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欠けてゆく仲間

週間ユニークユーザー100人超えました!みなさん、ありがとうございます!!

リディアは今まで自分の生き方を後悔したことは一度もない。自分の、よく言えば素直、悪く言えば無鉄砲な性格が時に周囲をイラつかせることは知っていたが、それでも、自分に嘘をつくのも嫌で、誰に迷惑をかけるでもないし、別に構わないと思っていた。


そう、思っていたのだーー。



「一体どういうことだ、レオナルド!?お前がついていてなぜ、カトリーナ嬢が罪人として捕えられた!!」


ルークの怒声がタウンハウスにこだまする。セレナも隠しきれない困惑の表情を浮かべており、リディアは、ただ無気力に床に座り込んでいた。


ドナルドとの戦いは、あまりに苛烈すぎた。大破する倉庫、隆起する土と、神父として親しまれていたドナルドを制圧するカトリーナ。そのどれもが、魔法が根付いてないナイル国では"異端"だった。


「あの女です!あの女が、神父様を襲った!!」

「あの女は災いだ!早く捕えなくては!!」


見覚えのあるハーブ園の園主、見ず知らずの教会の信者たち。彼らの言葉を受け、警吏隊の役人たちがカトリーナを拘束した。

魔力が尽きてボロボロのカトリーナはなす術もなく、それでもリディアをみて「逃げて!」と口パクで伝えた。カトリーナを助けようとしたリディアを、レオナルドが引きずってタウンハウスに戻ってきたのだ。


「僕は止めたさ!!....それでも、ドナルドのしたことは許されることではない、カトリーナの正義感を、止めきれなかった」


レオナルドは悲壮な面持ちでいう。


「それに......あんなに目立つ戦いになると思ってなかった!まさか、二人ともいにしえの魔法を使うなんて、思ってもなかったんだ......!」


その言葉にルークも目を見張る。

ルークももちろん、貴族として、いにしえの魔法は理解している。ルークの父親と、兄・アレンが継承したその技を、ルークも見たことがあった。だからこそ、その魔法の規模は理解できる。


「......俺のせいだ。あの時、タウンハウスから出すべきじゃなかった。無理にでも、拘束しとけばよかったんだ」


ルークはレオナルドから視線を外し、後悔するように呟く。その言葉が、リディアの胸を刺した。リディアが言葉を返す前に、今度はセレナが口を挟む。


「違います、ルークさん!私がいけないんです。私が、みなさんに助けを求めた。この国の問題を、みなさんに解決してもらおうとして......そのせいでカトリーナさんが!」


セレナがハラハラと涙を流す。タウンハウスのリビングには、ただただ鬱蒼とした空気が流れている。

今回の件で、勝手な行動をしたのはリディアだ。なのに、誰もリディアを責めない。そのことが、リディアをさらに追い詰めた。


「......違うでしょ?悪いのは私じゃない。私がルークのいうことを無視して突っ走った。そのせいで、ドナルドと戦うことになって、こんなことになった。なのにどうして...?どうして私を責めないの!?」

「やめて!リディアさん!!」


セレナが悲痛な叫びを上げる。「お願い、リディアさん......もう何も言わないで」


この日、ハーツと、栽培している土が怪しいことを教師やナイル国の議会、教会に報告したルーク、ハーツの自主回収に関する手続きで走り回っていたセレナは、すでに憔悴しきっていた。そこにきて、ドナルドによる闇魔法入りの土の増殖、カトリーナの逮捕。

何が起こっているのか、だれも理解ができていなかった。


「ねぇ、セレナ......教会って何なんだい?」

「え?」


レオナルドが、ゆっくりと、だが確実に問いを投げかける。


「ナイル国の歴史はもちろん勉強したさ。魔法大戦から逃れ、魔法が使えない人が集まった国家。そこに女神が降臨した。信仰心を忘れなければ、奇跡を起こせる人間を遣わしてくれるんだろう?......じゃあその奇跡って何なんだ?......それは、魔法と何が違うんだ?」


沈黙。誰も即答できなかった。

レオナルドは言い聞かせるように続ける。


「奇跡を起こす人は女神から力を授かり、特別な力をもつんだろう?“魔法”と一緒だ。もしかして、“魔法”こそが、女神の力だったのではないか?」

「おいおい、レオナルド。それは話が飛躍しすぎたろう。だいたい、昔の信仰だぞ......こう言っちゃなんだが、宗教なんてどこもそんな言い伝えで、方便みたいなもんだろ」


ルークの言葉に、レオナルドは眉を顰める。


「ドナルドは確かに、闇魔法入りの土を、土魔法で増殖していた......でも、闇魔法を混入してたわけじゃない。闇魔法入りの土は、最初からあったんだ」


そういえばそうだ。

リディアはドナルドの行動を反芻する。木箱に入っていた土を、ドナルドは増やしていただけだった。


「......混乱してきた。レオナルドは何が言いたいの?」

「これはあくまで僕の仮説だ。ドナルドは神父としてナイル国にいた。だったら、ナイル国へ手引きしたのは教会なんじゃないか?そして、最初に土に闇魔法を混入したのは......教会の誰かで、ドナルド・ヴァルモンは土魔法でそれを増やすために利用されただけじゃないのか?」

「それは流石に……」


ルークが認め難いというように黙り込み、セレナは目を見張る。リディア達と行動していなかった2人には、いまいちピンとこないのだろう。「そういえば……」リディアはドナルドの言動を思い出す。


「あの人『ナイル国でこの土を見て確信した』って言ってた。確かに、闇魔法入りの土は最初からあったんだよ…!」

「リディアさん、それは本当ですか?」


リディアは一生懸命、ドナルドの言動を思い出していた。そうだ、あの男はさらに言っていた。


「カトリーナが連行するって言った時も『教会にいっても無駄』って」

「そうだ。僕はあの時、教会は立場上神父を擁護するという意味だと思って気にも留めてなかった。でも違うのかもしれない……だからセレナ、改めて教えてくれ……教会は何なんだ?」


その問いにセレナは答えられない。

隠している訳ではないーー本当に知らないのだ。

自分も建前上、女神を信仰していることにはなっている。だが、信心深いわけでもなく、年に一回、作法として教会に赴く程度なのだ。女神を信仰する教会。彼らは、布教活動や慈善活動も実施しており、その中には、孤児院への支援なども含まれる。

だが、最近は若者を中心に信者が減り、財政難だという。だから、ソラキ商会も慈善活動については一定の経済的援助をしてきた。セレナと教会の関係は、それ以上でもそれ以下でもない。

.......いや、違う。誰にも言ったことはないが、セレナは本当は教会を嫌っている。

ボロボロの姿で、瀕死のような状態で街を歩いていた幼い頃のクラン。それでも、クランは孤児院に戻るのを嫌がった.......正確には、女神信仰を拒否したのだ。女神を信仰するなら死んだ方がマシ、そう言わしめる()()が、教会にはある。


だがそれが何かを、セレナは知らない。

クランにかつて、一度だけ聞いた時、とても怯えていたから。


「……わかりません。ですが、教会が魔法を使えたとして、闇魔法を使うメリットがありません。考えすぎではないでしょうか?」


教会への疑惑が増していく中、クランがこの後、すぐに情報を持ってくる。



「お嬢!大変だ!!」


タウンハウスの扉が大きな音を響かせ、リディアたちは反射的にそちらを見遣った。ずっと外出していたクランが、セレナの元に走り寄る。その姿は全身汗だくで、シャツは肌に張り付き、額にも大量の汗が滲んでいた。


「クラン、お疲れ様です。ハーツの自主回収、お願いした分できました?」

「できたけどそれどころじゃない……」


セレナが渡したよく冷えた水を一口でクランは飲みきり、続ける。


「教会が、ハーツの中毒者を集めて、治療を始めた」

「……どういうことです」

「教会の主張はこうだ。議会は、『夢の滴』と言われる薬を服用した人間が一時的な多幸感に包まれた後中毒症状が出ると言っている。だが、それは特別な薬ではなくソラキ商会がお抱えのハーブ園と開発したハーツによるものだ、と」


その言葉に全員が息をのむ。「ソラキ商会とハーブ園が手を組んだ」という表現に違和感はあるものの間違ってはいない。だが、そのメッセージには明らかな悪意がある。ソラキ商会の名誉のためにも、この日働きづめだったセレナとルークのやったことが、台無しだ。


「さらにあいつらの主張はこうだ『彼らは手を組み、国民のためにハーツを安価で供給しようとした。その心がけは素晴らしいが、そこで、闇魔法という恐ろしい力、ナイル国の先祖を迫害した力を使ったのだ。女神様がそれに怒り、我々に奇跡を起こす力を下さった......そして、この中毒者を治すことに成功した』」


そこで、クランは言葉を区切り、自分自身を落ち着けるように一呼吸ついた。


「あいつらは、教会の前で、大演説していったよ。『さらに最近、マナギア国から、議会が手引きした魔法使いがやってきた。彼等は、我らの同胞である神父を、炎の魔法で焼き尽くした。女神様の名のもとに、魔法という恐ろしい力を利用するソラキ商会には鉄槌を。魔法使いを呼び込んだ議会にもこの国を任せてはいけない』って」


リディアは目を見張り、セレナは息を呑む。

レオナルドとルークは信じられないものをみるように、クランを見ていた。


「ちょっと待て、クラン。俺は今日、教会と話した。ハーツと、それを育てる土が悪さをしている可能性がある、だから回収しようって。教会だって、事態を把握して協力的だった。そして何より......俺は闇魔法のことは口外してない!カトリーナ嬢のことだって、ついさっき起こったことだろ?なのになんで......なんでそんなことになるんだよ!?」

「俺だってわかんねぇよ!!」


ルークは徹底して、闇魔法に対しては慎重だった。だから口外せずに、秘密裏に、兄であるアレンや自国の魔法使いの指示を待ってから対応するつもりだった。なのに、なぜ教会はすでに事態を把握してるんだ?ルークの疑問に、クランも取り乱す。


「これを見ろ!」


クランはポケットから金属製の四角い何かを取り出した。その金属を操作すると、そこから映像が浮かび上がる。


「これは?」

「ナイル国の科学技術で作った映像記録端末です」


その映像は、教会を写していた。中央に、白髪の、厳しくも優しげな男が立っている。周囲を囲む他の神父のような人たちと異なり、生成生地で豪華な刺繍を施したローブをその男は纏っていた。リディアたちの疑問に答えるように「司教様、教会のトップです」とセレナが補足する。司教が何か演説をした後なのだろう、その場は静寂に包まれていた。


『それでは、悪しき魔法の被害者をここに』


司祭の前に、目が虚ろな男が現れる。司祭がその男の額に手を当てると、その男の周りが光り輝き、男は倒れた。


『女神様のお力に体がまだ慣れていない。だが、しばらくすれば彼も治る、その証拠に.......』


そう言って、司祭は演説を前で聞いていた一人の男に手を差し出し、男は司祭の隣に立った。


『彼も、少し前だが中毒に苦しんでいた。だが、この通り治ったのだ.......君からも何か話したいことがあれば言うが良い』


その男は、青白い顔をしながらも、喜びに満ちた表情をしていた。


『.......私は、司祭様が施してくださった女神様の魔法で、霧が晴れたかのような爽やかな気持ちになり、体と心の不調が治りました。これは、夢の滴の時とは違う、本物の幸せです。司祭様、女神様バンザイ!!!』


男の叫びに、演説を聞いていた市民たちも呼応する。


「女神様万歳!」

「司祭様万歳!」

「議会と商会には鉄槌を!」

「魔法使いは排除しろ!」


その姿は、明らかに狂気をおびていたーー。


「......なにこれ?」


おぞましさにリディアはゾッとする。

そして、クラン以外の全員が、映像を見て気がついた。司祭が女神の名を語って使った力はーー光魔法だ。


リビングに、映像から民衆の大歓声が響く。


「女神様から奇跡の力を与えられた聖なる組織・教会と、人々を陥れる悪しきソラキ商会、という構図ですね......」


セレナが、どこか諦めたように呟く。

そんなことない、リディアが続けようとした時、コンコン、とタウンハウスの扉をノックする音が聞こえた。その音は、大きくないはずなのに、なぜか部屋中に響いた。


嫌な予感がするーー。


リディアが恐怖で後退り、クランはセレナを守るように警戒を見せるが、なぜかセレナだけは穏やかだった。


「はい、どちら様でしょうか?」


扉がゆっくりと開かれ、気難しい顔をした男と、ナイル国にきてすぐに出会った議会の男、ロニがやってくる。


「セレナ・ソラキ様ですね?薬物の育成に関与した疑いで、任意同行いただきます」


カトリーナに続いて、セレナまでーー。

リディアは、心の壊れる音が聞こえた気がした。

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