学園祭3 何をやってるんだか
――今日はゆっくり、学園祭を回れそうね。
学園祭3日目、オープン前にアンジェリカは休憩のシフトを確認していた。
ありがたいことに、大人気となった執事侍女喫茶は予想以上に忙しく、思ったように休憩が取れなかったのだ。
――ランナさんとランフォース様は何とか昨日一緒に休憩させられたから、あとはミナミとリュークリオンね。
二人とも文句を言いながらも一緒に回るんだろうなっとアンジェリカは想像し、思わず笑ってしまう。
――セシリオ様が午前中は忙しいと言ってたから、セルジュールさんの休憩は午後にして……。
しかし、ふと、アンジェリカの筆がとまる。
セルジュールの休憩を午後に回すと、自分が午前に取らなくてはならないが、そうなるとタクマと一緒に休憩できなくなる。
もちろん、一緒に休憩を取ったからといって、約束もしていないタクマと学園祭を一緒に回れる保証はないのだが。
――セシリオ様とも上手くいきそうだし、もう十分よね?そこまで、私がお膳立てする義理は無いはずよ……。
アンジェリカはセルジュールの休憩を午前に書き換えた。
「アンジェリカ様、本日の茶葉のチェックをして欲しいのですが」
「今行くわ」
学園祭、3日目が始まろうとしている。
――何てこと?全然お客様が途切れないわ!!
アンジェリカは焦っていた。
正午も過ぎたのに、客足が一向に減らない。
ここは、基本お茶と菓子のお店なので、昨日まではお昼時は空いてきていたのだ。
――どうしましょう?これじゃあ私が抜けるのは無理そうね。でもタクマ様は14時には戻ってきてもらいたいから……。しょうがないわ。エリーさん達に先に休憩行ってもらいましょう。
「タクマ様、休憩に行ってきてください。それと……エリーさん達はいらっしゃる??」
自分が欲を出したバツなのか?そんな事を考えながら、アンジェリカは休憩を指示する。
そこにミナミが割って入る。
「なに言ってるの?アンジェリカ様、あなたが休憩しに行って!」
「え?でもこんなに忙しいのに私が抜けたら……」
「もうすぐ、セルジュール様やアンナも戻ってくるから大丈夫よ。だから、心配しないでさっさと休憩に行ってきて!」
ミナミが半ば強引にアンジェリカの背中を押す。
気づくと目の前にタクマがいた。
――!?
「じゃ、後はよろしくね~!」
そう言って、ミナミは表に出て行ってしまった。
タクマと二人残されたアンジェリカは少し気まずさを感じる。
最近はお店の事以外でまともに話をしていないのだ。
先に口を開いたのはタクマだった。
だが、それは大きなため息だったので、アンジェリカはショックを受けた。
「あの!私、全然一人でも平気なので!あっ!セシリオ様が空いてるって言ってたから、これから合流しようかしら。では、また後程……」
アンジェリカは早口で言うと、その場を後にした。
意気地がないのはわかっているが、これ以上耐えられない。
「……待って!アンジェリカ様!」
タクマがアンジェリカを呼び止める。
「セシリオ様とはその……約束しているの?もし、しているわけじゃないのなら、一緒にまわりませんか?」
――えっ??まさかタクマ様の方から誘ってくださるなんて!
「あっ……もちろ」
アンジェリカは戸惑いながらも当然”はい”と答えるつもりだった。
「タクマ~!今休憩??だったら一緒にまわろうぜ」
タクマの休憩を待っていたかのように、タクマの友人たちが数人押し寄せて来た。
「あれ?もしかしてこっちの女の子と回るつもりだった~?」
だがそう軽口を言った友人は、その侍女姿の女の子の顔を見てびっくりする。
「え?なっ!アンジェリカ様??」
「……そう言えば、一緒にお店やるって言ってたな」
あせる友人たちの中から、一人強気な態度で前へ出る者が居た。
「まあ!アンジェリカ様でしたとは!あまりにもお似合いで気づきませんでしたわ」
その友人はアンジェリカだとわかってもひるむどころか、挑発するような発言をしてきたのだ。
自分で言うのもなんだが、公爵家の自分にこんなあからさまな皮肉を言ってくるなんて、私が反撃しないと思っている者(セルジュール等)、もしくは貴族社会に疎い新参者か。
「私、ロナハウル男爵家の長女、ユミル・ロナハウルですわ。以後お見知りおきを。」
「ユミル様、ここは学園ですからそんな畏まった挨拶は結構ですわ。……それに私、あなたの事は以前から存じ上げていますわ」
「え??」
まさか自分の事を知っているとは思わず、ユミルは思わず声をあげてしまう。
「お父様の代で貿易事業が大成功したようで、羨ましいですわ。しかしながら、ロナハウル家は女3姉妹でしたわね。せっかく頂いた爵位ですのに、一代限りで返上する事になってはお父様も残念に思いますでしょうね。きっと、しっかり者の長女が、婿養子になってくれる殿方を探してきてくれることを楽しみにしてらっしゃるのではないかしら?」
「なっつ!何ですって!」
ユミルの父は元商人でお金で爵位を買ったが、娘しかいなくて爵位を引き継げないから、学園でお婿候補を探しているのだ。
以前、ミナミがタクマにちょっかいを出している令嬢がいると聞いて密かに調べておいたのだ。
憤慨するユミルを横目に「では私はこれで」と踵を返し、その場を去るアンジェリカだった。
――はあっ。ライバルをけん制する前にやることあるでしょってね……。
結局、タクマと一緒に学園祭を回るチャンスを自ら棒に振ってしまった。
何をやっているのか。
――でも……。こんな陰気で性格の悪い女、タクマ様に似合わないわ。
それならば、多少厚顔無恥でも、素直にアピールしているさっきの彼女の方がまだましかもしれない。
タクマ様と一緒にいれば、あのひん曲がった様な性格もきっと変わるだろう。
だって、だって、あのセルジュールだって、タクマ様と仲良くなってからだ。
あんなに周囲に優しくなったのは……。
そこまで考えて、アンジェリカはまた大きなため息をつく。
――最悪だ。
「あの……アンジェリカ様」
振り向くとセルジュールが居た。
一番見たくない顔だ。
心の中でアンジェリカが毒づく。
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