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 次の日出かける時に見送りをしたら、三日ほど帰らないと言われた時は食事がよっぽど口に合わなかったのだろうかと思ったほどだ。

 朝食も張り切って作ったのを微妙な顔で食べていたので、及第点には届かなかったらしい。

 でも携帯食料よりはマシだろうと思うので、これからも遠慮なく食事を作るつもりでいた瑠衣だ。

 ニーナに尋ねると、元々予定に入っていた仕事だというので安心した。

 言われたとおり三日間、主不在の屋敷で過ごした。

 そして四日目の夜、夕食も湯浴みも済ませてそろそろ寝ようかなと思っていた時に、ニーナからトゥーイが帰ってきたと知らされ、ぱたぱたと玄関ホールへと向かって思わず顔を顰めた。


「なんです、その顔は」


 留衣の表情に、トゥーイが半眼になったがそれどころではない。


「顔色が悪すぎる!」


 そう、トゥーイの顔色は最悪だった。

 もともと白かった白皙の美貌はあからさまに疲労の色が見て取れ、青白い。

 目の下にも隈があり、全体的によれよれだ。


「ちょっ!とりあえず横になった方がいいよ」


 ぐいと思わずトゥーイの部屋へ引っ張って行こうとして右手を掴むと、バシリと手を叩き落とされた。


「触るなと言いましたよね。それに、まだ仕事が残っていますので」


 ぽかんと目を丸くした留衣だが、手を叩き落とされたことはあまり気にせず。


「だったらせめてソファーで横になって休んだ方がいい。そんなぼろぼろじゃ仕事するにしたって非効率だと思う」


 腰に手をあてキッパリと言えば、迷惑そうに舌打ちされた。

 舌打ちされても病人並みに顔色が悪い人間など怖くはない。


「ベッドに入るまで近くで監視してもいいんだけど」


 一歩前に出て断言すれば、口を引き結んでぷいと応接間の方へと歩き出したので、その背中に声をかけた。


「横になっててね」


 言うだけ言って、留衣は洗面所へ行き温かいお湯を洗面ボウルに準備してタオルを浸した。

 それを固く絞ったものと洗面ボウルを持って応接間へ行くと、トゥーイがブーツを履いたまま二人掛けソファーに仰向けに横になっている。

 まるでふてくされた子供のようだ。

 ベッドで監視されるくらいなら、ある程度瑠衣に付き合うことにしたのだろう。

 ソファーに近づき、絨毯にぺたりと腰を下ろして洗面ボウルを置くと。


「タオル乗せるよ」


 温めたタオルを折りたたんで、トゥーイの目元に乗せた。

 ひくんと一瞬、顎が動いたが抵抗しなかったのでよしよしと思う。

 トゥーイには触れていないのでセーフなのだろう。


「ちゃんと起こすから寝ちゃっていいよ」

「人の気配のあるところでは眠れません」


 難儀な。

 頑なな性格だなあと思いながら。


「子守唄でも歌おうか?なーんて」

「じゃあ歌ってください」


 冗談を口にしたら、反撃のように促された。

 意趣返しかもしれない。

 けれどまあいいかと思い、瑠衣は有名な子守り歌を小さく歌い出した。

 それを聞いているのかいないのか。

 じっと見ていたら休みにくいだろうと目を伏せたとき。


「……なつかしい」


 小さく小さく口の中でトゥーイが呟いたことに、留衣は祖母に聞いたのだろうかと思いながらタオルがぬるくなるまでのあいだ口ずさんだ。

 そのあいだに何度かタオルを温めなおす。

 ある程度時間が経ったら、部屋へ戻るとトゥーイは立ち上がった。

 顔色は多少マシになっていたので、まあいいかと見送る。

 結局そのあとトゥーイは書斎へ行き、眠ることなく仕事をしたらしい。

 ニーナが明け方まで起きていたことを教えてくれた。

 今日は休みだと聞いたので朝になっても起きてこないトゥーイに、しっかり寝てもらおうと思っていたら正午になった。

 食堂で昼食を食べていると、トゥーイが髪をほどいた白いシャツというラフな格好で姿を現した。

 午前中ずっと寝ていたからか、顔色も戻っている。


「おはよう」

「おはようございます。今日は出かけるので準備してください」

「準備って私も?」


 ごくんと食後のお茶を一口飲んで尋ねると、ええと返事が返ってくる。


「休みをとりましたので、あなたの日用品を買いに行きます。それと野暮用です」

「わかった。あ、朝ごはんの準備するね。ていうか昼食かな」


 立ち上がると、トゥーイが断るように口を開くよりも早く留衣は台所へと引っ込んだ。

 断られたら、どうせ食事を抜くか携帯食料だ。

 食事はとるべきだ。

 ひもじいのはよろしくないし、温度のない食事は気分も滅入りやすいというのが瑠衣の持論だった。

 トゥーイは何だかんだそれに付き合ってくれるし、美味しくないと顔に張り付けているのに残さず食べてくれるから、優しいし律儀だよなと思う。

食事を並べると、食べているあいだに準備をするよう言われニーナと部屋に向かった。


「出かけるってどこに行くんだろ。買い物って言ってたから街だよね」

「はい、シンプルな服でいいと思います」


 ニーナの言葉に頷いて若草色に小さくフリルがついたドレスを手に取って、着替える。

 着なれない服装は何だか新鮮だ。

 着替えが終わって玄関ホールへ向かうと、トゥーイがすでに待っていた。


「おまたせ」


 彼は髪をいつものように結って、白いシャツの上に砂色の上着と黒いトラウザーズという姿だった。

 手には相変わらず魔道具の黒い手袋を嵌めている。

 彫刻のような美貌によく似合っているなあと思いつつ、美人の隣は歩きにくいなと独り言ち

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