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セカンドガールの私が学園のプリンスをざまぁします!  作者: 白波美夜
第一章 セカンドガール脱却編
19/84

ファーストガールの葛藤と友情

その晩、リディアとセレナは部屋に集まって三枚の紙をじっと見つめていた。


一枚は、模擬戦の前日にリディアのカバンに入っていた紙。

残り二枚はリディアがエレノアとシルヴィアの机からくすねてきた、二人の手書きのレポート用紙。


1枚目の紙には、流暢な字を無理やり雑にしたような不自然な字で「模擬戦を辞退しろ、でないと後悔することになる」と書かれている。

そしてその筆跡は、シルヴィアの筆跡に似ていた。


セレナは商人の娘である。

小さい頃から父の仕事現場に出入りし、多くの手紙、書類を見てきた。

中には、他人の筆跡を模倣することで取引を成立させようとする人間もいるため、セレナは怪しい筆跡鑑定士よりよほど筆跡に通じてると自負している。


「......文字を崩してはいますが、シルヴィアさんの筆跡とみて間違いないでしょう」


嫌がらせで使っていたのとほぼ同じ植物魔法を使ったエレノア、リディアに嫌がらせの手紙を出していたシルヴィア。

ーー2人が嫌がらせの主犯だ


セレナの発言を聞いて、リディアは顔を強張らせる。

セレナには、リディアの考えていることが手に取るようにわかる気がした。


エレノアとシルヴィアはカトリーナの一番の友人だ。

なら、カトリーナも裏で関わっているのか?

もしそうならーー


ふと、今朝のカトリーナのリディアへの発言が頭をよぎる。

「最近のあなたの行動は目に余るわ」あの言葉は、やはりリディアが疎ましかったのだろうか?


セレナはそれを否定するように首を振る。

そんなわけないーー。

カトリーナは、セレナが手作りのお守りを渡した時、嬉しそうに、照れくさそうに「お守りありがとう」と言ってくれた。

確かに少し、リディアとの関係は難しい部分はあるだろうけど、きっとカトリーナは......


セレナが考えに耽っていると、突然リディアが大声を上げる。


「セレナ!違うからね!」

「......何がですか?」


リディアを見つめれば、目を左右に動かして気難しい顔をしながらもリディアは捲し立てるように続ける。


「エレノアとシルヴィアは嫌がらせしてくる嫌な奴らだけど、カトリーナは違うからね!」

「カトリーナは、確かに貴族で、偉そうで、嫌なところもいっぱいあるけど…でもいつだって正々堂々してる!だから私たちを呼び出したりだってして...」

「話せば、きちんと庶民のことだってわかろうとしてくれて...だから......」

「だから、カトリーナは嫌がらせには関係ない!私はそう信じる!」


話しているうちに頭が整理されていったのだろう、リディアの目には自信が溢れていく。

セレナには、その真っすぐさが眩しかった。


(カトリーナさんを疑ってたのは、私だけでしたね)


「そうですね、私も、カトリーナさんのことを信じたいです」


その言葉はセレナの精一杯だった。

「信じている」そうは言えない自分。

でも、カトリーナを信じたいと思っていることを、リディアにはわかって欲しかった。


まずは、カトリーナと話したい。

それがリディアとセレナの今の気持ちだった。


ーーーーーーーーーーーー


カトリーナは自室で、今朝リディアに向けて放った言葉を何度も思い返していた。

「あなたの行動は目に余る」「見ていて不愉快」「おとなしくして」ーーどれもカトリーナの本心ではなかった。


リディアを取り囲む厳しい環境と視線、そして嫌がらせ。

それからリディアを守ろうと思ったのに、なぜこんなことになってしまったのだろう。

謝らなければ、と思いながらも、リディアに軽蔑されたら、と思うと動けない自分に、自分でも嫌気がさした。


エレノアとシルヴィアとは長い付き合いだが、関係にヒビが入ったことは一度もなかった。

でもそれは、2人がいつでもカトリーナの言うことを肯定してくれたからだ。

あの2人は、いつでもカトリーナの言うことを聞いてくれる……


その時、部屋の扉が控えめにノックされた。

「カトリーナさん、セレナです。遅くにすみませんが今、いいですか?」

聞き慣れたセレナの声。そこにリディアの声が続く。

「少し話したいんだけど」


カトリーナは一瞬迷ったが、やがて「入って」と答えて部屋を開けた。


カトリーナの部屋に足を踏み入れたリディアは、部屋にある調度品を見て目を見開いており、セレナも目をパチクリとさせている。

「……何よ?」

「いや……なんていうか、よくこんな部屋でくつろげるわね」


カトリーナの部屋は、細部まで気を遣った美しい空間に仕上げられている。

壁には魔法陣の上に立つ魔法使いが光のシャワーを降らせ、その周りに妖精が戯れる絵画が、本棚にはその日の気温や湿度によって色合いを変える繊細なガラスの調度品が飾られ、その他のものも、全てが一級品である。


「別に、こんなの大したものじゃないわよ」


カトリーナがおざなりに答えると、部屋は無言に包まれ、気まずい空気が流れる。


気を取り直したリディアが「カトリーナ、聞いて欲しいことがあるわ」と真剣な表情で切り出し、カトリーナもその表情を見て息を呑む。

リディアとセレナは、嫌がらせに遭っていたこと、嫌がらせで受けた具体的な行為、推測した犯人像を話し始め、最後には、嫌がらせの証拠について丁寧に説明した。蔦を使った魔法のエピソード、手紙の筆跡の一致ーーその全てが、エレノアとシルヴィアが嫌がらせの犯人であると指し示している。


話を聞いていくうちに、カトリーナは血の気がひくのを感じた。

エレノアの得意な魔法による被害、リディアに見せられた、シルヴィアに酷似した筆跡の手紙。

親しいからこそ、カトリーナは、2人の嫌がらせへの関与に確信がもてた。


リディアは続ける。


「ねぇ、カトリーナ。私たちは、あなたがあの2人と親しいことは知っている。でも、あなたのことは信じてるの。カトリーナはいつだって正々堂々!でしょ。だからこの件には関わってない、そうよね?」


となりでセレナも強く頷く。

2人は自分を信じてくれている、信じようとしてくれている。

そうわかっていても、その時カトリーナの胸に沸いたのは焦りと怒りだった。


「そんなこと、あり得ないわ!」

声が震える。

カトリーナは、エレノアとシルヴィアの行為を否定せずにはいられなかった。

「あの2人がそんなことするわけがない!彼女たちは、小さい頃から私の友人なのよ!貴族として、誇り高く、立派な友人たちだわ!」

言葉に力を込めるたびに、カトリーナの中で疑問が膨れ上がっていく。


本当に、自分が今言っていることは正しいのだろうか?

ずっと一緒にいた大切な友人。だけど、最近違和感を覚えることも多かった。

その違和感に、ずっとカトリーナは気づかないふりをしていた。

自分だって過去そうだったかもしれない、それでも、平民を嘲笑する2人、レオナルドに夢中で魔法や学業はおざなりで、貴族という権力を振り翳し、学園でも勝手な振る舞いが増えてなかったかーー?


でも、もし2人が嫌がらせをやったことを認めてしまえば、自分が彼女たちと今まで築いてきた友情は一体何だったんだろう?

カトリーナは、裏での嫌がらせといった卑怯な行為を毛嫌いしている、そんなことあの2人は誰よりも知っている。

それでも、リディアたちに嫌がらせをしていたなら、それは紛れもなく、カトリーナへの裏切りだ。


カトリーナが思わず大声を上げれば、それに対抗するかのように、リディアが言葉を返した。


「いい加減にしなさいよ!貴族としての誇り!?あんたたち貴族は、いつだってそう言う大層な言葉を使うけど、どこにそんな誇り高い行為があるのよ!」

カトリーナは言い返そうとしたが、リディアの真剣なな眼差しに気圧された。


「私が今回の嫌がらせで一番許せないのはね、私に不満のある人間が、セレナを巻き込んだことよ!」

その言葉にカトリーナは目を見張る。そこからリディアはセレナが狙われた理由を述べていく。


ーーセレナはリディアの弱みとして狙われた可能性が高い


その言葉を聞いた時、カトリーナにはかつてない怒りがわいた。

それと同時に、模擬戦前日にセレナが自分の部屋を訪ねてきてくれた日のことを思い出す。

「ぼんやりしているつもりもないんですけど…転んでしまって…」

セレナはそうやって笑っていたが、あの時セレナの膝には大きな擦り傷がついていた。

それが、誰かによる意図的なものだとしたらーー。


カトリーナは、嫌がらせというものが言葉で聞いていても、あまり理解できていなかった。

いつだって、自分は傷つけられる立場には立ってこなかったから。


そんなカトリーナにお構いなしで、リディアは続けていく。


「カトリーナ、あなたの言う『友人』ってなによ?相手が間違ったことしてても、気づかないふりして、庇うことなの?あなた、もっと正しい人なんじゃないの?だったら、自分の目で、真実を見極めてよ!」

その言葉が、カトリーナの心を突き刺した。


その後、セレナが、まだあの2人かどうか確信もない、突然部屋に押しかけて申し訳なかった、もう遅いし、しっかり寝てくださいね、と言ってリディアを連れて部屋から去っていった。


夜がふけても、カトリーナはベッドに横たわりながら悩み続けていた。

エレノアとシルヴィアとの楽しい思い出ーー彼女たちと一緒に笑い、支えあった瞬間が、確かにあったのだ。


「あの2人がそんなことするはずない……」


言葉にしても、カトリーナはその自分の言葉を信じられなかった。

リディアとセレナが話してくれた数々の状況証拠と、明らかな証拠になる筆跡の一致する手紙。

カトリーナだって本当はわかっている、あの2人が嫌がらせに確実に関与していると。

リディアの言葉が何度も頭に浮かぶ。


ーーあなたの言う『友人』ってなによ?


「私が信じたいのは何?」

カトリーナは自分に問いかけた。

エレノアたちとの()()か、それとも自分の正しいと思う心か。


涙が頬を伝う。

どちらを選んでも、何かを失うことになるとわかっていた。


カトリーナはベッドから起き上がり、決意を固めた。

「自分の目で確かめるしかないわ」


カトリーナは、エレノアたちと直接話し、真実を探ることを心に決めた。


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