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セカンドガールの私が学園のプリンスをざまぁします!  作者: 白波美夜
第一章 セカンドガール脱却編
14/84

友情

今回はあえて「セカンドガール」などの表記をタイトルには入れませんでした。

ルークと話した後、寮に戻ったリディアはセレナと話すことを決めた。

その筈なのに、セレナの部屋の前で怖気付いてる自分に気づく。

ーー怖い、セレナに嫌われるのが。リディアのせいで嫌がらせを受けている、と知ったら、セレナはどう思うんだろう?

リディアは深く息を吸い込んだ。心臓が跳ね上がるように脈打つ。


「行かなきゃ」

意を決して手を上げ、ノックした。


「はーい!」

扉の向こうからセレナの声がする。

柔らかくて優しいその声に、リディアの緊張が少しだけ和らぐ。

「私よ、リディア」

扉が静かに開き、セレナが顔を覗かせた。少し驚いたような表情を浮かべている。

「リディアさん!どうされたんですか?もう遅いですよ?」

「…話があって、今いいかな」

セレナは一瞬考えるように間を置いたが、すぐに微笑み、扉を広げた。

「どうぞ、お入りください」


セレナの部屋に来るのはまだ2度目だが、リディアは温かみのある部屋に、実家に帰ったかのようなくつろぎを覚えた。

「今日はあいにく、お茶菓子がなくて…お茶だけになっちゃいますが、ちょっと待ってくださいね」

セレナが言いながらお茶を沸かしてくれる。

「…ごめん、気が利かなくて。何か持って来ればよかったね」

セレナと話すことを気にするあまり、手ぶらできてしまったことをリディアは申し訳なく思った。

(今日はセレナと話して謝らないといけないのに..)


その言葉を聞いて、セレナは目をパチクリさせ、恥ずかしそうに小声で話す。

「…リディアさん。実は私、この国にきてから美味しいものがありすぎて食べ過ぎでお腹が......。最近、間食を減らしてるんですよ」

そう言って、自分のお腹をつまむセレナは可愛らしく、つまんでいる部分に贅肉など全然ない。


(..また気を使わせちゃってる)

手土産のない自分へのセレナからの気遣いは、自分の無力さを感じている今のリディアには辛かったが、その言葉に甘えることにした。

「...ありがとう、でもセレナ細いよ」

「洋服の上からだとわかりませんが、脱ぐと大変なんです!」

セレナは本当に困ったような顔をしながら、机に二人分のお茶を並べていき、リディアもソファに腰を下ろす。

視線を何気なくセレナに向けると、彼女の腕にうっすらと赤い痣のようなものが見えた。


「セレナ…その腕、どうしたの?」


セレナは一瞬動きを止め、気まずそうに笑った。

「...教科書を読みながら歩いてたら、転んじゃったんです」

その言葉には不自然な間があった。


リディアは目を細め、セレナの反応を観察する。

「嘘をつかないで。本当は、誰かに何かされたんじゃない?」

「いえ、本当に…」セレナは笑顔を保とうとするが、視線を逸らす。

リディアは確信した。

これは嫌がらせの一環で、ルークの言葉は正しかったのだと。


リディアの胸の中に、悲しさと申し訳なさ、悔しさが溢れ出す。

「セレナ、ごめん...ごめんねぇ...」

泣いちゃいけない、辛いのはセレナなんだから。

わかっているはずなのに、リディアの目から涙がポロポロ溢れだす。

自分が嫌がらせを受けてる時は、入学したても、今回も、泣いたことなんて一度もなかった。

見返してやる、と強い意志を持つことだってできた。

でもセレナが自分のせいで傷ついてる、その事実はリディアを苦しめるーー。


セレナはリディアの涙に驚き、急いで涙を拭くように、柔らかい布を用意してくれる。

「...セレナか狙われるのは......きっと、私のせいだ」


リディアを心配そうに見つめていたセレナが小さく眉をひそめる気配を感じながらも、リディアは言葉を続けた。


「私、平民だから……入学当初は貴族たちから疎まれてたの。『身の程知らず』だって陰口を叩かれて、わざと教科書を隠されたり、机にいたずら書きされたり……。そのときは、自分で選んだ道だから仕方ない、そんな奴ら、実力で見返してやるって思ってた。でも――」


リディアは少し息をついた。


「レオナルドに気に入られるようになって、周りの態度が少しずつ変わっていた。私が彼の『セカンドガール』と噂されるようになって、みんな私を認めるようになってきて、いつの間にか嫌がらせも止んだ、平民であることを理由に見下されることも減った。だけど、私は――」


リディアの言葉が一瞬途切れる。

セレナの視線が気遣わしげにリディアを見つめている。


「私はやっぱり、平民で、生意気で、気も強いし…。最近、目立ちすぎてたんだと思う。平民のくせに、セカンドガールで調子に乗ってるって……きっと嫉妬もされてた。だから、私も最近嫌がらせを受けてて…。そんな中、模擬戦でレオナルドと口論になって、惨敗して、きっと周りの人は『やっぱりリディアは気に入らない』って思ったんだ。だから今日も、机を隠されて、揉めて、謹慎になって…」


リディアの瞳が揺れる。

セレナには、この話の着地点が見えなかった。

リディアのせいでセレナが嫌がらせを受ける、そんな要素はどこにも見当たらず、ただただ、リディアに対する周りの態度に腹がたった。

「…大変だったんですね」

「違う!辛いのは私じゃない!セレナだよ!セレナは…そんな私の弱みとしてきっと狙われた!私が、何をしてもへこたれないから。私にとっては、自分が何かされるより、セレナを狙われる方が辛いってわかっている人がきっといて、そのせいでセレナは…」


リディアの言葉に、セレナは驚いたように目を見開いた。


「本当、なんですか...?」

「確証はないけど......。セレナ、嫌がらせ受けたのいつから?」


セレナにとって、嫌がらせを受けたと感じる場面はそこまでなかった。模擬戦の朝までは、そこまであからさまなものもなかったから。

それでも、怪我が増えた時期を伝えれば、リディアは申し訳なさそうに俯く。その時期は、リディアが嫌がらせを受けた少し後で、辻褄が合う時期だった。

リディアは深く息をつき、拳を強く握った。

「私のせいでセレナが傷ついている……それも辛いけど、私はなにも気付けなかった。それが一番許せないの。セレナはいつだって、私の変化に気づいてくれたのに...」


部屋の中に沈黙が訪れる。

リディアの言葉に込められた痛みと罪悪感で、部屋の空気が張りつめた。

そんな中、セレナはリディアの手をそっと握り、リディアは俯いた顔を上げてセレナの顔を見た。

その瞳には怒りも悲しみも浮かんでなく、ただ穏やかで芯のある光が宿っていた。


セレナはゆっくりと口を開く。


「リディアさん、私は、リディアさんが私のことを考えてくれている、その気持ちがとても嬉しいです。そして、自分が腹立たしい」

その言葉にリディアは戸惑ったような表情を浮かべた。

「腹立たしいって、なんで...」

「自分が、リディアさんの『弱み』して狙われたってことが悔しいんですよ」

セレナの声には珍しい強い感情が込められていた。


「私が弱いせいでリディアさんを傷つけてる……そんな自分に腹が立ちます」


リディアは急いで否定する。

「違うよ!セレナは悪くない。私がみんなに疎まれてるからーー」

「リディアさんは何も悪くありません。魔法を学ぶ学校で、必死に学び、成果を出すことの何が悪いんですか?貴族でないことで、誰かに迷惑をかけましたか?ーー悪いのは嫉妬して、陰でコソコソやる人たちです」


セレナは少し微笑むと、言葉を続けた。


「リディアさん、確かに私はまだ弱くて、リディアさんにとつて弱みになるかもしれません。それでも、私はリディアさんと一緒にいたいです」


リディアの瞳から、ふたたび温かい涙が溢れる。

でもそれは、先ほどとは違い、罪悪感からくるものではなかった。


「でも、私と仲良くしてたら、また狙われちゃうかもしれない...」

「それでも、私はリディアさんと一緒にいたいです」

その言葉が部屋の空気を変えた。

リディアは目を見開き、恐々と口を開く。

「私、私ね…。セレナが怪我するのが嫌だった。だからこれからはセレナと離れようと思ってた。セレナに嫌われちゃうかもしれない、そしたらもう、今日が話せる最後かもって…」


その言葉に、今度はセレナが目を丸くする。

「リディアさん。友達やめる、なんて言ったら私怒りますよ」


ーーセレナの意志は固かった。


「私がリディアさんと一緒にいるのは、自分の意志です。誰かに命令されているわけでも、状況に流されているわけでもありません。私が選んだのはリディアさんなんです」


リディアは何かを言おうとしたが、言葉が出なかった。

目から涙が溢れる。

「セレナ……」

セレナは微笑みながら、リディアの手を再度ぎゅっと握る。

その手には揺るぎない決意が込められていた。


「リディアさん、お願いです。どうか私を、リディアさんの弱みにしないでください。…私は、リディアさんと対等でいたいんです」


リディアは涙を拭い、セレナの言葉を胸の奥で反芻した。

セレナの芯の強さと優しさに触れ、少しずつ自分の中の重りが軽くなっていくのを感じる。

そして、リディアもまた小さな笑みを浮かべた。


「……ありがとう、セレナ。私も、これからもセレナと一緒にいたい」


二人の間に流れる空気は、どこまでも穏やかで力強いものに変わっていた。

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