学園祭6 一緒に回りたかった
「セルジュール?!」
「セシリオ様……」
セシリオが駆け付けると、ベンチに一人、今にも泣きだしそうなセルジュールが座って居た。
「君、ありがとうね。このお礼はまた今度させてもらうよ」
そうニッコリ笑うセシリオに「とんでもない!」と言って、タクマの友人はそそくさとその場を去る。
友人は、借りならばむしろタクマに返してもらいたいと思うのだった。
「びっくりしたよ。セルジュール様が待っているので急いで来てもらえますか?なんて言われたから、何事かと」
「私はそのような事は言ってません!!タクマ様が勝手に!!」
「……タクマが?」
その名前を聞いてセシリオはイラっとする。
「タクマが君を泣かせたのかい?」
「ち、違います!!」
セシリオの静かな怒りを感じ、慌てて訂正するセルジュールは、先ほどの出来事をゆっくり話し出すのだった。
「……アンジェリカ様が謝罪を受け入れられないのは当たり前ですわ。私はずっとアンジェリカ様を苦しめてきたのですから」
――まさかセルジュールがアンジェリカにあやまるとは……。
今までのセルジュールでは到底考えられない行動にセシリオは少し驚く。
それと同時に本来、素直だった彼女をこうまで歪ませてしまったのは自分にも責任があるのかもしれないと、罪悪感が押し寄せる。
「まあ、それはそうじゃないかな??だってそれだけの事を君はアンジーにしてきたのだから」
「――!!」
慰めの言葉を期待していたわけではないが、はっきりと言うセシリオの言葉にセルジュールは若干ショックを受ける。
「だけど、今君は心から反省しているし、謝りたいと思っているのだろう?なら、一度ダメだったからってもうあきらめるのかい?」
「でも……アンジェリカ様は私の顔だって見たくないと思いますわ」
「君は?君はどうなの??……アンジーとこのままでいいの?」
「私は……」
公爵家という高い身分にあるにも関わらず、人を見下したり差別しない。
いつでも朗らかに微笑んでいて、誰からも愛される、花の様な人。
「私は……アンジェリカ様と、仲良くなりたい……」
本当は、ずっとずっと憧れていた。
彼女の様に誰からも愛される優しい令嬢になれたら……。
「だったら、やることはひとつだね。何度でも、謝罪が受け入れられるまで誠意を見せるしかないよ」
「セシリオ様……」
「君なら、できるよ」
「……そうでしょうか?」
「大丈夫、何度失敗したって、何度でも僕が励ましてあげるさ」
そう言うと、セシリオはセルジュールの髪をすくい、キスをする。
「なっ!?何を?!」
セシリオは、真っ赤になるセルジュールの反応に満足すると、愛おしそうに見つめ直し、
「いつでも僕がいることを忘れないで」
そう言って、優しく微笑むのだった。
アンジェリカが休憩から戻ると、セルジュールと鉢合わせた。
「あっ……」
先ほどの事でお互い気まずい雰囲気が漂う。
「ごめんなさい!!」
それはほぼ同時だった。
周囲も思わず振り向く。
「え?なぜ?アンジェリカ様が謝るのですか?」
セルジュールは自分が謝るべきなのに、なぜアンジェリカが謝ってきたのかわからなかった。
「だって……せっかくセルジュール様が謝って下さったのに……あんな言い方をしてしまって」
「そんな!謝るのは私の方なのに!今回もあなた様の気持ちを考えず、一方的な謝罪をしてしまったと反省してたのです!」
「違うの。……私、セルジュール様に嫉妬してたの。だから……。本当にごめんなさい」
セルジュールは驚く。
――アンジェリカ様が私に嫉妬する要素なんてあったかしら??
「だから……その、謝罪は受け入れるわ」
「え?……本当ですか?!」
「ええ、これからは友人として仲良くしてくれたら嬉しいですわ」
アンジェリカがにっこりとセルジュールに微笑みかける。
「アンジェリカ様……こちらこそよろしくお願いしますわ!正直……一年くらいの長期戦は覚悟してましたから。何だか拍子抜けですわ」
「一年って!?……あなた、私をどんだけ頑固者だと思っていましたの?!」
そう言うと、二人は顔を見合わせて思わず笑い出すのだった。
「何だかわからないけど、うまくいったようね」
「ええ、二人ともなんだか吹っ切れたような、とてもいい表情してるわね」
それを見ていたミナミとランナはほっこりするのだった。
――ふう~っ。何とか当初の目標も達成できて、学園祭も無事終わったわね。
ミナミは借りていた備品を生徒会室に届けながら、一人感慨に浸っていた。
――結局、リュークリオン様とは休憩すら被らなかったわね。
なかなか二人同時に抜けるタイミングがなく、ミナミとリュークリオンの休憩は別々になってしまった。
だが、正直あの約束だって、自分たちはランフォースを乗せるためのおまけみたいなものだ。
リュークリオンの方は全く気にも留めていない事だろう。
アンジェリカは最後まで申し訳なさそうにしていたが。
――しかし……ランフォース様、絶対にランナに気があるよね?!ランナもまんざらじゃなさそうだったし!
衣装合わせの時にまったく自分がランフォースの視界に入っていなかった時にもしや?とは思ったが、この3日間で確信した。
絶対にランフォースはランナに好意を抱いている。
――いいなぁ。セルジュールさんもセシリオ様と上手くいきそうだし、アンジェリカ様もタクマとのわだかまりが解けたみたいだったし……。
結局、自分だけフラグも何もない事に改めてショックを受けるミナミだった。
――リュークリオン様と学園祭回ってみたかったな……なんて、ね。
ミナミは備品を返し終えると、談話室へ向かった。
”私達だけでプチ打ち上げをするから終わったら来てね”とアンジェリカに言われていたのだ。
実は余っていたアップルパイに目をつけていたのだ。
ウキウキしながらミナミは談話室のドアを開けた。
「お帰りなさいませ、お嬢様!!」
「え??」
ドアを開けると、そこには執事侍女姿のままのアンジェリカ、ランナ、タクマにランフォース、それにリュークリオンがいた。
「みんな……どうしたの?まだ着替えてなかったの?」
ミナミが生徒会室へ行っているうちにとっくに着替えていると思っていた。
それに……。
「この3日間、いえ、準備期間から本当にお疲れさまでしたわ。最後ぐらいミナミさんにゆっくりしてもらいたくて」
アンジェリカが微笑む。
「さ、お嬢様、こちらへお座りください」
タクマがミナミをエスコートする。
ランフォースが引く椅子にミナミが腰をかける。
そこに、ランナがナフキン等を用意する。
そして、
「お待たせしました、ミナミお嬢様特製セットでございます」
リュークリオンがお茶菓子と紅茶を運んでくる。
ミナミが狙っていたアップルパイも乗っている。
アンジェリカがミナミに紅茶を淹れる。
「ミナミお嬢様の為の特別ブレンドでございます」
アンジェリカはそう言って、仰々しくお辞儀をする。
「どうぞ、ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
リュークリオン達もアンジェリカに続く。
「みんな……」
思いもよらないサプライズにミナミは胸がいっぱいになる。
溢れそうな涙を誤魔化そうと、ミナミはいつも以上にアップルパイにかぶりつく。
そんなミナミを見て、リュークリオンが思わず噴き出す。
――しまった!恥ずかしい!!
行儀が悪かったかと、顔が赤くなるミナミだったが、
「ミナミ嬢、僭越ながら口元についておられます」
そう言って、リュークリオンがナフキンで優しくミナミの口元を拭くので、さらにミナミの顔は赤くなるのだった。
――ミナミ嬢以外だったら、頼まれてもこんなことしないだろうな。
そんな二人のやり取りを見て、密かにそう思うランフォースであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
気に入って頂けましたら、励みになりますので、ブックマークや星評価よろしくお願いします。




