これぞ真の悪役令嬢?
「はあ、今日はついに試験結果の発表ね…緊張するわ」
ランナがため息をつきながら言う。
「あら、大丈夫よ。ランナさんは現国も得意だし、他も余裕で及第点はクリアしてると思うわよ」
「だといいんだけど…数理がどうも苦手で…ミナミさんにあんなに教わったから大丈夫だと思うんだけど…。ミナミさんは、結構できたんじゃない??もしかして上位かも知れないわね!」
「ふふっ…まあ、今回は結構自信あるわ」
「その謙遜しないところ、まったく貴族らしくなくて素敵だわ」
「えっ??ばかにしてる??」
二人でそんな冗談を言っているとタクマが走ってきた。
「ミナミ!掲示板みた?!お前の順位!」
「えっ?」
5 ミナミ・ランクレッド
なんとミナミは5位だったのだ。
ちなみに1位はリュークリオン、2位セシリオ 3位パトリオット4位のランフォース、ここまではお馴染みメンバーである。
「え?ミナミ・ランクレッドってあの、元平民の??」
「まさか、ありえない…」
「何かの間違いじゃなくって??」
「な~んだ一位じゃないのか」
今回は真面目に勉強にたので、正直1位かも?と期待していた。
ーやっぱり、いきなり1位をとれるほどあいつら(攻略対象者達)は甘くなかったか。
もはや心の中ではあいつら呼ばわりである。
「ミナミさんったら!何言って…」
他の学生たちもいる中でのこの発言は流石にまずいとランナが止めようとしたが、時すでに遅かった。
「あらぁ~、随分自身がおありでしたのね」
学生の一人がミナミの前に出てきた。
「…あなたは?」
「あら、失礼、私としたことが申し遅れましたわ。私、セルジュール・サラ・ヘッドレントと言います。以後お見知りおきを」
「はあ…」
ミナミは彼女をどこかで見たような気がしたのだが、思い出せないでいた。
「なんなんですの!その気の抜けた返事は!…まあ、いいですわ。失礼ですけどあなた、前回のテストは何番でしたの?」
「たしか…102番だったと思いますけど。」
「…102番ねぇ。それが、急に5番だなんて。変ですわねぇ。そんな事ってありるんでしょうか?ねえ?」
セルジュールは周りの学生にも同意を求めるように言った。
すると、周りも同意するかのように口々に噂しだす。
「確かに…ちょっと順位が上がりすぎでは?」
「いきなり5番なんて…」
それに満足したしたかのように微笑むとセルジュールは続けた。
「おかしいですわよねえ。最初から問題を知っていたなら話は別ですが…」
「なっ…!」
ー私が不正をしたとでも言いたいの??
「聞けば、ミナミさんは光魔法が使えることから、魔法科のソルビット先生と大変仲がよろしいと聞いていますわ」
「それってどういう意味ですか!」ミナミは声を荒げて聞き返す。
「別に…私は事実を申し上げているだけですけど、もしかして、急に順位が上がったのと、ソルビット先生と仲がよろしいのは関係があるんじゃないですか?」
周囲がざわづく。
「なるほど」「それなら…」
ヒソヒソ声がミナミの耳に入ってくる。
ーまずいわ、このままじゃテストで不正したと勘違いされてしまう!
「ミッ…ミナミさんは、放課後、毎日私と図書館で勉強されていました!」
そこへ、ランナが割って入った。
声も体も震えている。
ミナミは知らないが、このセルジュールという令嬢は、恐らく身分の高い令嬢なのであろう。
男爵子女のランナが口をはさむのはどれだけ勇気が言ったことだろう。
しかし、セルジュールは鼻で笑うように「勉強したから、実力だと言いたいのかしら?でしたら、あなたは?一緒に勉強していたならそんだけ成績は上がったのかしら??」と続ける。
高圧的なセルジュールの態度にランナは何も言い返せなくなった。
それを見たタクマとランナが言い返そうとしたその時だった。
「話はそれで終わりですか?」
艶やかなレッドブラウンのロングヘアーをまとい、アンジェリカがやってきた。
ゆっくりと、歩くその姿勢は美しくも威厳があり、口元に携えた扇子が一層彼女を高貴に見せた。
そのオーラに誰もが口をつぐんだ。
「…アンジェリカ様!」
「お久しぶりですわね、セルジュール様」
どうやら二人は知り合いの様だ。
「先ほどの話、聞かせてもらったのですけど、ちょっと聞き捨てならないかと思いまして」
「え?ええっと、ですが、あのミナミさんが、いきなり5位だなんて…」
「先ほどの発言ですと、まるでミナミさんが、ソルビット先生から事前に問題を聞いていたかのように聞こえますわ。…この学園にそのような先生がいるなんて、不用意に仰ってはいけませんわ」
「ですが…!」
慌てて、セルジュールが反論しようとするが、アンジェリカはそれを遮るように言い放つ。
「それは、この学園を貶める発言とも取れますわよ。…そしてそれは、この学園を運営している王宮への批判ととらえても?」
切れ長のアンジェリカの目が真っすぐにセルジュールの目を見据える。
ゆっくりと丁寧に、相手の目を見て話す。
当たり前の事なのに、アンジェリカをそれをすると、された方は委縮しきってしまう。
さしずめ、ネズミとライオン…セルジュールがすごく小さく見えてしまった。
ーまさしく、これこそが真の悪役令嬢!セルジュールとは格が違うわ!
ミナミは初めて、ゲームの中のアンジェリカと実物がシンクロしたように思えた。
ーまあ、悪役ではないけどね。
「いえ!私は決してそのような事は!…失礼いたしました」
セルジュールはアンジェリカに頭を下げた。
「憶測でモノを言うのは淑女の風上にもおけない行為ですわよ。お気を付けなさいませ。それと、私ではなく、ミナミさんに非礼を謝って下さい」
アンジェリカにそう言われ、セルジュールは心底悔しそうな表情をミナミに向けるが、しぶしぶ頭を下げて謝るのだった。
「ミナミさん、私の非礼をどうかお許しください」
「ええっ…」
そうして、セルジュールはとりまき?数人と悔しそうに去っていった。
ー。
「ああっ!」
突然大声をあげたので、周りがびっくりした。
「どうしたの?ミナミさん??」
「ああ、ごめんなさい、…それよりアンジェリカさんありがとう!助けてくださって」
「いえ、私はただ、当たり前のことを言っただけですわ」
ガタっ。
「おい、大丈夫か??」
「ほっとしたら腰が抜けてしまって…」
倒れ込むランナをタクマが支える。
「大変、どこか休める所を…あっ談話室はいかが??あそこは私たちしか、ほぼ使ってないから」
談話室とあるが、実際には皇太子のリュークリオン達しか立ち入れないプライベートルームというのが暗黙のルールだ。
「アンジェリカ様がいいっていうなら大丈夫かな。よし、そこに運ぼう」
タクマはそう言うと、倒れたランナを抱き上げた。
所謂お姫様抱っこというやつだ。
「あのっ!重いので!私、歩けますから!」
「何言ってんの?フラフラじゃん。いいからいいから。全然重くないし」
タクマは、恥ずかしさと焦りで取り乱すランナをお構いなしに連れて行く。
ーさすが、攻略対象ね。お姫様抱っこをいとも簡単にやってのけるとは!
ミナミは妙なことに関心してしまった。
「…こっちですわ」
そして、なぜか不機嫌そうに談話室に案内するアンジェリカがいたのだった。




