当たり前のように
――学園祭も終えて、ようやく日常が戻って来た感じがするわね。
学園祭を終えてほっと一息するミナミだった。
穏やかな木漏れ日が差し掛かる中、中庭のベンチで昼休みを過ごす。
なんと贅沢な時間だろう。
学園祭以降、セルジュール様とセシリオ様は一緒に居ることが多くなった。
今日も少し離れたベンチで二人仲良く過ごしている。
その横のベンチではランナが焼いてきた菓子をランフォース様が美味しそうに食べている。
もちろん、みんなに作ってきてくれたのだが、ランフォースの無言の圧にまた一人、また一人とその場を離れていった。
部屋に帰ったらまた貰うとしよう。
それぞれがそれぞれ楽しそうにしている。
しかし、なぜ、よりによって今、このベンチにミナミとリュークは二人きりなのか?!
ミナミはリュークリオンへの気持ちを意識して以来、リュークリオンと上手く話せないでいた。
――え?私、今まで何を話していたの?
それに……。
ミナミは学園祭後の談話室で行われたプチ打ち上げ会を思い出す。
自分の口元をぬぐうリュークリオン。
まるで、愛おしい人を見守るかの様な、優しい眼差しをミナミに向けた。
――まあ、でも、あんな事は意識していないからできるのよね?手のかかる妹的な??
ミナミは裏庭でのサンドイッチの事も思い出す。
――仲良くなってくると距離が近くなるタイプなのかしら?勘違いしそうになるから、やめて欲しいわ……。
じっとリュークリオンを見ていると、目が合ってしまった。
慌てて、ミナミは会話を振る。
「そっ!そう言えばパトリオット様は?今日は見かけないわね!」
少し裏返ってしまった……。恥ずかしい。
リュークリオンはすっとんきょうな声を出すミナミをいぶかしげに見るが、すぐ興味がないといったように、会話を続ける。
――こいつの挙動不審は、いつもか。
「約束があるようだ」
「そうなんだ?……そう言えばパトリオット様って婚約者はいらっしゃるの??」
もちろんのこと、ミナミは前世でのパトリオットの記憶は無かった。
まあ、アンジェリカ様に聞けばめちゃくちゃ詳しく教えてくれるんだろうが。
「いる。ペンフォード家のご令嬢だ。学園には通っていないが、学園祭には来ていたぞ」
ミナミは、学園祭でパトリオットが令嬢と歩いていたのを見たことを思い出した。
品の良い、落ち着いた穏やかそうなご令嬢だった。
正直、パトリオットは学園でも女の子と居ることが多いので、たいして気にも留めていなかったが、あの令嬢が婚約者だったのだろうか。
――確か妹さん?と来ていたような……。
だが、パトリオットが腕を組んでいたのはその令嬢ではなく、妹の方だった。
妹は穏やかそうな姉とは違い、愛らしい外見ながらも気の強さがにじみ出ている感じだった。
――セルジュールにしろ、パトリオットの婚約者にしろ、妹っていいればいいってもんじゃないのね。
前世でも今でも女兄弟のいなかったミナミは、姉妹に少し憧れを持っていたが、ここ最近ですっかりその幻想は砕け散っていった。
「……ところで いいの?あのふたり放っておいて」
ミナミはタクマとアンジェリカに目をやる。
二人は仲睦まじそうに庭園の花を愛でている。
ミナミの目からみてもいささか距離が近い気がする。
以前のリュークリオンならタクマとアンジェリカの間に割って入っていただろうに。
ここ最近は放任主義?である。
まあ、あんまり距離が近い時はストップが入るが。
「……私はアンジーが幸せならそれでいい。まあ、あいつがアンジーを泣かせるような真似をすれば容赦しないがな」
人をも殺しかねないその表情に安定の過保護っぷりを感じるミナミだった。
リュークリオンは二人に目をやる。
「今はまあ、その心配はなさそうだが」
リュークリオンは、口元に笑みを浮かべてそう言ったが、表情はどこか寂しそうだった。
それを見たミナミは胸が痛んだ。
このまま、アンジェリカとタクマが上手くいけば、アンジェリカは断罪されることはないだろう。
だけど、二人が結ばれる為にはまずリュークリオンとの婚約を破棄しなくてはならない。
王家との結びつきだ。
そう簡単ではないだろう。
それに……。
リュークリオンの気持ちは?
リュークリオンはきっと、いや、絶対にアンジェリカの気持ちに気づいている。
いつもアンジェリカの幸せを何よりも一番に考えているこの人は、きっと自分の気持ちよりもアンジェリカの気持ちを優先するだろう。
もしかしたら、そのために王家をも敵に回すかもしれない。
ここは前世のゲームの世界の様で、ゲームの世界ではない。
この先どうなるかはわからない。
現に未だに私は聖女として覚醒していない。
ゲームの展開通りならとっくの昔に覚醒しているのに。
もし父親である王と対立したら、リュークリオンはどうなってしまうのか。
皇太子を剥奪される……なんてことにはならないとは思いたいけど。
愛する人の為に自分の思いを諦める……そんな事辛くないはずがない。
もしも、私がアンジェリカ様だったら。
確かに断罪されることは怖いし、死にたくなんてない。
だけど。
この人にこんな寂しい表情をさせるなんて。
そんなの、絶対に嫌だ。
「私がアンジェリカ様だったら良かったのに……」
「はっ?」
思わず声に出ていたようだった。リュークリオンがびっくりしたような声を上げる。
ミナミは焦る。
――これ、聞きようによっては、あなたのアンジェリカになりたかったって、告白してない?!
「……まあ、アンジェリカは相手の事を思いやることができ、気品も教養も(苦手はあるが)兼ね備えた、完璧な淑女だからな。お前が憧れるのも無理ない」
――そっちにとらえたか。
ミナミは、ほっとした気持ちと少し残念な気持ちが入り混じる。
「だがー」
「私は、お前は今のままでいいと思うぞ」
「え?」
「私は、お前がお前だから―――」
キーン、コーン
予鈴が鳴る。
「もう、こんな時間か。さっ、行くぞ」
「どうした?次は政治経済だ。皇太子が遅れるなんてありえないからな。早く立て」
なかなか席から立とうとしないミナミを、リュークリオンが催促する。
――当たり前に、一緒に行くと思ってくれるのね。
そんな些細な事にも胸がきゅっとなるミナミだった。
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