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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第一篇 大米合衆国篇〜ベネズエラ州・ペルー州〜

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第三十五頁 少女

一七三二三年九月十二日(日)

大米合衆国・ベネズエラ州 ココドコ村


「なー!ぜったいたりないと思うんだよ!そう思わないか?」


 クウヤが絶対的自信満々な顔でビゼーとロッドに問いかけた。


「はっ?」


「えっ?何が?」


 突然の発言に二人は困惑した。


「あるだろ!たりないものが!」


 なぜ分からないんだ、とでも言いたげだ。


「だから何がだよ?主語をくれ!主語を!」


 ビゼーはいささかキレていた。


「はぁ……おまえらほんとうに男か?」


「見りゃ分かんだろ」


「今、たりないものがわからないやつが男なわけない!」


「あのさ、頭のネジが緩むのは仕方ねぇけどよ、外れる前に締め直してくんねぇか?」


「だれのあたまのネジがはずれてんだよ!」


 ビゼーの皮肉にクウヤはしっかりと反応した。

 クウヤは一つ咳払いをすると、これまでで一番真剣な顔になってかっこいい(?)声でしっとりと言った。


「今オレたちにたりないもの……それは……『女子』だ!」


 決まった。言い切った。やり切った。

 お前たちはこんなことに気付けなかったのかと、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「……………………」


「あれっ?」


 クウヤが想定していたリアクションと少し、いや、全く違っていた。

 長ーい沈黙の後、二人は口を開いた。


「聞いて損した」


「ははは……なるほどー。たしかにね」


 クウヤは二人から哀れみの視線を向けられている気がした。

 呆れた口調でビゼーが話す。


「お前さ、元々一人旅の予定だったんだろ?今更旅に女子が欲しいってどういうつもりだ?」


「だって男ばっかじゃん!」


「三人しかいねぇじゃねぇか……」


「人が三人いて三人とも男だったら男ばっかだろ!」


 クウヤは必死に訴えた。


「ははは……」


 ロッドの乾いた笑いを漏らした。

 クウヤの主張はなぜか二人に響かない。

 クウヤの中にとある仮説が浮かんだ。


「おまえら、ゲイか?」


「違うわ!」


「違うよ!」


 二人揃って否定した。


「あ〜あ……可愛い子いないかな〜」


 するとロッドが前方に何かを発見した。


「あれ?噂をすれば、じゃない?多分、女の子」


 遠いのではっきりとは認識できないが、道の真ん中に女の子らしき人間が立っていた。


「なんか、小さくね?」


 ビゼーが冷静に分析する。


「とりあえず行ってみようぜ〜!」


 クウヤのテンションは明らかに上がっている。


「ビゼー、行ってみよう!あんなとこにポツンといるのって変じゃない?」


 ロッドも冷静だった。


「だな」


 ビゼーも同意した。


「やっぱりきになるんだろ?」


「お前みてぇな下賤な理由じゃねぇよ!」


 クウヤはスキップしながら、ビゼーとロッドは気を引き締めつつ人影(もくひょう)に近づいていった。

 対象の人物に近づいていくと遠目から見ていたものが鮮明になった。


「女の子は女の子でも……少女って感じだね」


 ロッドが口に出した。


「なんか思ってたんとちがう!」


 クウヤが叫んだ。


「!」


 甲高い叫び声は少女の耳にも届いた。

 彼女に人の接近を知らせた。


望遠スコープ・アイ!」


 少女はる。声のした方を。

 男が三人近づいている。

 果たしてこの三人組は信用に足る人物なのだろうか。


(一人は元気そうな顔、いい人そう!もう一人はかっこいい顔!でもちょっと怖いかも……あと一人は優しそうな顔。ちゃんとお話聞いてくれるかな?三人で何かを話してる?わ、わたしのことかな?うんうん、考えすぎ!が、がんばってお願いしないと!よし!)


 三人をながらこれから話そうとしていることをシミュレーションした。

 切り出し方。話し方。話の構成。何パターンか用意した。

 自信がついてくると目をゆっくりと閉じた。

 3秒閉じっぱなしにしてゆっくり目を開けた。

 今度は頭の中で三人と話す自分をイメージした。

 考えを巡らせている間に三人組はどんどん近づいてくる。

 彼らの一歩一歩が少女の鼓動を早まらせた。


(はっ、あれ?)


 考えていたことを全部忘れてしまった。

 少女の頭の中は真っ白になってしまった。


「お〜いって!」


「!」


 クウヤの三度目の呼びかけに少女は反応を示した。


 クウヤ、ビゼー、ロッドの三人は少女の目の前に来ていた。

 彼らが歩いている間、少女は一歩たりとも動いていなかった。

 今この瞬間もただ立ち尽くすだけなのである。

 見た目は十歳にも満たない感じだ。

 この猛暑の中、長袖の真っ黒なローブを纏っている。しかもフードまで被っていた。靴まで黒く、見るからに暑そうである。


 クウヤが二度声をかけるも反応がなかった。そして三回目。ようやく体の動きを確認できたのだった。

 少女の伏せ気味だった視線が、ほんの少しだけ持ち上がった。

 しかしすぐに視線は元の場所へと戻ってしまった。

 クウヤと目を合わすや否や逸らしたのだ。


「あの、マジでだいじょうぶか?」


 目線を外されてクウヤは少しショックを覚えたが、少女の体調を気遣った。

 この近距離での呼びかけに反応しなかったのだ。かなり気温も高いし、服装が暗に語る通り熱中症になりかけているのかもしれない。まだ立てているうちに対処したい。


 ——コクッ。


 クウヤの質問に俯いたまま少女は頷いた。


「そっか。よかった!」


「意思疎通はできてるから重症ではないね!」


「早く涼しいところへ避難させよう!経口補水液は飲ませた方がいいかもしれないな」


 三人は緊急事態でなかったことに安堵した。

 少女は勘づいた。


(あれ?なんか勘違いされてる?)


 少女は至って元気である。

 しかし目の前のお兄さんたちは少女の命を救おうと懸命に動いている。


(でも私のために……この人たちなら!)


 少女は確信した。


「ぁ……あの!」


「!」


 思ったより大きな声に自分でも驚いた。

 男たちの視線が自分に集中した。六つの目玉がこちらを覗き込む。


「…………………………」


 声が出ない。


(どうして?言うって決めたのに……)


「……なんだよ!」


 我慢できずにクウヤは声をあげてしまった。


「!」


(ああ……また怒らせちゃった……)


「クウヤ!」


 名前を呼びながらビゼーがどつく。

 ビゼーの右の拳がクウヤの左肩を襲った。


「いてっ!」


 かなり強い。思わず声が出てしまった。


「この子が一生懸命喋ろうとしてるのに止めるのは良くないよ!言いたいことがあるんだよね?ゆっくりでいいよ。自分のペースで」


 ロッドがクウヤを叱責し、少女に優しく語りかけた。

 少女はコクッと一回頷く。


「…………………………」


 沈黙が続く。

 クウヤは我慢の限界が近づいていたが、ビゼーが狙撃手スナイパーのような目で彼を睨んでいた。

 クウヤは生唾を飲んで溢れ出そうになる言葉を抑えた。


「…………………………」


 長い沈黙が続く。

 両肩を上げ、脇を閉じ、手はお腹の辺りで組んでいる。首をすくめ、縮こまったような姿で少女は叫んだ。


「ぉ、弟を、助けてください!」


 “助けて”


 ただ事でないことを察した三人は目を合わせた。


「その話、詳しく聞かせてくれる?」


 ロッドの問いかけに少女は頷いた。

 彼女はクルッと百八十度方向転換して、駆けていく。

 五メートルほど走ったところで、三人がついてきていないことに気づいた。

 慌てて言う。


「つ、付いてきて……」


 三人は揃って頷いた。


 道中。少女は一言も話さなかった。少女が一言も口を開かないため、三人だけで話すのも気まずかった。

 そんな中、ロッドは少女に尋ねた。


「ねぇ。君の名前はなんて言うの?」


「——!……」


 突然後ろから話しかけられ驚いたのか、少女はビクッと体を震わせた。

 後ろを向くことはなく、なぜか右と左を何度も交互に見ていた。

 それを見てロッドは言葉を続けた。


「ごめん。俺から名乗るのが礼儀だよね。俺はロッド・アーロンソン。よろしくね。そっちの背が低い方がクウヤ。背の高い方がビゼーだよ」


「だれがせがひくいだ!」


 クウヤがロッドの背中に言葉をぶつけた。

 ロッドの紹介に合わせ、少女は後ろの男をそっと見た。

 クウヤのツッコミに顔を気持ち綻ばせると、少女も名乗った。


「……ミクリ……です」


「ミクリちゃんか、よろしく!」


 ロッドはミクリに向かって笑顔で言った。

 ミクリは今までで一番大きく頷いた。


「ここ」


 ミクリが止まった。

 タイミング良く目的地に着いたようだ。

 その場所を見た三人は目を疑った。

 三人の双眸に写ったのは、和風の巨大な門と、その奥にそびえる大きな家だった。全貌を捉えることができないほどの巨大な敷地に建っている。

 周りの住宅と比較しても一際目立っており、異彩を放っている。

 その荘厳な佇まいは来訪者らを萎縮させた。

 たじろぐ客人を横目にミクリは門をくぐった。

 三人は後を追う。

 敷地内に入ろうとした時、ビゼーは気づいてしまった。


表札「イシザワ」


「えっ?イシザワ?」


「うん?」


「どうかした?」


 ビゼーが歩みを止めたことにクウヤとロッドは気づいた。


「み、ミクリ。その、名字。イシザワって、あの?」


 いつも滑らかに喋るビゼーが今回はカクカク喋っていた。

 ミクリは頬を赤らめ、コクリと頷いた。


「えっ?イシザワってあのイシザワ?」


 ロッドも仰天している。

 ミクリは再び頷いた。


「あのってどの?」


 毎度のことながらクウヤだけ知らなかった。


「テレビとかによく出てる魔女の一族だよ!」


 ロッドが説明した。


「予言を的中させたり超能力を披露したりしてる」


 ビゼーも補足した。


「ふ〜ん。まじょってまじんのしんせき?」


 クウヤは尋ねる。

 二人は目の前で正面衝突事故を目撃したかのような衝撃的な顔をした。

 二人が答えないのでクウヤはミクリの方を見た。

 ミクリは下を向いていた。

 心なしか拳に力が入っているような気がする。


「どっち?」


「バカ!」


 ビゼーが全力で制止した。

 その後小声でクウヤに厳重注意をした。


「お前、こんなとこで()()とか言うな!んで、本物の魔女に魔人と似てるとか絶対言うな!見ろ!ぜってぇ怒ってるだろ!」


 ミクリの方を見ると首を傾げていた。


「う〜ん……違うけど……似てるところはある……かも?」


 ミクリは熟考していただけのようだ。


(子供で助かった〜!)


 ビゼーとロッドは心の中で全力で叫んだ。

 イシザワの一族は自分たちの力に誇りを持っているらしい。

 今、世間的には底辺の存在である魔人と地球が誇る最強の魔女の一族を同列に並べたらどんな仕打ちが待っていることか。

 ミクリはまだその辺りのことを深くは理解していないのだろう。

 特に咎められることもなかった。


「入って」


 ミクリは三人に言った。


「は〜い!」


 クウヤはスタスタと玄関へ向かっていく。

 ビゼーとロッドは冷や汗を拭いつつ玄関へと向かった。ほんの数秒でどっと疲れが押し寄せた。


「ただいま〜」


 ミクリは玄関の引き戸を開けた。


「おかえり〜どこ行ってた……あら?お客さん?」


 家の中にいた女性が玄関まで来た。

 直後、玄関の外にいる三人を見てミクリに問う。

 ミクリはうん、と言いながら頷いた。

 ビゼーとロッドは女性と目を合わせて会釈した。

 それを見てクウヤも続いて会釈した。

 女性も会釈を返す。


「ミクリ……娘に連れられて来たんですか?」


 女性が三人に聞く。


「はい……」


 ビゼーが返事をした。


「そうですか……」


 女性はミクリを一瞥すると三人を家の中へ招き入れた。


「お邪魔します」


 三人は豪邸の中へと入っていった。

次回 聞込 壱

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