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守るための戦い

今回はセレナ視点です。

蔦が、地面を割って噴き上がった。

生き物のように蠢き、空気を裂きながら、一直線にセレナへと伸びてくる。


「……っ!」


セレナは一歩、横へ跳んだ。

次の瞬間、さっきまで立っていた場所を、太い蔓が叩き潰す。土が跳ね上がり、冷たい破片がセレナの頬を掠めた。


(――速い)


セレナは思わず息を呑んだ。リディア達に伝えた“とっておき“もないなか、攻撃を躱し、種子で反撃しているが――すべて、難なく防がれている。


(これはいよいよ、まずいかもしれませんね)


セレナはこの戦いに勝てなくても構わないと思っていた。

リディアがレオナルドと話す時間をーーリディアがカトリーナを見つける時間さえ稼げれば、それでよかった。

だが、相手はそうではないらしい。


「あなたのような、ポッと出の平民留学生風情が!カトリーナ様と一緒にいるべきじゃないのよ!!」


エレノアは、まるで親の敵を見るかのように、セレナを睨みつけ、次々と攻撃を仕掛けてくる。


「……なぜそこまで、カトリーナさんにこだわるのですか?」

「気安くあの方のお名前を呼ぶな!!カトリーナ様は、誰よりも気高くて美しいのよ……あの方に、私はついていくと、あの方の魔法を見たときに決めたの!あの方についていけば……私もみんなに認められるのよ!!」


エレノアが叫ぶ。

そして、彼女の足元に、複雑な紋様が浮かび上がっていた。

幾何学的で、どこか歪な円環。地面いっぱいに広がる、それはーー


(……いにしえの魔法)


各貴族で伝わる秘伝の魔法。

目に見える魔法陣は対策されやすいが故に、現代では、通常使われないと学園では習ったが……


(魔法陣も荒いですし、付け焼き刃、ですね……それでも、威力はすごそうですが)


セレナは、状況を冷静に分析した。

エレノアの一家に伝わる魔法陣を完全に習得していない中、怒り先行で魔法陣を出したのだろう。


エレノアの周囲に蔦が這い始める。

蔓だけではない。地中から、樹の根が、茨が、次々と呼び起こされていく。

この一帯そのものが、エレノアの魔法陣に取り込まれていく感覚。


(正面から受けたら……保ちませんね)


セレナは静かに息を整え、足元に魔力を集めた。

まだ未完成のーー自分の魔法陣を、展開する。

それは、エレノアのものと比べれば、あまりにも小さく、簡素だった。

円も線も、最低限。派手さはない。


「何よ!あなたのその未熟な魔法陣……!みっともないわね。そんなんじゃ、すぐに対策されてしまうわよ?」

「……構いませんよ」


セレナは、不敵に笑う。その微笑みはどこか、聖女の慈悲の心を宿しているようだった。


「この国の方々は、ずいぶん戦いがお好きですね。戦うための魔法陣を作り、対策されるのを恐れる。でも私の魔法は……守る魔法です。誰からの、どんな攻撃も防ぐ……そんな魔法」


エレノアの周囲の蔦が、草木が、一斉にセレナに襲いかかる。

蔦が、嵐のように押し寄せた。

四方八方から伸びる茨と根が、逃げ場を塞ぎ、空気そのものを締め上げてくる。

一本一本が、先ほどまでの比ではない太さと勢いだった。


「……っ!」


セレナは歯を食いしばり、魔法陣に魔力を流し込んだ。

地面から若木が芽吹き、盾のようにして蔦を受け止める。

枝が絡み、根が絡み合い、攻撃を受け止めたーーが、完全ではない。

セレナの耳元で“ばきり“と嫌な音を立てた。

若木の一本が、根元から折れる。


同時に、セレナの額を嫌な汗が伝う。


(……魔力が、足りない)


やりたいことは明確なのに、そのための魔法陣だって描けているのにーーセレナでは、それが実現できない。

それでも、セレナは諦めなかった。


「どうしたの? さっきまでの余裕は!」


エレノアが嗤う。


「あなたの守る魔法とやらも、ここまでみたいね!」

「……ええ、長くは保ちません」


セレナは、素直に認めた。

その声音は、不思議なほど落ち着いている。


「でも、それでもいいんです」

「……何よ、負け惜しみ!?」

「違います。私の目的は、十分達成されていると言うことです」

「何、ですって…..?」


一瞬、エレノアの表情が歪んだ。

それを見守りながら、セレナはそっと目を閉じる。

どうか、リディアが前に進めるように。ルークが、走るその足を止めないようにーー。

レオナルドとカトリーナが、リディアと出会って救われるようにーー。


セレナが祈るのは、仲間たちの無事だけだった。


「わかりませんか?私は、あなたを足止めできれば十分なのですよ」


エレノアが表情を歪ませ、自身の魔法陣に、振り絞るように魔力をこめた。

すると、蔦がさらに増殖する。

今度は、セレナの上から——枝と茨が覆いかぶさるように落ちてきた。


(……限界、ですね)


視界の端が、わずかに暗くなる。

魔力切れの兆候だ。もう、限界だったーー

セレナは、折れかけた枝に、最後の魔力を流し込んだ。


(ごめんなさい、リディアさん。私は、ここまでです…..)


その瞬間ーー


「おい、女。お嬢に手を出そうなんて……いい度胸だな」


低く、荒れた声が戦場を裂いた。

次の瞬間、セレナを覆う蔦が、何かに切り裂かれて宙を舞う。


「なっ……!?」


蔦を切り裂いた残像が、セレナを守るよう現れた。


「遅くなった。大丈夫か、お嬢」

「……ク、ラン……??なんで、ここに……」

「お嬢からあんな手紙もらって、俺が駆けつけないと思ってたのか?甘いっすよ」


セレナを振り返って笑うその姿はーーかつてナイル国の留守を任せた、頼もしい仲間だった。


「そん、な……だって、あなたには他のことお願いしてたじゃないですか」

「詳しい話は後っすよ。まずは、この女をぶちのめせばいいのか?」


そう言って笑うクランは、生き生きとしていた。


「……ちょっとおとなしくしていただきたいです。でも、喧嘩じゃないんです、程度は弁えてくださいね?」

「わかってますよ」


クランは嬉しそうに頷き、セレナの足元から一閃ーーエレノアの方に駆け出した。

クランの介入で、場の状況が一変した。

エレノアは、瞬時にクランの立ち位置を理解する。

セレナを守る、戦い慣れした男ーー。


「邪魔……邪魔よっ!!」


怒声とともに、蔦が地を這い、クランへと向かう。だが、先ほど大量の魔力を消費したエレノアに残された力は僅かだった。クランは魔法を使わず、その蔦を手元の太刀で全て切り伏せる。


「遅ぇ」

「っ……!」


エレノアの瞳が、驚愕に見開かれる。

セレナは、その一瞬の隙を見逃さず、ポーチから小瓶を取り出し口に含んだ。

苦い液体が喉を焼き、同時に、身体の奥から僅かに、魔力が生み出されるのを感じる。


(……一瞬だけ、ですけどね)


それで十分だった。

セレナは、足元の魔法陣に、新たな線を一本、描き足す。

即席で、不完全で、それでもーー今、この場に必要な形。


「……お願い、芽吹いて」


祈るような小さな声がセレナから漏れる。それに呼応するように、地面から、無数の細い蔦が伸びた。

それは攻撃ではない。絡め取るための、誘導のための枝。


「もう魔力切れの分際で……っ!」


エレノアの意識が、完全にセレナの魔法へと向いた。

その瞬間ーー


「隙だらけだぜ」


クランの声が、エレノアの背後に落ちる。

直後、首筋に衝撃。

エレノアは前方に倒れ込み、足元の魔法陣は消失した。


「……背後からなんて……卑怯者……!」


地に膝をつきながら、エレノアが呻く。

クランは、肩をすくめる。


「卑怯で結構。ナイトじゃねぇんだ。お嬢を守るためなら何だってやるさ」


エレノアの周囲にある蔦が、根が、力を失い、地に伏した。


「……カトリーナ、様……」


その名を最後に、エレノアは意識を失った。

静寂が、訪れる。

セレナは、深く息を吐いた。疲労から、足が少し震えた。


「……助かりました、クラン」

「……言っとくけど、俺怒ってますからね。無茶しやがって……でも、間に合ってよかった」


クランがそっとセレナの頭を撫でる。セレナは、気まずげに微笑んだ。


「でも、ずいぶん短期間で来れましたね?どうやってきたんですか?」

「アレン・ルーミンハルトの魔法で。彼も一緒に来てますよ」

「……!」


セレナの表情が、一瞬だけ強張った。


「何か家にもどってやることがあるって言ってましたけど、そのうち多分こっちに合流するはずです」

「なるほど……」


セレナは、ゆっくりと立ち上がり、学園の奥を見つめた。


「……気になることがあります」

「何です?」

「ルークさんが、この学園には仕掛けがある、と言っていました。それが、レオナルドさんの闇魔法を増幅させている、と。それを、私は解きたい」

「いいじゃん、面白そうだ」


セレナとクランの瞳が、一瞬交錯する。


「で、具体的にどうするんすか?」

「図書室には、禁書庫があります。セキュリティがすごいみたいなのですが、この混乱に乗じたらあるいは……」


セレナはクランをチラリ、と見るとイタズラげに笑った。


「手ぐせ、相変わらず悪いですか?」

「仕事ではちゃんとしてますが……腕は落ちてないと思いますよ」


クランも不敵に笑う。やることは、決まった。


「行きましょう」

「おう」


二人は、まだみたことのない禁書庫に向かった。

もう出さない予定だったクランを、やっぱり出してしまいました…!クランについて知りたい方はぜひ第三章をお読みください。


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