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なーんてね

リディアが、一歩レオナルドに足を進めた。

ルークは、力尽きたのか、リディアの足元で蹲っている。だが、その瞳は、レオナルドを離さない。

大広間に、緊張感が走る。

レオナルドは、そっと唾を飲み込んだ。

誰かが、自分の魔力を増幅していた装置を止めたことに、彼は気づいていた。


最後の戦いが始まる。

そのタイミングを見計らっていたかのように、大広間の扉が再度、勢いよく開いた。

セレナだった。

息を切らして、クランを連れて飛び込んでくる。

広間の惨状をーーリディアの周囲に残る闇魔法の残穢をみて、セレナは一瞬、息を呑んだ。


「リディアさん、無事ですか……!」

「セレナこそ……というかなんでクランがいるわけ?」

「んなこと、今はどうでもいいだろうが」


遅れて、もう一人大広間に現れた。


「……遅れたわね」


カトリーナだった。

髪は乱れ、制服は破れ、足を引きずっている。

それでも、その背筋だけは真っ直ぐに伸びていた。

その瞬間ーーレオナルドの目が、わずかに揺れた。


(……カティ)


操って、自分の全てを受け入れてくれたひと。

リディアに倒されたはずの彼女。

そのカトリーナがここに来た。それは、自分の味方をしてくれたものだと、レオナルドは無条件に思った。


「……よくきたね、カティ」


レオナルドが、静かに名を呼んだ。

カトリーナは、足を止め、ゆっくりと、レオナルドを見た。

その目には、操られたときにあった、レオナルドを盲信する光はなかった。


(あぁ、闇魔法が切れたか)


彼女はもう、操られていない。

正常に戻ってしまった。


「……レオ」


カトリーナは、一歩踏み出した。


「僕の、味方をしに来てくれたのかい?」


レオナルドの問いかけは、静かだった。

闇魔法が解けても、自分を愛するカトリーナなら、リディアと敵対しても自分についてくれると思っていた。

そのはずなのにーーレオナルドの胸奥で、何かが揺れていた。


「…..違うわ、レオ。あなたを、止めにきたの」

「……止める?」


レオナルドの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。


「僕を愛しているんじゃなかったのか」

「そうよ」


カトリーナは、はっきりと言った。


「あなたを愛しているから……あなたのために止めるのよ」


レオナルドの笑みが、消えた。


「あなたが望むなら、あなたに操られてもいいと思った。それで、あなたの心が救われるなら、自分がどうなってもいいと思ったわ」


カトリーナの声が、わずかに震えた。


「でも……リディアが私を正気に戻してくれた時、わかったの。それは、愛じゃなかった」

「……何が言いたい」

「本当に誰かを愛するなら」


カトリーナは、レオナルドからそっと目を逸らし、セレナとクランを、リディアとルークを見た。


「その人の間違いを、間違いだと言わなければいけない。たとえ……嫌われても」


広間が、静まり返った。

レオナルドは、しばらく黙っていた。

やがて、その目が——細くなった。


「……裏切るのか」


低い声だった。

静かで、冷たくてーーでもその奥に、子どものような弱さが滲んでいた。


「やはり、君も……僕の味方には」

「裏切りじゃないわ」


カトリーナは、静かに遮った。


「これがーー私の、愛し方よ」


レオナルドの体が、強張った。

その言葉が、彼の胸の奥を刺す。


「……くだらない。そんなもの……僕には、必要ない」


レオナルドは、目を伏せた。

そんな彼を、カトリーナは何も言わずに見つめ、ただ静かに…..リディアの隣に並んだ。


レオナルドにとってのリディアは、ちょっと魔法が優秀なだけの、ただの平民の女だった。

時間魔法を使えるのは素晴らしいが、それ以外は、レオナルドに劣る未熟な魔法使い。

なのになぜ今……レオナルドの周りには、誰もいなくて、リディアのそばには、セレナ、クラン、ルーク……そして、カトリーナ。こんなにも優秀な人材が集まっているのか、レオナルドには理解できなかった。


さっきまで、同じ闇に染まっていたのにーー今のリディアの周りには、光が集まっているようだった。

リディアが、憎たらしかった。

レオナルドは両手を広げた。


「……君さえいなければ……リディア、終わりにしよう」

「……私は、私たちは、あなたを倒すよ」


次の瞬間、大広間全体が震えた。

レオナルドの全身から、闇の気配が溢れ出す。

床が、壁が、天井がーー全てが黒く染まっていく。

レオナルドの手元に、これまでとは比較にならない巨大な闇の塊が生まれた。

それは渦を巻き、広間の空気を歪めながら、全員を飲み込もうとするように膨れ上がっていく。


「これが……僕の、全てだ」


リディアは、掌に魔法陣をイメージした。

大樹。幾重にも広がる枝と葉。生命エネルギーが巡る紋様。

共鳴魔法の魔法陣が、リディアの掌に浮かぶ。


「みんな……私に力を貸して」


セレナが、頷いた。

カトリーナが、一拍置いてーー頷いた。

ルークは無言で、リディアの掌に手を重ねた。

魔法陣が、光り始める。


リディアの手元で、セレナの植物魔法が、緑の光として絡まっていく。

カトリーナの炎が、赤く燃え上がって混ざり合う。

そしてルークの魔力がーー温かくて、芯は熱く、どこまでも澄んだ力が、リディアの中に流れ込んでくる。

全員の魔力が、一つの魔法陣の上で溶け合い、鳥の姿を形成し始める。

その光景を、レオナルドは静かに見ていた。


(……あの鳥は前もみた)


一度目は、模擬戦で。

二度目は、ナイル国で。

威力は本物だがーー手の内は、わかっている。


(軌道を読んで、厚い闇の盾を重ねれば、あの鳥は防げる)


レオナルドは、静かに闇の盾を何重にも展開し始めた。

だが。


「飛べ!!」


リディアが、光り輝く鳥を羽ばたかせた瞬間——レオナルドの目が、わずかに見開いた。


(……違う)


今までのリディアの魔法とは、違った。

金と蒼だけじゃない。

緑が絡まり、赤が燃え、白が混ざり合ってーー見たことのない色をした鳥が、翼を広げていた。

その大きさは、これまでの倍以上だった。


(なんだ、これは……!)


レオナルドは、重ねた闇の盾に魔力を注いだ。

一枚目が、砕ける。

二枚目が、砕ける。

三枚目ーー

(まだ、止まらない……!)

四枚目が、砕ける。


仲間の力を乗せた鳥は、レオナルドの最後の盾をーー貫いた。

轟音が、広間を揺らした。

閃光が、空間を白く染めーー静寂が訪れた。

レオナルドは、膝をついた。


ーーーーーー


リディアは、その静寂の中を、一歩一歩歩いた。

レオナルドの前まで来て、立ち止まる。

レオナルドが、顔を上げた。

その顔はーー学園のプリンスでもなんでもない。ただ、母の手を探す、少年のようだった。

余裕も、微笑も、全部剥がれ落ちていた。

リディアは、そんなレオナルドが、傷ましくて、切なくてーー。どうにかしたかった。

そっと、拳を握る。

そして…..ためらいなく、その拳をレオナルドの頬に叩き込んだ。

乾いた音が広間に響き、レオナルドが、床に倒れる。


「ザマァみろ、レオナルド……ずっと見下していた平民女に、負けたんだよ」


レオナルドは呆然としていた。

そんなレオナルドの元にリディアはしゃがみ込む。


「なーんてね。私1人じゃ、あなたには勝てなかった、でもみんなの力で勝てた」

「……」

「ねぇ、レオナルド。私ね、カトリーナとは喧嘩ばっかりだし、セレナにも甘えてばっかり。ルークには迷惑ばっかりかけて……私には、だめなところがいっぱいある。それでも、みんな私を受け入れてくれる」

「……自慢か?」


リディアは首を振った。


「それでね、カトリーナは高慢だし、セレナはたまに天然だし、ルークは自分に自信がないし……そんなみんなを、私は受け入れているつもりだよ」


レオナルドは、答えなかった。

ただ、床に手をついたまま、動かなかった。

リディアは、そっと覗き込むように、レオナルドと目線を合わせた。


「そうやって、みんな支え合ってるんだよ」

「……何を」

「学園のプリンスにならなくていい。無理に演じなくていい。レオナルドが実は性悪でも……私も、カトリーナも、みんなーーそれを受け入れたいと思うよ」


レオナルドが息を呑む。

カトリーナを見上げれば、彼女は涙を流して頷いていた。


「くだらない……そんなわけないだろう」

「幸せは、自分で掴むものだよ。苦労して、傷ついて、それでも諦めないでーー自分で、掴み取るものなの。そうやって、否定ばっかりして、動かなかったら、何も変わらないよ」


レオナルドは、長い間、黙っていた。


「……くだらない」

その声は、震えていた。


「そんなこと……僕には」


言葉が、途切れた。

リディアは、立ち上がった。


「……あなたには、まだできると思う」


それだけ言って、リディアは踵を返した。

レオナルドの震える手が、目に焼き付いていた。

やっとここまでかけました……!!

ここでひと段落、タイトル回収。ぜひリアクション、評価いただけると嬉しいです。

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