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セカンドガールの私が学園のプリンスをざまぁします!  作者: 白波美夜
第一章 セカンドガール脱却編
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セカンドガールの敗北

演習場の空気は張り詰め、観客たちは息を呑んで対峙する3人を見守る。


ロイは倒されてしまったが、リディアは初めて見る闇魔法に感動していた。


(精神支配みたいに、心に働きかけるイメージしかなかったけど、物理攻撃もあるのね!)


リディアは攻略方法を必死に考えながら、鋭い視線をレオナルドたちに向ける。その手元には、水球が複数浮かんでおり、いつでも攻撃ができる態勢をとっていた。

一方のレオナルドはどこか余裕の笑みを浮かべ、悠然と立っている。


「リディア」


レオナルドの穏やかな声が、静寂を破る。


「もういいだろう、実力の差は明らかだ。これ以上無駄に傷つく必要はない。胸元のボールを渡すんだ」


その言葉に、リディアは眉を顰め、拳を握る。


「何よそれ!?やってみないとわからないでしょ!」


レオナルドはため息をつき、子どもを諭すような視線をリディアに向けた。


「君は素晴らしい魔法使いだ。才能もある、努力もしている。学園の多くの人間が君を認めている」


彼は一歩前に進み、静かに続ける。


「でもね、リディア。身のほどは弁えた方がいい。君が一目置かれているのは、僕が君を目にかけているからだ。君自身の能力をみんなが評価しているわけではない」


その言葉に、カトリーナは息を呑み、観客席からはちらほらと賛同の声が漏れ、レオナルドの言葉に真実味があることが伝わってくる。


リディアもそのことには気づいていた。


学園で、自分は魔法の実力を認められ、地位を築いてきた。入学当初はあった嫌がらせも、自分の実力を示していくうちに、なくなっていった。

だけどそれは、レオナルドからの庇護のようなもののおかげだったのも事実だ。


「だったら何よ!」


リディアの叫びがその場を震わせた。


「私は私よ!私は、実力でこの模擬戦への参加を勝ち取ったの!レオナルドは関係ない!......全力で戦うって約束でしょう!」


その瞬間、リディアの周りに浮いていた水球が刃に形を変え、レオナルドに向かって飛び出す。

切り裂くような音を立てて彼の胸元に迫ったが、レオナルドは手元で風を発生させ、その刃を破壊していく。


「いい攻撃だね。でも、そんな単純な魔法では僕には届かないよ」


彼の言葉と態度には余裕と少しの挑発の色が感じられる。


「カトリーナ、行こうか」


レオナルドのその合図を皮切りに、カトリーナが発現させた風魔法が演習場を舞い、リディアの周囲を取り囲む。


「これで終わりなの?リディア」


カトリーナが声を上げると、リディアの周りを回転する風が次第に速さを増していく。

突風がリディアの服を激しく揺らし、肌に小さな傷を刻み始める。


「そんなわけないでしょう!」


リディアは水の膜を自身の周囲に張り巡らせ、風を阻む盾を作った。カトリーナはリディアの防御に安心したように笑う。


「だったら、これならどうかしら!」


カトリーナは手元に魔法陣をイメージし、足元の土にその手を置いた。すると、リディアの足元の土が震え、周囲から砂と岩が巻き上がる。

リディアの周囲にあった風魔法と組み合わさり、竜巻が発生した。砂つぶと小石が混ざり合い、竜巻はリディアを中心に回転の勢いを増し、水の盾を削っていく。


「くっ…!」


リディアは竜巻の底に手を突き、爆発的な炎を一瞬にして立ち上らせ、周囲の砂や土を焼き尽くしていく。灼熱の炎がリディアの周囲に広がり、風が散らされていく。


竜巻から逃れたリディアを見て、観客席からはどよめきが起こる。いつも綺麗に流れているダークブラウンの髪は乱れ、苦しそうな表情を浮かべている。


「リディアさん、頑張って…」


セレナがそっと呟くが、その声はリディアはもちろん、周囲の観客にも聞こえない。


竜巻から脱出し、少し余裕を取り戻したリディアはカトリーナを見つめ、ニッと笑った。

2人は、この戦いを楽しんでいた。

カトリーナとリディアが手元に魔法陣を発動させ、次の攻撃に移ろうとしたその時、今まで気配を消していたレオナルドがリディアに攻め寄る。


「さすがだね、リディア。でも、やはりまだ足りないな」


雷が彼の指先を跳ね、空気を切り裂く音が響く。

レオナルドが大量の雷の槍を放つと、それはリディアに向かって一直線に飛んでいく。


雷の光が演習場を照らし、観客は息を呑んだ。

リディアの危険を察知したルークと教師陣は、即座にリディアの周囲に防御魔法を張る構えをとるが、


「まだやれるわ!」


リディアは叫び、足元に目線を向ける。

リディアは足元に魔法陣をイメージし、次の瞬間、地面を蹴り上げて常人離れした俊足で横へとよけた。雷の槍はリディアのいた場所に突き刺さり、地面を焼き焦がす匂いだけがその場に残った。


(…これは、どう判断すべきなんだ?)


ルークはレオナルドの試合運びに疑問を感じていた。正直、レオナルドの方がリディアより魔法使いとして圧倒的に上だ。ボールを割ろうと思えば、ロイを相手した時のように一瞬だろう。


(なのに、なぜ彼はリディアを弄ぶような戦い方をする…...?なぜリディアが防げるかどうか、ぎりぎりの魔法を使うんだ?)


もし相手を傷つける目的で魔法を放っているなら、それはルール違反だ。何より、彼の魔法使いとしてのあり方に問題がある。そっと教師を見遣るが、彼も試合の展開に緊張感を持って見守っているように見える。


(…油断しないでおこう)


ルークは 全身に魔力を巡らせ、いつでもリディアを守れるように気を引き締めた。


***


リディアの呼吸は荒くなり、汗が額を伝う。しかし、その瞳には、まだ力強い輝きが宿っていた。一方のレオナルド、カトリーナは変わらず余裕の表情を崩さない。


「これでわかったろう、リディア、ボールを渡して」


再度レオナルドがリディアに声をかける。

その声には優しさが含まれていたが、同時に圧倒的な実力の差を自覚している余裕が感じられる。


「このまま負けるより、ここで降参した方が君の名誉も守られるはずだ」


リディアは息を整えながらレオナルドを睨みつけた。その表情には怒りと反発の色がはっきりと現れている。


「絶対イヤ!」


そういうや否や、リディアはレオナルドに向かって舌を出す。


「アッカンベーっだ!負けるとか偉そうに言うなら、私を本当に倒せるか見せてみなさいよ!」


その幼稚で品のない振る舞いに、レオナルドは眉を吊り上げ、カトリーナも顔を顰める。観客の平民出身の学生たちは気にした様子はないが、貴族出身者は皆「何あの下品な振る舞い」「はしたない」と声を潜める。レオナルドはすぐに表情を落ち着け、僅かに微笑んだ。


「困った子だね。ねぇ…僕を挑発するのは、得策じゃないよ」

「挑発じゃないわ!ただ負けたくないだけ。諦めて試合放棄するような真似、絶対したくないのよ!」


リディアはそういうと、無数の輝く水滴を発生させ、乱反射でレオナルドとカトリーナの視界を悪くする。


「…綺麗」


観客は先ほどのリディアの幼稚な振る舞いも忘れ、その光景に目を奪われる。


「…どこまでやれるか、見てあげるよ」


レオナルドが言うと、リディアはむっとしながらも、次々と魔法を展開していく。


彼女の指先が水晶のような輝きを放つと同時に、巨大な水の剣が空中に現れ、鋭い矢のようにレオナルドに向かっていくが、レオナルドは一歩後ろに下がり、その剣を避ける。すると、待ち構えていたようにレオナルドの足元に草のむちが這うが、カトリーナが事前に察知し、それを焼き切る。そこからも、リディアの動きはどんどん複雑さを増していく。

波のようにうねる水の壁、氷のつぶて、霧を発生させての撹乱攻撃――どれもが巧みで観客を魅了する魔法だった。


「魔法が生きてるみたい...…」


応援していたセレナはリディアの魔法を見てそっと呟く。しかし、レオナルドはすべての攻撃を完璧に防ぐ。


「ここまでかな…...リディア、悪いが僕たちの勝ちだ」


レオナルドの声が低く響き、場の空気を支配する。

レオナルドが手を広げると、その周囲に闇の波動が広がり始めた。物質化したかのように空間を侵食したソレは、鋭い棘状の形を取り始める。


「いくよ、リディア」


その言葉と共に、闇の棘がリディアめがけて飛び出す。リディアは光の刃を放つが、闇の棘がそれを容易に貫き、リディアの胸元まで迫る。


リディアは最後の力を振り絞って、右手に魔力を流した。リディアの周囲に漂う空気が変わり、レオナルド、カトリーナやルークはもちろん、遠くにいる観客も、何かが起こる予兆を感じた。


「水の次に光。一緒にして、時間維持。闇を喰わせる.......!」


リディアは無心に呟く。

すると、リディアの周りに青と金の粒子が集まり、一つの形が作られていく。

それはーー翼を広げた鳥だった。


「飛べ!」


リディアの声に呼応するように、鳥が羽ばたき、そしてーー急に力を失ったかのように、翼が崩れ落ちた。


「…なんで?」


リディアが呟く間にも、鳥の輪郭が揺らいでいく。


「終わりだね」


レオナルドがそういうと、胸元まで迫っていた闇の棘が、リディアの胸元のボールを貫く。


「試合終了!」


ルークの合図が聞こえる。

リディアの初めての模擬戦は、惨敗に終わったーー。


ーーーーーー


「すごい試合だったな!」

「さすがレオナルド様!2年生の試合レベルを超えているわ!」

「でも、リディアさんの魔法もすごかった!」


観客席からは、拍手喝采が起こり、そこにはリディアへの賞賛も多く含まれていた。一方で、リディアに対する批判的な言葉も多い。


「最後のあの魔法、派手なのはいいけど維持もできてないじゃない」

「ほんと、平民が調子乗って頑張っても、所詮あの程度よ」

「だって聞いた?『私は私よ!レオナルドは関係ない!』ですって!ずっとレオナルド様に目にかけてもらって、何あの態度?」


地面に膝をついたリディアは、崩れ落ちた鳥の残骸の光が消えていくのを見つめていた。

失敗したことへの悔しさと、自分の力のなさが胸に重くのしかかる。


ーー身の程はわきまえた方がいい


レオナルドの言葉を思い出す。


「ちくしょう!」


リディアは拳を地面に叩きつけ叫んだ。

声は震え、掠れていたが、悔しさがその一言に込められていた。

服には泥がつき、髪も乱れていた。

そんなこと気にせず、リディアは何度も地面に拳を叩きつけていたーー。


(リディアのあの最後の魔法はなんだ?)


余裕の態度は崩さず、レオナルドはリディアを見つめていた。


『時間維持』ーー確かに彼女はそういった。


時間を使った魔法を自在に扱えるのか?

だとしたらーー面白い。

だけどもし、時間魔法を自在に使うなら、悪意ある人間に利用されるだろう。


(守ってあげよう。カトリーナのように)


レオナルドは、自分がリディアを傷つけたとは微塵も思っていない。

自分の考えはいつだって正しいーー

レオナルドは、そう信じてる。

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リディアは真面目なので普段はきちんと話しますが、切羽詰まると素がでてちょっと口が悪くなります。

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