それぞれの思いを抱え、いよいよ本番へ。
衣装合わせも終え、学園祭の準備は順調に進んで行った。
「アンジェリカ様、ここのことなのですが……」
「ああ、それなら……そうね、私よりミナミさんの方が詳しいから、ミナミさんに聞いてくれないかしら?」
アンジェリカはそう言うと、軽く微笑んで行ってしまった。
「いかがなさいました?セルジュール様?」
動こうとしないセルジュールを不思議に思い、エリーが尋ねる。
「いえ、何でもないわ。ミナミさんはどこかしら?」
「私、探して来ますね」
そう言って去って行くエリーの背中をぼんやり見ながらセルジュールは考える。
――アンジェリカ様が、どことなく、冷たい。
なんとなくだが、自分を避けている。
いや、でも今まで自分のしてきた事を思えば当然か。
むしろ、露骨に冷たい態度をせず、表面上は何事もなく接してくれるだけありがたいと思うべきだろう。
よくよく考えれば、公爵家の立場を利用して私に報復もできるのに。
「仲良くなれるかもなんて、むしが良すぎる話よね……」
「セルジュール様?何かおっしゃいましたか?」
スザンヌが聞き直すが、セルジュールは、「いえ、何でもないわ」とだけ答えるのだった。
「なんだか最近、アンジェリカ様の様子がおかしいと思わない??」
ランナがミナミに尋ねる。
「そう?」
「そうよ!だって、タクマ様の衣装について話題を振ってみても、素敵ねって返すだけだなんて」
確かに、そう言われるとそうだなっとミナミも思う。
今までのアンジェリカなら、もっとあーだーこーだーと、いかにタクマが素敵かを聞いてもいないのに話し出していただろう。
だが、最近のアンジェリカはこちらが言わないとタクマの話をしてこない。
しても、さっきランナが言ったような反応で終わってしまうのだ。
「……予想以上に模擬店の準備が忙しいからね。アンジェリカ様もそうなんじゃない?」
「そうかしら?だとしたら、私ももっと役に立てるように頑張るわ!」
「ランナは十分役にたってるから。あっ、このお菓子のトッピングなんだけど……」
模擬店の準備は予想以上に忙しかった。
ただ、ミナミもアンジェリカの変化には気づいていたが、前世の事が関係しているのかとも考え、ランナにはごまかしてしまった。
ーまた、一人で葛藤しているのかしら?
そして、正直なところー。
「おい」
「……」
明らかにミナミを呼ぶその声に、ミナミは返事できないでいた。
リュークリオンへの気持ちを意識した途端、今までの様に上手く接することができないでいた。
「おい、聞こえてるんだろう?」
コバルトブルーの瞳がミナミを捉える。
その瞳には少し苛立ちが滲んで見える。
「私は、”おい”なんて名前じゃありません」
つれなくするミナミに、リュークリオンはますますイラ立つ。
「ミナミ・ランクレッド!!これでいいか?」
「……なんでしょう?」
やっと返事をするミナミにため息をして、リュークリオンが話し始める。
「ここなんだが、これは実際どうするんだ?」
「……これでしたら、そこにいるランナの方が詳しいのでランナに聞いてください!」
「は?しかし……」
そこへ、ちょうどエリーがミナミを見つけて声を掛ける。
しかしながら、直ぐに隣の男性が皇太子だと気づき、遠慮する。
「お話し中にも関わらず、失礼しました」
そう言って、エリーが立ち去ろうとするが、ミナミがそれを制す。
「いいのよ。リュークリオン様との話はもう終わってるから。では、リュークリオン様失礼します。」
そう言って、戸惑うエリーを促し、ミナミはセルジュールのもとへ向かった。
残されたリュークリオンは訳が分からなかった。
――何なんだ?私が何かしたか??
「あの……リュークリオン様?私でよければご説明しますが……」
ランナが申し訳なさそうに、リュークリオンに声をかけると、リュークリオンははっとしたように、「ああ、頼む」と返事をした。
ー別に、詳しい者がそれに答える。ミナミは何も間違った事はしていない。
そう、ランナがリュークリオンの質問に答え、ミナミはセルジュールの所へ行く。
至極効率的で当たり前の事だ。
それなのに、なんなのだろうか、この喪失感は。
そもそも、こんな些細なこと、たいして気になったわけではなかった。
なら、私は一体何が気になったんだ?
靄がかかったように晴れない気持ちを抱えるリュークリオンだった。
そして、必死に説明するも、どこか上の空のリュークリオンを見て、申し訳なさといたたまれなさを感じるランナであった。
ーミナミのおバカ!なんで行っちゃうのよ!!
それぞれの思いを乗せて、いよいよ学園祭が始まるのだった。
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