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セカンドガールの私が学園のプリンスをざまぁします!  作者: 白波美夜
第一章 セカンドガール脱却編
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セカンドガールとファーストガールの決裂

この日のリディアは、前日に学園での謹慎処分があり、その後セレナとも夜通し話したことで深い眠りについていた。


「......さん、リディアさん朝ですよ」


優しげな声が聞こえ、寝ぼけながら少しずつ目覚めていく。

「もー、何よお母さん、まだ眠いんだけど...」

リディアが手元にあるタオルケットを引き寄せ寝返りを打つと、ドン!と大きい音がセレナの部屋に響いた。


「いった…!もうなーに?」

痛みを感じる頭に手を当てて周りを見回すと、気まずそうな顔をしたセレナが近くに立っている。

「…セレナ?」

リディアが再度周りを見てみると、ここはセレナの部屋で、自分はセレナのソファから落ちたらしい。


「…今、なんか聞いた?」

「…いえ!何も!全く何も聞いてません!!」


自分の寝ぼけた声を聞かれたかもしれないことが恥ずかしく、ついリディアが確認をすると、セレナが一生懸命(確実に嘘であろう)否定をしてくれる。

気まずい思いをしているリディアを見て、セレナは気を取り直すように「食堂での朝ご飯もいいですが、たまには私の部屋で食べませんか?もう出来上がっているんです」と声をかけた。

セレナが指差すそこには、見慣れない穀物を煮込んだスープのようなものと果物が並んでいる。

手の込んで見えるその朝食はホカホカと湯気が立っており、ほのかに薬味のような香りがする。

リディアは、前日は緊張のあまりほとんど食事が喉を通らなかったのもあり、ゴクリ、と喉を鳴らすと「…食べたい」と小声で返事をした。


朝食の間、リディアとセレナは今まで受けた嫌がらせに関する情報を共有し、今後の学園生活での過ごし方について決めた。

まず、セレナは狙われても大丈夫なよう、なるべく他の人の近くにいるようにし、リディアと授業が被っている時はリディアが守れるよう一緒にいることにした。

その上で、嫌がらせ相手の素性を考えると、傾向が見えてくる。


まず、十中八九貴族だろう。

さらに、嫌がらせでは植物魔法と岩魔法が使われていることが多く、同一人物、または複数人であっても、それら魔法が得意な相手。

嫌がらせのパターンがそこまで多くないことから、複数人の場合も少人数だと考えられる。


リディアは植物魔法にそこまで思い入れもないので気づかなかったが、セレナが言うには、植物魔法にはいくつか思考のパターンがあり、嫌がらせの相手は“蔦“と使うことが圧倒的に多いらしい。

確かに考えてみると、セレナは植物を多岐にわたって魔法で使用しているが、リディアは植物魔法を使う場合、葉っぱを出すことが多く、周りでも、花をメインで出す人もいれば、枝を伸ばすように使う人もいて、使い方に好みがあるような気がする。


2人は、特に蔦を使う魔法使いに注意しつつ、互いに怪しい人物がいたら教え合うことを決め、一緒に登園した。



リディアが一日謹慎処分になったことは、学年中に広まっていたようで、登園すると遠巻きにヒソヒソと陰口を叩く声が聞こえてくる。

リディアは気にせず毅然と歩き、セレナも気づいていないかのように、穏やかに微笑みを浮かべながら歩いていると、教室近くにカトリーナが2人の女生徒と一緒に立っているのが見える。

昨日、自分が揉めた相手がカトリーナの取り巻きであることもあり、どう声を掛ければいいかわからずリディアが困っていると、カトリーナはリディアを見つけ鋭い目でこちらを見る。


「聞いたわよ。昨日、授業前に魔法を使って揉め事、謹慎になったそうじゃない」

「……だったら何よ?仕方ないでしょ。喧嘩を売られたから買っただけよ。大体、机を隠すなんて、今時絵本を読むような年齢の子だってしないわよ」


その言葉にカトリーナは少し沈黙するが、その隙にカトリーナのそばにいた2人がここぞとばかりに口を開く。

「まぁ!魔法を使って周囲に迷惑をかけたのに反省の色が全く見られないなんて、なんて野蛮なのかしら!」

「こんな野蛮な人が同じ学園にいるなんて、毎日怖くてしょうがないわ!お父様にお伝えしないと……!」

「魔法の能力だけ高くて、理性的な振舞いができないなんて、魔獣みたいなものですものね、嫌だこわーい!!」

「本当ですわ。大体、平民の野蛮で暴力的な人がエルミナ学園にいるなんて、学園の恥ですわ」


どんどんエスカレートする悪口と挑発に、リディアは苛立ちが募るが、セレナがリディアの裾をそっと引くこと我にかえる。

……そうだ、昨日と同じ失敗はできない。

自分は今日、セレナとなるべく行動 して、セレナを嫌がらせから守りたい。

だから、謹慎なんて受けている場合じゃない。


「…やめなさい、2人とも。騒ぎを起こすものじゃありません」

ピシャリとカトリーナが注意をすると、1人が猫撫で声でカトリーナに言葉を返す。

「でもカトリーナさまぁ、私、こんな方が同じ校舎にいたら、いつ暴力を振るわれるか、気が気じゃありませんわ」

怯えたように両手を胸にあて、困ったポーズをするのが、リディアにはなんとも煩わしい。


「…あんたたちみたいな小物、相手にするわけないでしょうが。っていうか、あんたたちの名前だってこっちは知らないんだから」


その言葉は2人のプライドを刺激した。

「なんですって…!ちょっと魔法が使えるってだけで、生意気な……!あなたのような学のない人は知らないでしょうけど、我がローゼンベルグ家はこのマギアナ国でも特に植物魔法に秀でている一家として一目置かれているんですのよ」


その言葉に、リディアではなくセレナが反応する。

「まぁ……!そうなんですね!私も植物魔法が好きなのですが、生憎あまり上手に使えなくて…。今度ぜひ、稽古をつけて下さらない?」


そう言いながら、セレナは自己紹介を始め、相手の名前がエレノア・ローゼンベルグであることを聞き出す。

リディアはセレナがこの2人に親しげにしているのが不快であり、カトリーナも状況が掴めず会話に加わろうとするが、セレナがリディアの裾をぎゅっと掴み、カトリーナに意味ありげな目線を投げることで、2人はその様子静観することにした。


セレナはさらに、チラリともう1人を見ながら言葉を続けていく「私、お恥ずかしいことに、本当にこの国のことに無知で…そちらの方もきっと名門一族のご出身なんですよね?」

その言葉に相手も気をよくし、自分の名前がシルヴィア・ヴァルモンであることから始まり、岩魔法が得意な一家で、この国では鉱山から様々な宝石を魔法を使って発掘した一族であることをしきりに語る。

セレナはその後も、2人をおだてながら様々な情報を引き出しており、そこでようやくリディアにもわけがわかった。


ーー植物魔法と岩魔法が得意な2人組。まさに嫌がらせの主犯として考えていた組み合わせだ


普段おっとりしているセレナが相手を意のままに扱って、嫌がらせの手がかりを得ようとしてくれている。

であれば、自分もできることをしよう、とリディアはあえて2人を挑発していく。

「へぇー。そんなにすごい一族のご出身なのに、お二人は模擬戦のメンバーにも選ばれず、カトリーナ様の腰巾着しかできないんだ。魔法の才能がない方は、貴族社会では評価されても、実力主義のこの学園では評価されず、かわいそうですね?」

ここぞとばかりに見下すように言えば、2人は怒りに顔を赤く染め上げる。


「おやめなさい!!!」

そこでカトリーナがリディアを怒鳴りつける。

「この二人は私の大切な友人です。あなたが侮辱していい相手ではないわ」

それは、カトリーナの本心だった。

確かに、模擬戦に選ばれはしなかったが、シルヴィアもエレノアも、学園では中の上には位置する成績であり、カトリーナにとっては昔からの大切な友人だ。

いくら、2人が最初にリディアに失礼な態度を取ったことがきっかけとはいえ、そこまで言われるのは不愉快だった。

さらに、カトリーナがリディアをわざわざ教室の前で待ち構えていたのには理由がある。


前日の謹慎騒ぎ。

それは、模擬戦後レオナルドから聞いていた「嫌がらせ」の事実を裏付ける内容だった。

そして、カトリーナはレオナルドの言葉を思い出していた。

ーーでも、これでリディアが大人しくなって嫌がらせが済んだら、それが一番じゃないか


現実は、レオナルドの予想通りにはならなかった。

リディアへの嫌がらせは悪化し、リディアも模擬戦で大敗したからといって大人しくするような柄ではなかった。


(だから私が、リディアをどうにかしないと)

カトリーナはカトリーナなりに、リディアを嫌がらせから助けたかった。

レオナルドとは違うやり方で、リディアを落ち着かせようと思っていた。

だけど結局……この状況では、カトリーナもレオナルドと同じやり方しか取れなかった。


「最近のあなたの行動は目に余るわ。見ていて不愉快ですし……少しおとなしくしてくれれば、あなたも余計な傷を負わずに済むのではなくて?」


本当は、一対一でしっかりリディアと話したかった。

昨日、リディアの部屋を訪ねても、寝ているのか留守にしているのか返事はなく、話す時間が取れなかった。

今朝だって、リディアの部屋をノックしても無反応で、カトリーナは焦っていた。


早くリディアと話さないとーー。

そう思って教室に行けば、気づけばシルヴィアとエレノアに囲まれ、自由にリディアと話すことも出来なくなった。


「……カトリーナ」

リディアが呆然とした顔でカトリーナを見つめる。

言ってはいけないことを言った、そう思いながらも、カトリーナはどうすればいいかわからなかった。

ただ、リディアが傷つくのが嫌だった。大人しくしてくれさえすれば、きっと傷つかない。

そう思っての発言だったが、結局リディアを傷つけたのはカトリーナ自身だ。


その時、授業開始前のベルが校舎 に鳴り響く。


「さすがカトリーナ様!学園のためを思ったご発言ですわ」

「そういうことです。今後は身の程を弁えて平民は平民らしく、大人しくしていることね」

シルヴィアとエレノアは勝ち誇った顔でリディアを見つめると「さぁ行きましょう、カトリーナ様」と言ってカトリーナの腕を引き、廊下を歩き始める。

カトリーナが歩きながら後ろを振り返ると、そこには泣きそうな顔をしたリディアと困惑顔のセレナが立っていた。


リディアって本当に主人公だっけ…?と作者が不安になるほど口が悪い今日この頃


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