が分かるんじゃないかな」
と当たり障りない理由を告げた。
「性教育は早い方がいいぞ」
アダンが言う。
「行為についてはまだじゃないですか?九歳ですよ」
ビゼーが進言した。
ミクリは訳が分からない、といった表情をしていた。
「カニなんとかって?」
クウヤが尋ねたが、全員で無視をした。
アダンが話す。
「まあ何でもいい。話を戻す。ビゼーは運の能力以外にも能力を持っていて、そっちの効果で居場所が分かったなんてことは十分考え得る結論だ。能力は未知のものだからな」
「謎が増えたな……」
ビゼー聞けば聞くほど疑問が生まれる現状を憂いた。
「ビゼー、お前も何か聞きたそうだったな?」
アダンが問う。
「俺は能力二個持ちとかあり得るのか聞きたかったんです。でも解決しました」
クウヤの疑問解決のついでにビゼーの疑問は勝手に解決してしまっていた。
「そうか。補遺すると理論上四つまでは保持できる。絶対能力は固有能力に含蓄されるからな。しかし原則一つと考えろ。遺伝能力は二割程度、隔世能力は一割未満の確率でしか発現しない」
「分かりました。ありがとうございます!」
「他にあるか?」
アダンが尋ねるとミクリがゆっくり手を挙げた。
アダンは質問内容を言うように指示した。
ミクリは恐る恐る質問する。
「あの……私たちの能力って、分類のどれに入るのかなって?相性とかもあったら教えてほしいです……」
「何故怯えている?堂々と質問すればいいだろう?分からないことを分からないと言うのは悪いことではない。この世の全ての人間が全ての事物・事象について全ての知識を有していたならこの世から専門家は消え失せてしまう。俺に生きる価値をくれ」
「は、はい!」
「自分のことについて把握しようとする意思は尊重しよう。現時点の分類を使うなら……ビゼーはBタイプ、クウヤはCタイプ、ロッドはEタイプ、ミクリはFタイプとなるか」
「私、F……自由タイプですか?」
「その反応になるだろうな。EとFの境界がかなり曖昧だからな。一応、日常生活で活かせるものをFタイプとしている。他にもエラーはあってだな。この分類にすると能力者がCタイプだらけになってしまう。反対にA、B、Dタイプがほとんどいない。流石に偏りすぎていると自分でも思う。あまりこの分類に固執しない方がいいとだけは言っておくぞ。まあその疑問に毅然とした回答を返せるように改良のための研究を急ぐことは約束する。あと、相性とか言っていたな。能力の相性は実質的にはあるだろうが、科学的にはない。工夫次第で苦手はいくらでも克服できる。これでいいか?」
「はい。分かりました」
ミクリの疑問も解決した。
分類を聞いてロッドが言った。
「確かに俺の能力は日常では何の役にも立たないですね……」
「不快な思いをさせてしまったなら謝る。こんなにも分かりにくい分類はもはや分類などと言えないことは自分でも分かっている。すぐにでも改良したい。資料が集まるまで待ってくれ」
「大丈夫ですよ。ゆっくりで」
「気を遣わせてしまったな。申し訳ない」
ロッドは笑顔で謝罪を受け入れた。
他に質問はないことを確認して、講義は完全に終了した。
ここでアダンから提案があった。
「もしよければだが、しばらくの間お前たちと行動を共にしていいか?」
「もちろん!」
クウヤは二つ返事で了承した。
他のメンバーからも異論はない。
「感謝する。能力者の集団とはなかなか接触できないからな。少し実験に付き合ってもらうことになるかもしれない。そこは了承してくれるか?」
「能力で苦しんでいる人を救えるなら喜んで協力しますよ」
代表してビゼーが言った。
これにも異論はない。
「ではよろしく頼む。あと、俺たちは対等だ。これから敬語は許さない!」
随分と勝手なルールだ。
しかし面倒なものではなかったので受け入れることにした——クウヤはすでに敬語を崩していたが——。
年末年始の特別料理を堪能し、特訓の疲れを癒す。
年を越し、一月三日までここで宿泊して、新年四日から旅を再開した。
次回 邂逅 壱




