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トゥーイが用意してくれた服はシンプルなドレスが数着だった。
聞けば、女性は基本的にドレスだと言われて軽いカルチャーショックだ。
動きにくいかと思ったが、普段着用のものらしくそうでもなかったので楽な着心地だったのは助かった。
そしてニーナにトゥーイの帰宅時間を聞くと、大体同じ時間に帰るらしい。
ホワイトだなと思いながら、ならば夕食を作ろうと気合いを入れた。
朝も食べない。
昼も食べていないかもしれない。
この様子なら夜も怪しい。
食べても携帯食料。
これはいけない。
騎士と言うからには体が資本なはずだ。
ついでに言えば、家主が携帯食料なのに自分だけちゃんとした料理を食べるのはどうかと思う。
そんなわけで、トゥーイが持って帰ってくれた食材で瑠衣は料理をしたのだった。
そしてニーナに聞いた帰宅時刻に少し遅れて、夜にトゥーイが帰ってきた。
ニーナが出迎えに行くのについて行き、玄関ホールへと入る。
やはりニーナはトゥーイの気配がわかるらしい。
便利だ。
「おかえりなさい」
玄関扉から入ってきたトゥーイが、まさか留衣がいるとは思わなかったのか少し驚いた表情を浮かべる。
「……ただいま帰りました」
「はい。夕飯出来てますよ」
ぎこちない返事。
けれどにこにこと夕食のことを言えば、ますますトゥーイが目を丸くした。
「作ったのですか?私の分も」
「だって普段、騎士団の携帯食しか食べないって聞いたから。ニーナさんも料理はほとんどしたことないって言うし」
ほら早く食堂に行こうと促すと、まだ少し驚いている様子のトゥーイと連れ立って食堂へと入った。
その長方形のテーブルには、二人分の料理が用意されている。
「先に食べなかったのですか」
「帰ってくるのわかってるから、そりゃ待つよ。一人の食事ってわびしいし」
実家ではつねにそんな状態だったけれど、食べる相手がいるのならせっかくだし一緒の方がいい。
座って座ってと言うと、トゥーイはまだ半信半疑の様子でぎこちなく椅子に腰を下ろした。
それを見て留衣も腰を下ろす。
テーブルには温かい玉ねぎのスープと魚のムニエルと付け合わせの野菜のグラッセ、白いパンにデザートで林檎を切っておいたものがのっている。
それらを見てふ、と少しだけトゥーイが目元を緩めたのには留衣は気づかなかった。
「いただきまーす」
手を合わせると。
「……いただきます」
トゥーイも手を合わせた。
日本人とはかけ離れた外見なので、なんだか不思議だ。
「こっちでもそう言うんだね」
「フミに教わりました」
「そうなんだ」
にこにこと笑いながら、スプーンを手に取りスープを口に運ぶ。
それを見たトゥーイもスプーンを持ってスープを口に運び。
「うっ!」
固まった。
「あれ、口に合わなかった?」
ぐっと拳を口元に当て眉を寄せたトゥーイに、ムニエルを遠慮なく食べながら留衣はぱちぱちと瞬いた。
「あなた、味見しましたか?いえ、愚問でしたね」
すでに半分以上なくなった留衣のスープ皿を見て、トゥーイが眉を顰める。
「味見してるし、これでも毎日料理してたわよ」
あっけらかんと答えると「毎日……」と信じられないように呟かれた。
失礼な反応だ。
「美味しくない?」
「ええ、とても前衛的な味ですね」
そこまでキッパリ言われてしまえば、なんだか申し訳ない気分になる。
「あなた味覚音痴なんじゃないですか」
「そんなことないよ。そりゃ、自分の料理はちょっと独特だとは思うけど」
ぼそぼそと言えば、あからさまに溜息を吐かれた。
美味しいと胸を張って言える腕前ではないけれど、食べられないほどまずいとは思わない。
瑠衣の考える自分の料理はせいぜいちょっと微妙だな、くらいの認識だ。
「まあ、食材を無駄にするわけにはいきませんからね」
言って、眉間に皺を寄せながらトゥーイがまたスープを口に運ぶ。
律儀に食べてくれるなんて嬉しいなと、呑気に考えながら。
「明日からはもっと美味しく作るから期待しててね」
元気よく宣言したら、トゥーイの顔があからさまに引きつっていた。
失礼な。