表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/84

疑惑の葉っぱと見知らぬ男

視点がルーク→リディアになります。

新キャラも登場です!よろしくお願いします!

ルークは朝早くに起床し、兄であるアレンに手紙を書いていた。


昨晩の話し合いで、みんなで共有した事項はナイル国の議会や教会はもちろん、引率の教師などにもまずは秘密にすることにした。セレナへの配慮と、まだ全てが"可能性"の段階という観点で、その結論に至った。


ルークもその考えに賛成している。

だが、賛成の理由は、皆とは少し違う。

教師を含め、生徒の手に余る問題だと直感していた。だからこそ、大ごとになる前に、静かに、確実に処理したい。


闇魔法が関わっているなら、対抗できるのは光魔法の使い手、かつ優秀な魔法使いになる。

であれば、アレンに来てもらうのが最適だろう。


可能性ベース、という前書きのうえ、実習の状況を書き、その手紙に魔力を流す。すると、たちまちルークの書いた文字の上に鮮やかな文字が浮かび上がり、挨拶から始まり、取り留めのないことが書かれた文章で上書きされていく。


それはアレンに渡された、検閲避けのための特別な紙だった。ルークは手紙に封をし、宛名を書いていく。ポストに自分で投函しようと考え、タウンハウスをでると、リディアがポツンと庭に立っており、空を見上げていた。


「リディア?どうしたんだ、まだ朝早いぞ」

「ルーク」


リディアはルークに気づくと、どこか気まずさが感じられる声を上げた。

リディアの耳には、ルークが渡したイヤリングがぶら下がっている。そのイヤリングは、ただの翻訳機ではなく、他にも様々な機能が搭載されている。

ルークの念のため、という思いとアレンの趣味により作られたそれは、ナイル国のこの状況で、きっと役に立つ。


「ちょうどよかった。そのイヤリングについて話しておきたかったんだ」


***


リディアは、イヤリングを指先でそっとなぞった。金色に輝くそれは、朝日を反射してきらりと瞬く。


「そのイヤリングな、ただの翻訳機能だけじゃないんだ」


ルークの声が、穏やかに響く。


「俺の腕輪と連動してる。お前が光魔法をイヤリングに流せば、俺にお前の居場所が伝わる。逆もまた然りだ……言葉にはならないけど、気配みたいなもんがわかる」

「気配……?」

「そう。お互いの魔力を、感じ合えるんだ」


ルークが自身のはめている腕輪を見せてくれ、リディアは「へえ」と小さく声を上げた。

面白い魔道具だと思う。翻訳機能だけでもすごいのに、居場所がわかるなんてとんでもない魔道具だ。けれど、心の奥には、何か重いものが横たわっており、全然ワクワクしなかった。


それに気づいたのか、ルークが表情を少し曇らせる。


「……なあ、リディア。何かあったか?」


リディアは答えずに、空を見上げた。高く、どこまでも青く澄んだ空。けれど胸の内は、雲の底のように灰色だった。


「……私、セレナを助けたいと思ってここに来たの。ナイル国のことも、もちろん助けたいって思ってる。でも……もし、セレナの家族が、裏で何かしてるんだとしたら……私は……どうしたらいいのか、わからない」


声は震えていなかった。けれど、苦しさの滲んだ声色だった。


「......辛いよ」


ポツリ、と本音を言うと、ルークはしばらく沈黙した後、あっけらかんとした声で言った。


「……セレナは大丈夫だろ」

「は……? なに、それ」


リディアはルークを見返した。思わず語気が強くなる。


「セレナが、どんな気持ちでいると思ってるの? 自分の家族が闇魔法でみんなを苦しめてるかも知らないんだよ...!?」


ルークは静かにリディアの怒りを受け止めたあと、目を細めて言った。


「……でも、セレナにはお前がいる。カトリーナ嬢も、レオナルドもいる。だから、セレナは大丈夫だろ。頼りになる仲間がこんなにいるんだから」


リディアはその言葉に反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。信じる、というのは、そういうことなのかもしれない。


少しして、ルークが問いかける。


「お前さ。どんな魔法使いになりたいんだ?」


リディアは、はっとしてルークを見た。

それは、昔出会った少年にも聞かれた言葉。


『リディアちゃんは、どんな魔法使いになりたいの?』


少し考えてから、ゆっくり言葉を紡ぐ。無自覚だったが、その答えはかつて出会った少年に答えたものと、まったく同じだった。


「『私はみんなに魔法を楽しんでもらえるような魔法使いになりたい。......みんなを幸せにしたいの』」


ルークはそれを聞くと、なぜか蕩けるように微笑んだ。


「なら、そうなれるように努力しろ。お前ならできる」


その言葉は、まるで小さな光のようにリディアの胸に差し込んだ。


「それと......セレナの実家は多分この件、白だよ。関与してても、本人たちの預かり知らないところでだ」

「なんでそう言い切れるのよ」

「俺は昔、セレナの父親......というかソラキ商会のトップに会ったことがある。しっかりした方だったよ。っていか、セレナもそう思ってるんじゃないか?」


ルークは「だから安心して、お前は少し仮眠とってたっぷり飯を食えよ」と言いながらリディアの頭を掻き回し、去っていった。


「なんなのよ、もう......髪がぐちゃぐちゃじゃない」


文句を言いながらも、リディアは空を仰いだ。少しだけ雲が晴れたような気がした。


ルークのおかげで少し足取りが軽くなったリディアは、セレナを励ますためのやる気に満ちていた。

タウンハウスの一室。扉が僅かに開かれており、ひそひそと話し声が聞こえる。そっと隙間から覗き見すると、セレナが見知らぬ男と話し込んでいる。

その男は、空色の髪を適当に束ね、左耳には大振りで派手なピアスが付いている。露出の多い服からは日焼けした肌が見え、体格もしっかりしている。華奢で儚げなセレナと並ぶと、獣のようだ。


その男が、セレナに葉っぱのようなものを渡す。


「見た目も匂いも、違和感ないですね」


セレナはその葉をくるくると回し、そっと口に含んだ。


(ちょっとセレナ、なにしてるの!?そんな得体の知れないチャラ男から渡されたものなんか食べて......!)


覗き見しているのも忘れ、リディアが前のめりになったその瞬間、セレナがよろけた。


「なに、これ.......」


セレナが葉っぱを口から出しうめき声をあげながらしゃがみ込む。男は「お嬢!?」と叫んでセレナに覆い被さった。


それをみて、リディアの怒りと魔力が爆発する。

瞬時に水の刃を右手から出し、その男めがけて投げつけた。


「セレナから離れなさい!」


水の刃が、警告のように男の顔をかすめる。


「きゃっ......!」

「下がってろ、お嬢!」


セレナが叫び声をあげ、咄嗟に、男はセレナを背に庇う。

腰を落とし、すっと構える姿は、まるで剣のように鋭い。魔法の気配は一切ないのに、思わず息を飲むほどの殺気があった。


「あんた今セレナに何したの!?」


リディアが負けじと殺気を飛ばしながら男を睨むと、セレナが事態を理解して叫ぶ。


「リディアさん、待って!この人は……クランは、私の部下です!」

「部下……?」


リディアが困惑に眉をひそめると、セレナが慌てて言葉を継いだ。


「ソラキ商会の仲間で、私がナイル国で商いをしてた時は補佐してくれた、信頼できる人です。今も、私が頼んだ『ハーツ』のハーブを調達してくれただけです」

「……でも、今セレナ、この男にもらったもの食べてよろけてたじゃない......!」

「自分で確かめてみたくて、クランが持ってきたものを口に含んだ私のミスです、クランは関係ありません」

「.......でもっ!」


人を見かけで判断してはいけないのはわかっている。リディアは平民育ちのため、ガラの悪い人間には何度も遭遇しているし、そこまで抵抗はない。

それでも、チラリとクランを見れば、やはり物騒な見た目をしており、信頼できる人物にはとても見えない。セレナはそんなリディアに気づいてさらに補足していく。


「クランは一見怖いかもしれませんが......私は何度もクランに守られてるんです。本当に、頼りになる人ですよ。それとクラン、こちらはマナギア国でお世話になっているリディアさんです、警戒を解いてください」


セレナがクランに呼びかけると、クランは殺気を抑えリディアを見やった。


「なるほど、あんたがお嬢の手紙によくでてくる『リディアさん』っすか......今の攻撃、オレに当たったからよかったけど、お嬢に当てたら容赦しねーぞ」


リディアの怪しむような視線に対抗するように、クランもリディアにガンを飛ばしてくる。


「はぁ!?そんなミスしないわよ!そもそもそっちがセレナに迂闊に葉っぱを渡すのが悪いんでしょうが!」

「……それは確かにその通りっすね。お嬢、すみませんでした……」


クランはセレナに向き直ると、その大きな体を縮こまらせ、セレナに頭を下げる。セレナが「わたしこそ、びっくりさせてごめんなさい」と言い、クランの頬に回復魔法を発動するとクランは嬉しそうに目を細める。


(......なんか、愛玩動物みたい)


先ほどまでの獣じみた雰囲気から一転、セレナを前にしたクランは可愛らしく見えた。


ーーーーーー


タウンハウスでの生活で困るのは食事面である。

昼と夜は、召使いが用意してくれるが、彼らも住み込みではないため、朝食は交代制で作ることになっている。といっても、料理ができるのはリディア、セレナ、ルークのみのため、その3人で回しており、この日は押し問答の末、セレナの当番をクランが変わることになり、リディアとセレナは朝食まで仮眠を取ることにした。


クランに対する不安はあったが、昨晩よく眠れなかったリディアはその言葉に甘え、自室のベッドでウトウトし......タウンハウスに響く大声で起こされた。


「なにごと!?」


リディアが急いで階段を降り、声の方を目指すと、少し遅れてセレナも部屋から飛び出しついてきた。

二人で階段を降りると、カトリーナの怒鳴り声が聞こえる。


「あなたのような粗野な人間が、セレナの部下のはずないでしょう!今すぐ白状するなら、大事にしないで差し上げてよ!?」

「だから何回言わすんだてめぇ!俺はお嬢に言われてあんたたちのメシを準備してんだよ!お嬢の書き置きだってしっかりあるだろーが!」

「そんなこといって、あなたが持ち込んだこれは『ハーツ』のハーブなのではなくて!?私たちに闇魔法をかけるつもりかしら」

「だからそれも説明しただろうが!この高慢ブス!」

「......まぁ!口だけでなくて目も悪いようね、私のどこが不細工よ」


リディアとセレナは顔を見合わせ、互いに苦笑した。


「おっはよー、カトリーナ。信じ難いことに、その人本当にセレナの部下らしいよ」

「カトリーナさん、説明が不足してすみません、そうなんです......」


リディアとセレナが食卓に入りカトリーナに説明すると、カトリーナは驚きの声を上げる。


リディアは気づかなかったが、カトリーナの後ろにはルークとレオナルドがあり、ルークはクランが作ったであろう食事をつまみ食いしていて、レオナルドは優雅にお茶を飲んでる。


「ほらみろ、カトリーナ嬢。俺の言った通りだろ?クランの作ったもの、美味しいから食べようぜ」

「まっすぐなカトリーナは素敵だけど、少し周りを見ようか、このお茶も美味しいよ」

「だから何度も言ってるだろーが。本当に頭の硬い女だな」


男三人の言葉にカトリーナが悔しそう眉を吊り上げ、リディアとセレナはそっとため息をついた。


クラン気に入った!ストーリー面白い!と思った方はぜひ、ブクマ、評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ