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乙女ゲームの主人公に転生したはずなのに悪役令嬢がみんなに愛されて過ぎていて私はほっておかれています。  作者: としろう


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学園祭2 家族

――完全に堕ちたわね。


遠目で見ていたミナミは、完璧にセシリオが猫耳セルジュールにメロメロになったのを確信した。


「あっ!アンジェリカ様!うまくいきましたね!アンジェリカ様発案の猫耳作戦成功ね!」

ミナミは嬉しそうにアンジェリカに耳打ちする。

「……えっええ。そうね……。本当に良かった」

そう話すも、アンジェリカはどこか浮かない顔をしていた。


自分が発案した作戦が成功したのに、あまり嬉しそうに見えないアンジェリカをミナミは不思議に思った。

それにセルジュールがセシリオと上手くいけば、アンジェリカの断罪への不安要素がひとつ減ることにもなるのに。

「嬉しくないの??」

「え?!なぜ?!嬉しいに決まってますわ!!」

必要以上に強く否定するアンジェリカは、動揺しているようにも見えた。


「アンジェリカ様、何か……」



「まあお姉様!いったい何って格好をされているの!!」


ミナミがアンジェリカに何かあったか聞こうとしたその時、甲高い声が聞こえてきた。


「……ルナにどうしてもとせがまれて来たが……。その恰好はいったいどうしたものか」

髭を蓄えた恰幅の良い男がため息をつく。

その腕に甘えるように腕を絡ませる美少女は、さっき甲高い声でセルジュールを批判していた少女だ。

その横には扇子をかざしたプラチナブロンドの貴婦人もいた。


「……お父様、お母様、それにルナも」

セルジュールが消え入るような声で答える。

どうやらセルジュールの家族が来たようだった。

しかしながら、あまりいい雰囲気とは言えなかった。


「なんってことなの?!仮にもヘッドレンド家の長女ともあろうお姉様が下女の真似事だなんて!本当に恥ずかしいったらないわ。妹の私まで恥ずかしくなってしまうわ」


姉をバカにしたような態度。

公の場で少しも躊躇しない所を見ると、普段から言い慣れている様だった。


――セルジュールさんの妹?? こんなバカっぽい子が??

ミナミはとてもじゃないが、聡明なセルジュールとこの妹が結びつかなかった。


「ああ、こんな恥さらしの格好をして、婚約者であるセシリオ様が本当にお可哀そう!……ねえ、セシリオ様」

そう言って、ルナジュールはセシリオの方へ行くと、その腕に自分の腕を絡めた。


――はぁ? いくら婚約者の妹でも近すぎじゃないの?!

ミナミはブチ切れそうになった。

だが――。


「ルナジュールさん、何度も言っているが、婚約者でもない男性にこんな事をしてはいけないよ」

セシリオはやんわりと、しかしながら力強くルナジュールの腕を払いのけた。


「それに――」


ゾクっ。


「僕の婚約者を蔑むような発言はやめてくれないか。これからもそのような事があるならこちらも考えないといけないな。それが例え、家族であってもね」

口元に笑みを浮かべながらハッキリとそう言ったセシリオの目の奥はまったく笑っていなかった。


――なっ。嘘でしょ?!


ルナジュールはこの状況に頭が追いつかなかった。


――セシリオ様、いったいどうしちゃったの?


確かにスキンシップを注意されたことは今までもあったが、それは立場上言っているだけだと思っていた。

それに、お姉さまの事だって、私がいくら悪評を吹き込んでも憤慨するどころか、興味を示さなかったのに……。

なんで?何かの間違いかしら?!


しかし、今までに見た事も聞いたこともないセシリオの低い声とその表情から、間違いではないことは明らかだった。


「セシリオ様!ルナは体が弱く、社交経験が乏しい故、少々子どもっぽいところがありまして……どうか寛大なお心を……」

父親のヘッドレンド侯爵が慌ててセシリオに頭を下げる。

同じ侯爵といえど、王の側近で歴史もあるセシリオのシュナイデル家の方がはるかに格上である。

さらに……。


「これはこれは、ヘッドレンド侯爵、お久しぶりです」

「リュークリオン殿下!ランフォース殿!」

リュークリオンとランフォースが彼らの前に現れる。


「セルジュール嬢はとても聡明ですね。仲間への指示も的確で安心して任せられる」

「殿下からそのような言葉をもらえて、親として鼻が高いです」

先ほどとはうって変わって、セルジュールを褒める態度にミナミは開いた口がふさがらない。

「ところで……」


ゾクっ。

またしても悪寒がする。


「この格好は、そんなに恥ずかしかな??」


リュークリオンが笑顔でヘッドレンド侯爵に問いかけるが、もちろん目は全く笑っていない。

もちろん、ランフォースも後ろから圧をかけることを忘れない。


「いっいえ!まったくもってそんな事はありません!!」

「ええ!とても素敵ですわ!!ねえ!あなた!!」


ひきつった愛想笑いを浮かべると直ぐに「用事を思い出した」と言って、侯爵達は行ってしまった。

ルナジュールは最後まで不満げな顔をしていたが、そこがさらに自分の浅はかさを周りに露呈させているとは思ってもいない事だろう。


「さあ、仕事に戻ろうか」

リュークリオンがランフォースの背中を叩き、それに呼応するように周囲も仕事に戻っていく。


――お二人には後で改めてお礼を言わなくては。

セルジュールは、まさかリュークリオン達が自分を庇ってくれるとは思いもよらず、不思議な感覚だった。


――いや、むしろ今まで誰かに庇ってもらったことなんで……。



「セルジュール?その……大丈夫かい??」

セシリオが心配そうに、だがどこか遠慮がちにセルジュールの顔を覗き込む。

先ほど父親たちに睨みを利かせていた人と、とても同一人物とは思えない。


初めて会った日、緊張で泣き出しそうな自分を心配そうにのぞき込むあの少年と、今、目の前にいる青年の表情が重なった。


――ああ、やっぱり私はこの人が好きだ。


自分がどれだけみじめになろうが悪評がつこうが、諦められないし割り切れもしない。

どんなにバカげた格好だって、少しでも希望があれば藁にでもすがる思いで着る。


さっき、自分を庇ってくれて、ルナにハッキリと言ってくれて、どんなに嬉しかったか。

セルジュールはセシリオに感謝の気持ちを伝えなければならないと思った。


「セシリオ様……大好きです」


「――えっ?」


トスっ。

本日2本目の矢がセシリオを射抜く。



「あ!えっと!違います!いや……違わないのですけど!その、感謝の気持ちを伝えたくて……あれ?私ったら一体何を言って??」


顔を真っ赤にして大慌てで訂正するセルジュールと、同じく顔を真っ赤にして固まるセシリオ。




――やれやれ、とりあえず、一組成立ってことかな。


その傍らで完全にモブなパトリオットは、ゆっくりと紅茶とアップルパイを堪能するのだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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