解けた魔方陣
レオナルド視点、短いです!
深夜、男子寮は静寂に包まれていた。
月光が差し込む部屋で、レオナルドはじっと、自らの胸元を見つめていた。
そこには、幼少期にアレンに刻まれた“闇魔法による精神操作を制限する魔法陣“が刻まれている。
だが、その魔法陣も、今夜、終わりを迎える。
「いよいよ、か……」
独白のように呟き、レオナルドはこの魔法陣が刻まれた時のことを思い出す。
母に愛されたかったこと、無意識に母の精神を操作したこと。
だが、結局は母を壊し、アレンに魔法陣を刻まれたこと。
魔法陣を刻まれ、高熱を出した自分を、母は心配してくれず、父に夢中だったこと。
全ては、忌々しい過去だ。
(魔法陣をとき、自分の力を取り戻す)
そして、今度は失敗しない。
適切な範囲で、人々を操る。いきなり、自分を愛するように仕向けてはいけない。
みんなの心に寄り添い、そっと甘い毒を添えればいい。そうすれば、いずれみんな、自分を愛するようになる。
余計なことを考えるから、みんな悩むんだ。
僕が、みんなの悩みを受け入れる、悩まなくていいようにしてあげる。そして、みんなを愛してあげる。そうすればーーみんな、僕を愛してくれる。
学園のプリンスとして、もう仮面を被る必要はない。
面倒なときに笑う必要も、誰かの理想でいようとする必要もない。
これからは、ありのままの自分としてーー生きていける。
レオナルドは、高揚感から胸が高鳴るのがわかった。
冷静さを取り戻すように、一つ大きな深呼吸をする。
アレンに刻まれた魔法陣には、時間魔法が組み込まれていた。自分が魔力を流すと、それが体内をめぐり、不具合を起こす魔法。
だったら、体内にめぐる魔法の逆再生をすれば、この魔法陣は打ち消せる。
(逆再生、ね)
無邪気な顔で、それを思いついたのはリディアだった。未知の魔法陣を、どうやって破るかーー。何も知らない彼女は純粋な笑みで、核心をつく。素晴らしい才能だ。
「やるか」
レオナルドは、ゆっくりと魔法をイメージし、右手をかざした。それを、アレンに刻まれた魔法陣の上に乗せていく。
手のひらの奥、封印された光魔法が蠢く。
胸が熱い、痛い、苦しいーー。
それでも、この先に“解放“があるのが、わかった。
「っく……!」
レオナルドの額に玉汗が浮かぶ。
魔法陣の線が淡く光り、反転するように黒が滲んだ。
抵抗する光の結界を、闇がゆっくりと食らっていく。
ーーパキン
音がした。
長年、心臓の奥を縛り付けていた何かが、砕けた。
視界が鮮やかに染まり、胸が痛いほどに脈打つ。
痛みで視界が揺れる。胸が裂けるように熱い。息が詰まり、膝をつきながら、それでもレオナルドは笑った。
「……は、ははっ…..!戻った、戻ったぞ……!!」
それは、歓喜というより、解放に似た悲鳴だった。
長年眠っていた闇が、ようやく目覚めた。
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