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罠に立ち向かう鷹

(あー、イライラすんな)


いつも通りの聖人のような微笑みを浮かべながら、アレンは苛立っていた。

魔法界の重鎮たちの、言葉だけは立派な、中身の伴わない会議には辟易する。こんなことをしてる暇があるなら、風呂掃除でもしたほうがマシだなーー風呂掃除を簡単にする魔道具あれば、みんな楽だろうな……


どんどん思考が脱線しながらも、表面上は会議に参加するアレン。

だが、その表情が突如変わった。


熱を帯び始めた腕輪。家族が持っており、互いの危機を知らせることができる特別な魔道具。

それが今、アレンにルークの危機を知らせていた。


(今朝届いた手紙にも、闇魔法のことが書かれていた。ルークに任せるつもりだったが、思った以上に深刻なのかもしれない)


アレンは椅子から立ち上がった。笑顔はそのままに、だが声には明らかな圧をかける。


「失礼、急ぎの要件を思い出しました。続きは後日で」


周囲が戸惑うのを気にせず、アレンは部屋を立ち去る。


「待ってろ、ルーク。すぐにいく」


ーーーーーー


「……くっ!」


ルークは、足元に魔法陣をイメージし、加速魔法でアキトからの攻撃を避けた。


予想通り、アキトに案内された場所は罠だった。そして、予想以上にタチの悪い罠だった。

その場には、アキト以外にも複数の神父がいて、彼らも魔法が使えた。とはいえ、マナギア国の由緒ある魔法学園で模範生を務めるルークにとって、そいつらは敵ではない。


ーー問題は、子どもだった。


「アキト殿!教会は子どもを盾に戦うのですか!」

「盾などではない。彼らは、教会の理念に賛同した孤児たちだ。女神様を信仰し、女神様のお力もわずかにだが使える。彼らは、彼らの意志で、女神様を否定するお前たちと戦ってるにすぎない!」

「へっ!よくいうぜ。親を亡くして傷ついたガキたちをテメェらの都合のいいように洗脳しただけだろうが!」


子供達の攻撃を避けながら、ロニとクランがアキトを責めるが、アキトはものともしない。


孤児、中でも多少魔法素養のある子どもたちを、神父たちは時に攻撃の手段として、時に盾として扱う。複雑な大人数との対人戦で、“人質“とも言える子どもたちを掻い潜っての戦闘が、事態を複雑にしていた。


(このままだと消耗戦だな)


ちらり、とルークはロニとクランをみた。クランは、魔法は使えないが戦闘能力が高い。小刀を片手に魔法を弾き、常に一歩先を読んで動いている。ロニはおそらく典型的な文官ーーその場しのぎで攻撃を避けているが、限界も近そうだ。


「ロニ殿!あなたは端によけてください。そこに防御魔法を張る!」


ロニが走り、ルークも結界を張るためにその後ろを追う。その隙をつくように、ルークめがけて複数方向から魔法が飛ぶが、危なげなくルークはそれを防ぐ。


そのとき、虚な目の少女が、ルークの前に飛び出した。


「......助けて」


ルークの足が、思わず止まる。

そして、それを狙っていたかのように、ルークに攻撃魔法が放たれた。


(っ......しまった!間に合わない!)


ルークは防御魔法を展開し、自分ではなく少女を守る。

そのとき、金属音が響いた。


「あーあ。せっかく身を挺して守るのに、相手ルークだもんなー」

「クラン!」


クランが手元のナイフで魔法を防ぎ、ルークのそばにいた少女の頭を撫でる。


「......大丈夫か?」

「うん、お兄ちゃんありがとう」


クランは顎でルークにロニをしめす。


「早くしろ、んで、ロニだけじゃなく子どもたちで助け求めてるやつも魔法で守れよ。この子も連れてけ」

「助かる!」


ルークが少女を引き連れ、この場に無理やり連れてこられた子たちはこっちに来い!と叫んでいる。何人かの子どもたちがルークについていき、ロニと一緒に小さくなって集まり、ルークが防御魔法をかけようとしていた。

神父たちも、それを見逃すほどバカではない。次々にルークめがけて魔法が放たれており、クランは、ルーク達を守るために可能な範囲でそれらを防ぐ。


(ルーク、すげぇな。魔法を防ぎつつ、全員しっかり守っている……魔法自体もすげぇんだろうけど、何より“全体を把握して““判断する“力が段違いだ。ただ……形勢が悪くなってきている、そして、あいつもそれを感じている)


「負けてらんねぇな」


ルークが必死に防御魔法をかけているのを見届け、クランは大きく深呼吸をした。左耳にぶら下がるピアスをそっと撫でる。セレナにーーもらったものだ。


(しっかりやれ、俺はソラキ商会の鷹だ。商会を、ソラを守るのが仕事だ)


クランは唇を舐め、大胆不敵に笑った。ただ防御する、なんてクランの性に合わない。攻めながら守る、それがクランの真骨頂である。

クランは、神父たちの中でも、おそらく最も強いアキトに向かい、駆け出した。

腰を落とし、両腕を後ろに流しながら走るその様は、獣のようでもあり、獲物をねらう“鷹“のようでもあった。


「クラン!やめろ!攻撃するなら俺と一緒だ!」

「オメーはそいつら守ってろ!」


ルークの叫びを振り切り、クランは床を蹴る。魔法が使えない身でありながら、前線に出ることを躊躇わない、戦い慣れたその姿勢に、戦闘経験のほとんどない神父たちが動揺する。


「殺せ!!」

「あの野蛮な男を早く!」


焦りからか、神父たちの魔法発動が遅くなる。クランの動きは素早かった。鍛え上げられた体と経験による勘で、神父たちの魔法の間を縫い、時に邪魔する神父を蹴り、時にナイフの柄で殴った。


「ぐっ……!」


神父が倒れていく。

クランは速度を緩めずアキトに正面から向かう。それが罠だとは気付かずに。


「やめろ、クラン!罠だ!」


ルークの警告は間に合わなかった。あと5歩でアキトの喉元に、というところで、クランの足元が爆ぜ、赤い光がクランの右肩を貫いた。


「っが、あああああ!」


悲鳴をあげるクラン。その体が、追撃で後方へ吹き飛ぶ。ルークが風魔法でクランを受け止めたが、クランの顔から脂汗が垂れ、床に血を撒き散らしながら倒れ込んだ。


「クラン!」


ルークが駆け寄ると、クランの肩からは鮮血が流れ出ており、服が焼け焦げていた。魔法を持たぬクランには、ただの一撃でも命取りになりうる。


「へっ......!防御魔法はかけれたかよ......?」

「.......お前が囮になってくれたからな、一番強いのを時間かけてかけれたさ」

「なら、貸し1つ......だ、な」


クランは、痛みに顔を歪めながらも、笑っていた。

その瞳に宿るのは、後悔ではなく、人々を守れた誇りだった。

クランは肩を押さえながら、果敢に立ち上がる。その瞳は、神父たちを敵と見做し、戦うことを諦めてはいなかった。ルークは、クランの肩をそっと治療する。深い傷だ、完治はできない。だが、気休めにはなる。


「……これで貸し借りなし、だな」

「おいおい。返すの、はえーよ」


軽口を掛け合いながら、2人はアキトを睨む。

怯える子どもたち、傷ついたクラン。

ルークの中に、怒りが湧き上がる。


(魔法使いってのは、いつだってそうだ。自分達の力を誇示し、弱者をいたぶる)


かつて、才能がないと馬鹿にされた自分。平民という理由で見下されていたリディア。

なんの成果も貢献もしてないくせに、魔法使いは、ただ魔法が使えるというだけで偉ぶっていた。ルークは、それが許せなかった。


兄や、リディアのような魔法使いになりたかった。


「お前ら、許さないぞ」


ルークのその声色は、ゾッとするほど低かった。

どこかの活動報告でも記載しましたが、セレナのファミリーネーム「ソラキ」は「空木」をイメージしてつけてます。ってことで、クランは空、木を守る鷹の異名つけました。

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