第〇頁 プロローグ 少年の記憶
——平穏な日常——
朝起きて、昼仕事をし、時には休息をとり、夜眠る。
単調な循環であるが、どれ一つとして同じ内容の日はない。
変わらないリズムの中に時々訪れる小さな違いを楽しむ。
そういうものなのだろう。
当たり前の日々から成長や老いを実感させられるることもまた、一興である。
しかし、ささやかな幸福に包まれているまさにその瞬間には、
——それらが二度と訪れない永遠の思い出になるなどとは一ミリも考えないものだ。
——そして、それらが突然消滅するなどということは脳内から排除された思考であり、天地がひっくり返ってもありえないことだと錯覚している。
一七四世紀某年某月某日
某国某所
少年は家までの帰り道を一人歩いていた。
太陽は西へ傾き、辺りは暗くなりつつある。
少年を照らす西陽が「もうじき日没だぞ」と伝えていた。
少年はふと母に言われた言葉を思い出す。
「暗くなる前には帰ってくるんだよー!」
「かーちゃんとのやくそくまもらないと……」
母は優しく、少年は彼女に怒られた記憶がない。一方、父は厳格で、特に約束事を守らなかった時には死人が出る勢いの雷が落ちた。
それでも少年は両親二人とも大好きであった。
「ねーちゃん、さきかえっちゃったから、かえったらいっしょにあそぼ!」
少年は口に出して誓った。
彼は家族四人暮らしだった。
直前まで、近くに住む叔父の家を姉と共に訪問し、目一杯遊んでいた。
姉は、宿題をやる、と言って先に帰ってしまっていた。
少年が住む家と叔父の家へは一本道で行くことができ、二、三分あれば行き来できる距離であったので一人で帰っていた。
大好きな家族に早く会いたいと思った少年はスキップを時折交えながら帰宅した。
家が見えてくると少年は駆け出した。
玄関前に立つと、勢いよく扉を開けた。
「とーちゃーん!かーちゃ……」
扉を開いて家の中の様子が見えた時、少年は自分の目を疑った。
とてもこの世のものとは思えない光景だった。
床が赤黒く着色している。
——血だ。
周辺の家具に飛び散ったような痕があった。
その床の上に男女二人の人間が綺麗に並んで横たわっていた。
二人は仰向けに寝ており、胸の前で手を組んでいる。
男性は比較的綺麗だったが、女性の方は全身真っ赤だった。特に腹部あたりが濃く染まっていた。
床の着色もその女性のものだろう。
それよりも衝撃だったこと。
横たわる二人の前に、人が立っていた。
腕が床と同じ色に染まっている。
サッと、その人物が振り返った。
上半身は服が真っ赤になっていた。顔にも付着している。
その顔は馴染みのあるものだった。
悲惨な家。情報過多。
何よりも現実が受け入れられなかった。夢とも思いたくない。
少年は意識が遠のいてしまった。
その日の少年の最後の記憶。
——倒れた二人の前で無気力に立つ少女の、少年に向けられた冷徹な睨みを利かせた視線だった。
まるで修羅を前にしたかのような……
次回 進路
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