セレナの決断
今回短めです!
「セレナお嬢様は、例のハーツが市場で取引されてた時期、マナギア国に留学されてた……ハーツの育成で任意同行というなら、お嬢様が留守の間、権限移譲いただいていた俺が行くべきです」
突然訪ねてきた訪問者。議会のロニと謎の男。
セレナに任意同行を求める男たちを、クランが躱す。
クランは、いつも通り、ラフでくたびれた服装をしており、髪だって乱れている。だけど、毅然と話すその姿は、普段の粗野で粗暴な姿とは異なり、揺るぎない覚悟と静かな威厳が宿っていた。
「.......あなたは、クラン様。なるほど、ソラキ商会の鷹という異名を持つだけのことはある。空をしっかり守っているというわけか」
ロニがクランに感心していると、もう1人の男が、クランを鎮めるように続ける。
「突然の不躾な言動、失礼しました。私は司法局のものです。今回、任意同行と言いましたが、これは実質的には保護とお考えください」
「保護、ですか?」
セレナが首をかしげると、その男は頷き、ロニは机に転がっている映像記録端末に目を向けた。そこでは、司教が光魔法を使うシーンが再び再生されていた。
「もうすでに、状況はご理解いただけていそうですね。教会は、ソラキ商会と議会を目の敵にし、民衆を煽っている。さらに、ハーブ園近くの教会での魔法使いの戦闘、カトリーナ・フランベルグ嬢による神父への攻撃は人々へ恐怖を与えた。すでに商会や議会に不満のある人たちによる暴動、魔法使いを根絶やしにすべきだというデモも起こっています。このままではセレナ様も危険に晒されるかもしれない……なので、任意同行という名目になって申し訳ないが、司法局で安全なところに身柄を移したいのです」
その説明には、説得力があった。
司教の演説、民衆の歓声ーー映像記録端末に映し出されるそれは、どれも異様で狂気じみていた。
「それで、セレナお嬢様の無事が確保できるとなぜ言える?」
「司法局の地下は、侵入が非常に難しい。そこまでセレナ様をご案内すれば、他のところにいるよりはるかに安全でしょう。もちろん、ソラキ商会の会長、若会長にも避難いただく予定です」
「司法局の地下って……大罪人の入るところじゃねぇか!そんなところにお嬢を入れるのか!!」
クランが思わず怒声をあげると、セレナがそれを止める。
「私は構いません……が、いくらなんでも大袈裟じゃありませんか?」
その言葉に、ロニと司法局の人間は途方が暮れた顔をした。
「……正直、我々もそう思っていますが、万全を期したいのです。教会による中毒者の治療、それに合わせての商会と議会の批判ーー。まるで教会の権威を示すように、全てが進んでいる。不気味なんですよ」
「暴動も起き、今後何が起こるかわかりません……ソラキ商会はこの国のライフライン含め、多くの流通に関わっている。あなた方にもしものことがあったら、国として困るのです」
その言葉に、クランは思案する。クランにとっては、セレナの安全が全てだ。セレナをこの2人に預けるのと、自分がここで守るのと、どちらがいいか悩んでいた。そして、セレナもそんなクランに気づいていた。
「クラン、私はこのお話、受けます」
「お嬢……」
「大丈夫です、ちょっとした社会勉強ですよ。司法局の地下なんて、普通入れませんからね!」
それが強がりであることは、誰の目からも明らかだった。
「本当は……私自身でこの問題を解決したいです。教会のこの異質な動きの真相を突き止めたい。でも、私が動けばきっと目立ちますし、あまり役に立てません。だからクラン、お願いです。私の代わりに、教会で起こっていることを突き止めてください。そして……このままではリディアさんたちも、民衆に攻撃されるでしょう。リディアさんたちを、守ってくれませんか?」
セレナとクランの目が交差する。
それは、ほんの僅かな時間だったが、お互いに、目で語っているのがリディアにはよくわかった。
(クランは、セレナに信頼されているんだ)
セレナを守りたいと思ってこの国に来た自分。なのに、役に立つどころか足を引っ張り、カトリーナを失った。
そんなリディアをセレナは責めずに、リディアを守るようにクランに言った。
そしてセレナは、自分で解決したい問題を、クランに託したのだ。それは、ルークの制止を聞かずに突っ走ったリディアとは対極の考えだった。
セレナにとっての、クランと自分への信頼の差を。セレナと自分の器の違いを見せつけられた気がした。
「……ですが、お嬢」
「クラン、お願いです」
クランは「はーー」と長いため息をついて、項垂れる。
「お嬢ってたまに卑怯ですよね。俺がお嬢のお願いを断れないってわかっていて、そういうこと言うんすから」
「あ、ばれちゃいましたか?」
セレナが、悪戯っぽく笑う。それは、いつもの可愛らしいセレナの姿だった。
「リディアさん」
セレナがリディアに声をかける。リディアは、自分が情けなくて、セレナに顔を向けられなかった。
「……何?」
「カトリーナさんのことは、クランがどうにかしてくれます。絶対に、マナギア国に返します、約束です。だからどうか、マナギア国に避難してください。ここは危険です、これから先、どうなるかわからない」
「でも……」
「リディアさん」
セレナから魔法の気配がする。リディアがセレナをそっと見上げると、セレナは種をぎゅっと握りしめ、祈るように魔力を込める。星形の小さく、可憐な花が咲いた。セレナはその花をリディアの髪に挿した。
「リディアさんは何も悪くないです、むしろ、私が巻き込んでしまった......すみません。でも、リディアさんが、私を守ろうとしてくれた、この国を救おうとして下さったことが、私本当に嬉しかったです。この問題が解決したら、私もマナギア国に戻ります。だから元気を出してください!ひとときのお別れです」
「セレナ、私いやだよ……」
「リディアさん、ありがとう。そしてさようなら」
セレナが、司法局の人間に連れていかれる。
「ルークさん、レオナルドさん、お二人も色々とありがとうございました。クラン、あとはお願いします」
セレナが連れていかれ「バタン」とドアが閉まった。その音は、やけに大きく響く。
カトリーナも、セレナも、リディアの大切な人が離れていく。
リディアは自分の無力さが悔しくて、疎ましくてーー頬に涙が伝った。
活動報告に、セレナが司法局の人に連れて行かれてからの、ちょっとした小話(会話)追加しました。そちらもよければ見てください!
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